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第七章・世界は優しい嘘に包まれて
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Ⅱ
勇三に警告を飛ばすよりも早く、突如現れた女剣士がこちらに突進してくる。
タイトなジーンズとロングブーツを履き、腰に巻いた革ベルトに西部のガンマンよろしく鞘を差していた。羽織った純白のロングコートの存在感はじゅうぶんだったが、それ以上に目を引いたのは、ひとまとめに束ねられた長い銀髪だった。<アウターガイア>の暗闇の中にあっても、くせのある豊かな髪は女剣士が歩を進めるたびに跳ね、輝きを放った。
だが、本当の狂気は彼女の右手に握られていた。甲高い悲鳴のような音をあげる冷たい白刃。
輝彦は勇三と女剣士のあいだに立つと、大上段から繰り出される刀を逆袈裟で迎え撃った。
刃と刃がぶつかり合う。
相手の気勢を削ぐ手ごたえを感じた輝彦だったが、結晶を思わせる反響音とともにはじかれたのは自分のほうだった。女剣士も手に仰け反るような姿勢をとっていたが、その顔には相変わらず笑みが貼りついていた。刀は静寂を取り戻していた。
いっぽうで、輝彦の顔には焦りが浮かんでいた。
彼の武器エンデュミオンは普段こそ重力を相殺しているものの、インパクトの瞬間にはその重量を一点に解放する。極大な質量を解放するこの武器と真っ向からぶつかり合えば、本来吹き飛ぶのは相手のほうである。
輝彦はいま、目の前でその前提が覆されたことに驚きを隠せなかった。
『百花繚乱』
動揺しながらも姿勢を立て直す輝彦の視界いっぱいに、そう書かれた筆文字が飛び込んでくる。
それが身を翻した女剣士の背中にあつらえられたものだと理解するよりも先に、強力な後ろまわし蹴りが胴体に突き刺さった。
日々の鍛錬とレギオンの死闘で培われた肉体を貫くような衝撃が襲いかかる。肺を絞られる息苦しさとともに、輝彦は後方へと宙を舞っていた。着地と同時に膝から崩れ落ちると、涙で視界がかすみ、のたうちまわりたくなるような鈍痛が体内に居座った。
「テル!」
敵に背を向けて駆け寄ろうとする勇三を制止する声もあげられない。友人の向こうでは女剣士が追撃をするでもなく、こちらを見下ろすように佇んでいた。
(おかしい……)脂汗をにじませながら輝彦は思った。(この女の戦い方、まるで……)
違和感をおぼえた直後、女剣士が勇三の背中に刀を振り上げる。
街灯の光を浴びて刃がきらめいたかと思うと、金属同士がぶつかり合う衝撃音があたりに響きわたった。
女剣士の無造作な一撃を止めたのは、勇三とのあいだに割って入った霧子だった。
女剣士と拳銃使いの少女は、お互いの武器同士によって結びついていた。
「どういうつもりだ?」弾倉の底で刃を押しとどめる霧子の声音には、怒りがありありとあらわれていた。
女剣士が笑みを崩さぬまま、助走も無しに二メートル後ろに飛びのく。その身体能力以上に恐ろしかったのは美しさだった。白い肌にくっきりとした顔立ち、目にはらんだ狂気までもが、彼女の美貌を底上げしている。
女剣士の右手がかすんだかと思うと、横様から刀が一閃した。距離を縮めるべく飛び出した霧子は、左手に握った銃でそれを受け止める。
寸分の狂いで首が飛ぶような攻撃をかわすと同時に、霧子の右手の銃が火を吹く。しかし女剣士はわずかに身を逸らすだけで、二発の弾丸をかわした。
拳銃使いと剣士が一息に距離を詰め、密着する。身長差こそあるものの、ふたりは胸を突き合わせるように対峙した。
勇三に警告を飛ばすよりも早く、突如現れた女剣士がこちらに突進してくる。
タイトなジーンズとロングブーツを履き、腰に巻いた革ベルトに西部のガンマンよろしく鞘を差していた。羽織った純白のロングコートの存在感はじゅうぶんだったが、それ以上に目を引いたのは、ひとまとめに束ねられた長い銀髪だった。<アウターガイア>の暗闇の中にあっても、くせのある豊かな髪は女剣士が歩を進めるたびに跳ね、輝きを放った。
だが、本当の狂気は彼女の右手に握られていた。甲高い悲鳴のような音をあげる冷たい白刃。
輝彦は勇三と女剣士のあいだに立つと、大上段から繰り出される刀を逆袈裟で迎え撃った。
刃と刃がぶつかり合う。
相手の気勢を削ぐ手ごたえを感じた輝彦だったが、結晶を思わせる反響音とともにはじかれたのは自分のほうだった。女剣士も手に仰け反るような姿勢をとっていたが、その顔には相変わらず笑みが貼りついていた。刀は静寂を取り戻していた。
いっぽうで、輝彦の顔には焦りが浮かんでいた。
彼の武器エンデュミオンは普段こそ重力を相殺しているものの、インパクトの瞬間にはその重量を一点に解放する。極大な質量を解放するこの武器と真っ向からぶつかり合えば、本来吹き飛ぶのは相手のほうである。
輝彦はいま、目の前でその前提が覆されたことに驚きを隠せなかった。
『百花繚乱』
動揺しながらも姿勢を立て直す輝彦の視界いっぱいに、そう書かれた筆文字が飛び込んでくる。
それが身を翻した女剣士の背中にあつらえられたものだと理解するよりも先に、強力な後ろまわし蹴りが胴体に突き刺さった。
日々の鍛錬とレギオンの死闘で培われた肉体を貫くような衝撃が襲いかかる。肺を絞られる息苦しさとともに、輝彦は後方へと宙を舞っていた。着地と同時に膝から崩れ落ちると、涙で視界がかすみ、のたうちまわりたくなるような鈍痛が体内に居座った。
「テル!」
敵に背を向けて駆け寄ろうとする勇三を制止する声もあげられない。友人の向こうでは女剣士が追撃をするでもなく、こちらを見下ろすように佇んでいた。
(おかしい……)脂汗をにじませながら輝彦は思った。(この女の戦い方、まるで……)
違和感をおぼえた直後、女剣士が勇三の背中に刀を振り上げる。
街灯の光を浴びて刃がきらめいたかと思うと、金属同士がぶつかり合う衝撃音があたりに響きわたった。
女剣士の無造作な一撃を止めたのは、勇三とのあいだに割って入った霧子だった。
女剣士と拳銃使いの少女は、お互いの武器同士によって結びついていた。
「どういうつもりだ?」弾倉の底で刃を押しとどめる霧子の声音には、怒りがありありとあらわれていた。
女剣士が笑みを崩さぬまま、助走も無しに二メートル後ろに飛びのく。その身体能力以上に恐ろしかったのは美しさだった。白い肌にくっきりとした顔立ち、目にはらんだ狂気までもが、彼女の美貌を底上げしている。
女剣士の右手がかすんだかと思うと、横様から刀が一閃した。距離を縮めるべく飛び出した霧子は、左手に握った銃でそれを受け止める。
寸分の狂いで首が飛ぶような攻撃をかわすと同時に、霧子の右手の銃が火を吹く。しかし女剣士はわずかに身を逸らすだけで、二発の弾丸をかわした。
拳銃使いと剣士が一息に距離を詰め、密着する。身長差こそあるものの、ふたりは胸を突き合わせるように対峙した。
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