ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第七章・世界は優しい嘘に包まれて

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「ああ、すっきりした!」そう快哉を叫びながらやってきたのは啓二だった。
「ふたりとも、お待たせ」広基もその後ろからついてくる。

 曖昧な表情で出迎える勇三と輝彦をよそに、啓二が身を乗り出して距離を詰めてくる。

「なあなあ、今日みんなでどっか行こうぜ。期末試験まで時間ないし、やっぱいまのうちに遊んどかないとさ」
「啓二、中間テストのときもそう言ってたよね」
 傍らから言う広基に向き直ると、「当たり前だろ。で、テスト勉強もみんなでやるぞ!」

 このやりとりを眺めながら勇三は、一緒に帰る約束をしていたふたりに霧子のことをどう話を切り出そうか考えていた。だが、先に動いたのは輝彦だった。

「悪い、ふたりとも。ちょっとおれたち、予定ができたんだ」

 輝彦の言葉に啓二の笑顔がみるみるしぼんでいく。

「またバイト?」広基が訊ねる。
 輝彦は頷くと、「仕事ってわけじゃないんだけど、急に呼び出し食らっちゃってさ」

 同じ<コープス>に入ってからといもの、輝彦と勇三はふたりだけで行動する機会が増えていた。そしてあらぬ疑いを持たれぬよう、啓二と広基にはふたりで同じアルバイトをはじめたと説明していた。

「またあのきついバイトかよ」啓二が口をとがらせながら言う。

 くわえて、ふたりには勇三たちのアルバイトが過酷な肉体労働ということにしていた。そうすれば、時間を持て余した啓二が自分も働こうなどと言わせない予防線になったからだ。勤務時間が不定期だとも言っておいたので、急に依頼が舞いこんできても怪しまれずに抜け出すことができた。

「悪いな。また今度」

 そう言って立ち去ろうとする輝彦のあとを、勇三も黙ってついていく。

「いってらっしゃい」

 ふたりの背中にそう声をかけたのは広基だった。振り返ると、啓二も不承不承といった様子で片手を挙げている。

「輝彦……」廊下を歩きながら、勇三は隣の友人を見た。
「ふたりには悪いけど、ああでも言わないと切り抜けられそうになかったからな」
「けどよ……」

 勇三は下唇を軽く噛んだ。

「いまは霧子さんが心配だ。それに、<グレイヴァー>のことは誰にも知られちゃいけない。これはおれたちのためだけじゃないんだ」
「啓二と広基のためでもあるんだろ。わかってるよ」

 輝彦が頷いてみせる。
 勇三も彼の言い分を理解できないわけではなかったが、それでも友人たちに嘘をつくことに対して心苦しさは残った。
 もっとも、自分が輝彦のようにすいすいと嘘を並べ立てられたかどうかも怪しいものだ。ふたりの友人……とくに啓二が疑いのなかで好奇心を抱かないようにできたという点では、輝彦の機転はありがたかった

「まったく、霧子とトリガーには手を焼かされるよな」心の曇りを吹き飛ばすように、勇三はつとめて明るく言った。「まあ、こうなったら早いとこ店に行こうぜ」
「ああ。トリガーさんが保健所に連れていかれても面白くないからな」
「おまえ……」勇三は輝彦をまじまじと見つめた。「ときどき涼しい顔して恐ろしいことさらっと言うよな」
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