ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第六章・炎と水と

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 輝彦は顔の高さまで持ち上げた武器を見つめた。その動作は、重々しさなどまったく感じさせない。

「こいつの柄の中には反物質を転用した装置が組み込まれている。そのおかげで武器自体の重量を相殺し、なおかつ水を特定の形状に安定させる効果を持つんだ」首を傾げる勇三に輝彦は続けた。「つまり、その装置のおかげで羽根みたいに軽くなるってことだ」
「だが見たところ、攻撃したときの衝撃は相当のものだろう?」五トン以上あるという武器を、まるで小枝でも扱うかのように振ってみせる輝彦に霧子は言った。
「ええ、使いこなせるようになるまで、だいぶ練習しました」
「まるで魔法だな……」勇三は言った。「なんでもありかよ、この世界は」
「高度な科学ってやつは、魔法と見分けがつかないらしい」霧子が肩をすくめながら答える。「まえに読んだ本にそう書いてあった」
「なんだっていいよ」勇三は首を横に振りながらため息をついた。「とにかく……テル、その物騒なものこっちに近づけるなよ。見た感じ、触っただけでヤバそうだ」
「危険だって言うなら、刃物や銃だって同じだろ。要は扱う人間次第さ。心配するなよ、これで結構役に立つぞ。こんな機能もあるしな」

 輝彦がそう言って柄の外側についている突起を親指で押すと、剣でいう鍔の部分から金属製の覆いが飛び出し、根元から下半分を、峰の部分を残して滑らかな表面で包んでいった。同時に柄が角度を変えながら伸びていき、まるで銃把のように彼の手の内におさまった。

「ライフルモード」輝彦がいたずらっぽい笑顔を覗かせる。「カッコいいだろ?」

 勇三はそれには答えないまま、友人が手にする武器を見つめていた。
 そして理解していた。あの雨の日、学校のグラウンドを逃げるレギオンを撃ち抜いたのはこの武器だったのだ。思い返してみれば、怪物の背中にできた真新しい銃創には、焦げたような跡もなかったし、狙撃の前後で発砲音も聞こえなかった。
 勇三ははじめ、それが毒ガスによって意識が朦朧としていたか、あるいは雨のせいで感覚が鈍っていのだと思っていたのだが、いまなら勘違いだったことがわかる。

「水鉄砲……」勇三の感想はそのひとことだった。
「そう言われちゃしまりがないけど、まあそんなところかな」輝彦が苦笑する。「高圧力で水を発射するんだ。有効射程距離は五百メートル前後。さっきこいつを水圧カッターみたいだと言ったけど、原理としてはこのほうがより近いかもな」
「狙撃も任せられるのか。これは頼りになるな」そう話す霧子の笑みは、いよいよこぼれんばかりだ。
「ちなみに、ライフルモードのときは外装にも反物質の作用が働いていて、使用者を保護すると同時に刀身部分からの干渉も抑制して――」
「わかったわかった!」勇三は輝彦の言葉を遮った。「その武器が凄いのはわかったからさ、とにかくもう行こうぜ」

 それから勇三は、ひとりで昇降機への先陣を足早にきった。いまの輝彦はまるで自分のおもちゃを自慢する子供だ。その様子には、学校ではおよそ見られないような無邪気さがにじんでいる。

 友人のあらたな一面を次々と見せられ、勇三はいよいよ辟易していた。

 ぽん、と誰かが背中を叩いてくる。見ると、隣に霧子が立っていた。
 眉根を寄せる勇三を見つめながら、彼女はかすかに微笑んだまま、ゆっくりと頷いてみせた。
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