ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第六章・炎と水と

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 依頼の内容を聞いた勇三は、霧子たちがただの暇つぶしでボードゲームに興じていたわけではないということがわかった。彼らは勇三だけではなく、レギオンが作戦を行う範囲に接近してくるのも待っていたのだ。

 数時間前に行われた戦闘で、<特務管轄課>が取りこぼしたレギオン一体の討伐。それが今回の任務だった。

「比較的小型で素早いやつが<特課>の包囲網を抜けてな。そのうちの一体がいま、おれたちのちょうど真下の区域に潜伏しているらしい。だから闇雲に探し回るより、監視の網にかかるのを待っていたんだ」トリガーが端末を操作しながら言う。
「また高岡たちの尻ぬぐいかよ」
「ぼやくなよ。それがおれたちのメシのタネだ。これは二十分前の映像だ」

 勇三と霧子、それに輝彦の三人が肩を寄せ合うようにして注目する画面に、街路を俯瞰で捉えたアングルが映し出される。すっかり馴染み深い緑がかった監視映像の中を、黒い影が尾を引くような猛スピードで横切っていく。
 トリガーは停止した映像を細かく巻き戻すと、レギオンの姿を画面の中心に据えた。それから別のウィンドウで、この怪物の詳細情報を表示する。
 彼が「比較的小型」とは言ったが、平均体長は二メートル前後、体重は百五十キロ前後ある。肉厚な脚部を持った四足歩行型で、頭部は目鼻の存在しない巨大なくちばしのような形状をしていた。

「こいつを追いかけるのか?」
「いや、普通に走っても追いつける相手じゃない」トリガーはさらに画面を切り替え、バリケードが築かれた街路を映しだした。「ここで待ち伏せを行う。まえにナーガ級からバイクで逃げただろう。あのときの作戦を、今回はおれたちだけでやる」

 脳裏に山のように巨大なレギオンの姿がよみがえる。
 勇三は無意識のうちにこぶしを握りしめていた。あのときの記憶は、とても忘れられそうにない。今回は相手が違うと言っても、それを思い出すきっかけとしてはじゅうぶんだった。
 輝彦の向ける感心したような視線が、平静を保っていられる一助にもなった。

「作戦は単純だ」トリガーは続けた。「まずはニンフズが付近でレギオンを見つけ、このポイントまでおびきよせる。そこを勇三と輝彦が叩く」
「叩くって……どうやって?」
「バリケードは道を塞ぐように張ってあるが、そこまで高くは築いていない。身軽なニンフズとレギオンなら飛び越えられるはずだ。おまえたちふたりはバリケードの反対側に待機して、ニンフズの合図に合わせて攻撃を仕掛けろ。宙を飛んでいるあいだ、標的は自由に動けないし、着地する場所も予測できるはずだ。それでもタイミングはシビアだろうがな……事態は急を要する。いまの手持ちの武器や装備ではこれが精一杯だ。あとは我々のチームワーク次第と言ったところか」
「いつもながら無茶な作戦ばっかだな」
「『天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず』」嘆く勇三の隣で、輝彦がそう呟いた。
「いきなりなんだよ?」
「孟子か」いっぽうでトリガーは頷いていた。
「本来の意味合いとはちょっとずれますけどね」
 トリガーは眉根を寄せる勇三に向き直ると、「偶然がもたらす幸運よりも状況、状況よりも人の団結が大切ってことだ」
「わかんねえな。けっきょく今回だって最後は運次第じゃねえか」

 意気投合するトリガーと輝彦に、勇三は深くため息をついた。

「わたしもひとつ思いついたぞ」三人の会話に割り込んだのは霧子だった。「『成せば成る、成さねばならぬ何事も』だ。いずれにしろ、さっさと終わらせよう」
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