ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第七章・世界は優しい嘘に包まれて

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   Ⅰ


 彼女が<グレイヴァー>の規約の境界線上を歩くのはこれが初めてではなかった。

 あるときは強敵と恐れられるレギオン相手に腕試しをしてみたくて、またあるときはいけ好かない連中の鼻をあかしてやりたくて、彼女は<アウターガイア>の掟に触れるぎりぎりの行動をとり、倫理的な領分を侵した。
 そのいちばんの理由は、純粋な悦びからだった。彼女はいわば生粋の狩人……それもレギオン専門の狩人としての性質を持ち、怪物との命のやりとりと、それに打ち勝つことにこそ無上の達成感を求めていた。

 この日も<特務管轄課>のとりこぼしの始末という、けして大口とは言えない仕事内容にも関わらず、彼女は嬉々としてレギオンたちを斬り伏せていった。手にした新しい刀の存在も、闘争心に拍車をかけた。
 彼女の横を一頭のレギオンがすり抜けていったのは、そんな仕事の最中のことだった。目の前の獲物に止めを刺した彼女は、深い考えも無しに肥大化したトカゲのような怪物のあとを追った。
 歩幅と速度こそ違うものの、全身に負った深手と巨体を動かすために膨大なエネルギーが必要であることが災いし、レギオンの速度は見る間に落ちていった。いっぽうで彼女の俊足は疲れ知らずで、すぐに歩調の乱れた怪物に追いつくことができた。

 振るった刀は恐るべき切れ味を誇り、並の弾丸なら弾かれてしまうレギオンの肉体を簡単に削りとっていった。傷を負うたびにレギオンが苦悶の叫びをあげ、同時に自らの刀が甲高い音をあげた。
 そうしてとうとう力尽き、歩みを止めたレギオンを、彼女は一片の慈悲も持たないまま縦半分に斬り裂いた。

 血風の残り香が舞うなか、呼気の中に怪物の命の断片を嗅ぎ取ることができる。そうして顔を向けた先に、三人の同業者がいた。
 ふたりはまだ成人すらしておらず、残りのひとりにいたってはあどけない少女と言ってよかった。

 その少女……二丁の拳銃を携え、こちらを油断なく見つめるその姿を目にした直後、レギオンを殺したときに感じた昂りは跡形もなく消え去っていた。

 あるのは、思わぬ再会に対する更なる歓喜だけだった。

 懐かしい顔だった。彼女は、少女のことを知っていた。
 下腹部あたりから突きあげた〝喜び〟が胸元で〝悦び〟へと変わったとき、彼女はその美しい口元を歪めて獣じみた笑みを浮かべた。
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