ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第六章・炎と水と

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 血しぶきが霧となって散り、レギオンであったものがバリケードの残骸の一部に変わると、輝彦は愛用の武器を肩に担いだ。

「驚いたな」頬についた血を拭いながら訊ねてくる。「火事場の馬鹿力ってやつか? それにしても――」
「いまは言えない」勇三は遮るように言うと、輝彦に向かってにやりと笑ってみせた。「ただ、おれもそうだな……それなりな秘密があるってことだ」

 まず驚き、次に興味をしめし、最後に落胆と不愉快そうな顔。輝彦のそうした表情がこれまで自分が浮かべてきたものとそっくりだったことに気づき、勇三は安堵と親近感をおぼえた。<グレイヴァー>であることを知ったあとではじめて、輝彦が変わらず友人であることを実感できたからだ。

 溜飲を下げるというよりも、勇三の意趣返しは和解という点においてなによりも効果があった。

 輝彦は両手を上げて首を横に振ってみせると、「まいったな。けど『いまは』ってことは、いつか話してくれるってことでいいんだろ?」
「そのうちな」

 勇三はそう返事すると、このやりとりを微笑みながら見ていた霧子に向き直った。

「それにしても霧子、おまえこそさっきのはなんだったんだよ?」
「なんていうか……まあ切り札みたいなものかな。全力じゃなかったが」

 霧子が言っていた『三割』というのは、そのことなのだろうか。

「おまえからもまだ色々訊く必要がありそうだな」

 呆れながら言う勇三に、霧子は無言の笑みで答えた。切り札を使った直後の気怠るそうな様子からも、少しは持ち直しているようだ。

「三人とも気をつけろ! 新手が来るぞ!」

 耳元でトリガーの怒鳴り声が爆発したのはその直後だった。同時に、勇三は首筋が逆立つような感覚に襲われる。

 背後を振り返り、目を見張る。
 視界に飛び込んできたのは鱗に覆われた巨体と白いたてがみ、そして落ち窪んだ眼窩をもつ巨大な顔。
 勇三が初めて<アウターガイア>で遭遇したレギオン、人面竜が、暗闇の中に音もなく佇んでいた。

 三人が身構えるなか、巨体に見劣りしないたくましい足が一歩踏み出す。

 だが襲いかかってくるかに見えたその直後、怪物は地響きとともに地面へと倒れこんだ。地面に腹這いになってこちらに向ける虚空の眼からは、なんの感情も汲み取ることはできない。

「いったいなにが……」

 驚けばいいのか、うろたえればいいのか。勇三は持て余すように銃口を揺らすことしかできなかった。

 と、次の瞬間。暗闇を鋭い光が閃いたかと思うと、大気を撃つような快音が響き、直後にレギオンの身体が縦半分に断ち斬られていた。

 目の前で縦半分に割れた怪物の亡骸の向こうから、誰かがこちらへ歩いてくる。同時に金属的な高音も、その方向から聞こえてきた。音は、地下世界を歩くその人物が近づくにつれて徐々に大きさを増していった。

 あらわれたのはひとりの女性だった。その手には一振りの刀が握られている。
 だがもっとも勇三の関心を引いたのは、その刀自体ではなく聞こえていた音がさらに大きくなっていることだった。

 音は間違いなく、あの刀から発せられていた。

 緊張をみなぎらせる三人の目の前で、剣を携えた女性は獰猛に歯を剥くような笑顔を見せた。
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