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第七章・世界は優しい嘘に包まれて
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Ⅴ
「ほんっと勇三と輝彦のやつ、最近付き合い悪いよな!」
「仕方ないよ。ふたりとも忙しいんだから」
「あーあ。おれもバイトはじめようかな。勇三たちと同じところ受けてさ。広基も一緒にやろうぜ」
「おれは、弟たちの面倒見ないといけないから……それにかなりきついんじゃなかったっけ、勇三たちのバイト?」
「だよな。やっぱやめるか……まあ」と言って、啓二がこちらに向き直る。「あいつらがいなくても、悪いことばっかじゃないしな。ね、河合さん!」
同意を求める啓二に、隣にいる友香がにっこりと笑って頷く。このやりとりを、市川サエはどこか冷めた目で見ていた。
「まさか、河合さんと遊べるなんて思ってなかったからさ」上機嫌の啓二は、それからサエにも視線を送ってきた。「あ、もちろん市川とも遊べて嬉しいぜ、おれは」
「なんかそれ、おまけ扱いじゃない? ムカツク……」
「被害妄想だって。クラスメイト同士、この機会に親睦を深めようぜえ」
「キモイ」
そうは切り捨てたものの、サエが啓二たちの誘いを断らなかったのもまた事実だ。
期末テストを前に存分に遊んでおきたい魂胆が見え見えの啓二が声をかけてきたのは、放課後の教室でサエと友香がとりとめのない話で下校を先延ばしにしていたときのことだった。
啓二は駅前のカラオケ店に行くことを提案してきた。
勇三と輝彦が欠けたなかでの人数合わせなのだろうと気が乗らないサエだったが、ちょうど暇を持て余していたことだし、友香の合意もあって誘いにのることにしたのだ。
「勇三も輝彦もあんまり歌いたがらないからさ。無理強いはしたくないけど、わかってほしいよな。カラオケにかけるおれと広基の情熱をさ」
「おれも苦手なほうなんだけど……」広基が困ったように言う。
「たしかに、速水って昔から人前に立ったり、目立つことが嫌いなんだよね」サエは肩をすくめて言った。「いつもむすっとしてさ。というか、じゅうぶん悪目立ちしてるくせに」
勇三のこととなると、いつも口調がとげとげしくなってしまう。
サエ自身そのことはじゅうぶん承知しているつもりだったが、心とは裏腹にいつだって皮肉を口にしてしまう。そうした行動がいかに無意識であるかに気づくたび、サエは自分のことが嫌になり、同時に勇三に対する感情も重々しいものになっていた。
本当は勇三に対する友香の好意を後押ししてあげたいのだが、自分の内に巣食うこの複雑な感情のせいで、いつまでたっても中途半端な手助けしかできない。
(今日は思いっきり歌おう)もやもやとした気持ちを抱えたまま、サエは思った。(きっと来週になったら、テストで気持ちがもっと憂鬱になるはずだから)
だが、世の中の学生たちが考えることは皆同じなのかもしれない。
夏休み前の最後の試練のため英気を養うべく、駅前のカラオケ店は啓二たち一行と同世代の学生たちですでに占領されていた。それも一軒だけではなく、心当たりのある店舗は全滅だった。
「なあ、あれって勇三たちじゃねえの?」
啓二がそう発したのは、そうして空き室を求めて隣駅の近くまで来たときだった。その言葉を耳に、サエの心臓がはね上がる。見ればビル同士の狭い隙間から、制服姿の勇三と輝彦が出てくるところだった。
「ほんっと勇三と輝彦のやつ、最近付き合い悪いよな!」
「仕方ないよ。ふたりとも忙しいんだから」
「あーあ。おれもバイトはじめようかな。勇三たちと同じところ受けてさ。広基も一緒にやろうぜ」
「おれは、弟たちの面倒見ないといけないから……それにかなりきついんじゃなかったっけ、勇三たちのバイト?」
「だよな。やっぱやめるか……まあ」と言って、啓二がこちらに向き直る。「あいつらがいなくても、悪いことばっかじゃないしな。ね、河合さん!」
同意を求める啓二に、隣にいる友香がにっこりと笑って頷く。このやりとりを、市川サエはどこか冷めた目で見ていた。
「まさか、河合さんと遊べるなんて思ってなかったからさ」上機嫌の啓二は、それからサエにも視線を送ってきた。「あ、もちろん市川とも遊べて嬉しいぜ、おれは」
「なんかそれ、おまけ扱いじゃない? ムカツク……」
「被害妄想だって。クラスメイト同士、この機会に親睦を深めようぜえ」
「キモイ」
そうは切り捨てたものの、サエが啓二たちの誘いを断らなかったのもまた事実だ。
期末テストを前に存分に遊んでおきたい魂胆が見え見えの啓二が声をかけてきたのは、放課後の教室でサエと友香がとりとめのない話で下校を先延ばしにしていたときのことだった。
啓二は駅前のカラオケ店に行くことを提案してきた。
勇三と輝彦が欠けたなかでの人数合わせなのだろうと気が乗らないサエだったが、ちょうど暇を持て余していたことだし、友香の合意もあって誘いにのることにしたのだ。
「勇三も輝彦もあんまり歌いたがらないからさ。無理強いはしたくないけど、わかってほしいよな。カラオケにかけるおれと広基の情熱をさ」
「おれも苦手なほうなんだけど……」広基が困ったように言う。
「たしかに、速水って昔から人前に立ったり、目立つことが嫌いなんだよね」サエは肩をすくめて言った。「いつもむすっとしてさ。というか、じゅうぶん悪目立ちしてるくせに」
勇三のこととなると、いつも口調がとげとげしくなってしまう。
サエ自身そのことはじゅうぶん承知しているつもりだったが、心とは裏腹にいつだって皮肉を口にしてしまう。そうした行動がいかに無意識であるかに気づくたび、サエは自分のことが嫌になり、同時に勇三に対する感情も重々しいものになっていた。
本当は勇三に対する友香の好意を後押ししてあげたいのだが、自分の内に巣食うこの複雑な感情のせいで、いつまでたっても中途半端な手助けしかできない。
(今日は思いっきり歌おう)もやもやとした気持ちを抱えたまま、サエは思った。(きっと来週になったら、テストで気持ちがもっと憂鬱になるはずだから)
だが、世の中の学生たちが考えることは皆同じなのかもしれない。
夏休み前の最後の試練のため英気を養うべく、駅前のカラオケ店は啓二たち一行と同世代の学生たちですでに占領されていた。それも一軒だけではなく、心当たりのある店舗は全滅だった。
「なあ、あれって勇三たちじゃねえの?」
啓二がそう発したのは、そうして空き室を求めて隣駅の近くまで来たときだった。その言葉を耳に、サエの心臓がはね上がる。見ればビル同士の狭い隙間から、制服姿の勇三と輝彦が出てくるところだった。
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