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第七章・世界は優しい嘘に包まれて
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「おーい、勇三! テル!」
大声で呼びかける啓二に、サエは内心舌打ちしたくなった。
気づかないでほしいという願いも虚しく輝彦、そして勇三までもがこちらに近づいてくる。
(ああ、わたしは馬鹿だ)歩み寄る勇三から目を逸らしながらサエは思った。(福島たちと一緒にいれば、こいつと顔をあわせる可能性だってゼロじゃなくなるのに)
顔を伏せたまま視線だけあげると、勇三がこちらを向いていた。慌てて地面に目を落とす直前、相手もそっぽを向くのが見えた。
「呼び出しはもういいの?」
その場をとりもつように訊ねたのは広基だった。
というのも、啓二は常々抱いていた不満から、友香は恋心による緊張から、各々かける言葉を見つけられずにいるようだったからだ。かくいうサエ自身も言わずもがなだった。
「ああ、そのことなんだけどな……」いっぽうで勇三の答えも歯切れが悪かった。眉根を寄せながら後頭部を掻く仕草は、サエにとって馴染み深いものだった。「まだ終わってないっていうか、むしろこれからが大変というか……」
「じつは、職場の娘さんの飼ってる犬が逃げ出したんだ」勇三のあとをそう引き継いだのは輝彦だった。「今日呼び出されたのは、その犬を探すためでさ」
「なんだよ、それってバイト関係ねえじゃん」啓二が口をとがらせる。
「わけも言わずに悪かったよ」輝彦は苦笑を浮かべた。「でも、おれも勇三も世話になってるし。娘さんもすごく不安そうだからさ……みんなはどこから来たの? 白い中型犬なんだけど、途中で見なかったかな?」
「おれたち、隣駅からこっちまで歩いてきたけど」と、広基。「犬は見てないな」
輝彦は頷いてから携帯電話の画面に目を落とす。ふと、広基がそんな友人をじっと見ていることに気がついた。その表情を見るにつけ、とある予感がサエの胸をざわつかせた。そして彼が考え、これから口にするであろうことを予想し、それを食い止めたいと思った。
だがサエがなにか口実を思いつく前に、広基は口を開いていた。
「あのさ、その犬探し、おれと啓二も手伝うよ」
「おい、広基!」啓二がすぐさま噛みつく。
「いいじゃない。お店はどこも空いてなかったわけだし。それに、ほっとけないだろ」
「それは、そうだけどさ……」
次いで広基はサエたちのほうをに向き直ると、「ごめん、そういうわけだから。また今度でもいいかな?」
手を合わせる広基に対して、先手を打ったのは友香だった。控えめに手をあげた彼女はこう言った。
「それ、わたしとサエちゃんにも手伝わせてくれないかな?」
「ちょっと友香!」サエは思わず目を剥いた。「なんでわたしたちがそんなこと――」
「でも、きっとその子心配してるよ。日が暮れたら、もっと不安になるかもしれない。そうじゃない? ね、手伝ってあげようよ」
サエは口をつぐんだ。
当然、犬とその飼い主の手助けをすることに異論はない。それよりも彼女が懸念していたのは、勇三と一緒に行動をしなくてはならないことに対してだった。
大声で呼びかける啓二に、サエは内心舌打ちしたくなった。
気づかないでほしいという願いも虚しく輝彦、そして勇三までもがこちらに近づいてくる。
(ああ、わたしは馬鹿だ)歩み寄る勇三から目を逸らしながらサエは思った。(福島たちと一緒にいれば、こいつと顔をあわせる可能性だってゼロじゃなくなるのに)
顔を伏せたまま視線だけあげると、勇三がこちらを向いていた。慌てて地面に目を落とす直前、相手もそっぽを向くのが見えた。
「呼び出しはもういいの?」
その場をとりもつように訊ねたのは広基だった。
というのも、啓二は常々抱いていた不満から、友香は恋心による緊張から、各々かける言葉を見つけられずにいるようだったからだ。かくいうサエ自身も言わずもがなだった。
「ああ、そのことなんだけどな……」いっぽうで勇三の答えも歯切れが悪かった。眉根を寄せながら後頭部を掻く仕草は、サエにとって馴染み深いものだった。「まだ終わってないっていうか、むしろこれからが大変というか……」
「じつは、職場の娘さんの飼ってる犬が逃げ出したんだ」勇三のあとをそう引き継いだのは輝彦だった。「今日呼び出されたのは、その犬を探すためでさ」
「なんだよ、それってバイト関係ねえじゃん」啓二が口をとがらせる。
「わけも言わずに悪かったよ」輝彦は苦笑を浮かべた。「でも、おれも勇三も世話になってるし。娘さんもすごく不安そうだからさ……みんなはどこから来たの? 白い中型犬なんだけど、途中で見なかったかな?」
「おれたち、隣駅からこっちまで歩いてきたけど」と、広基。「犬は見てないな」
輝彦は頷いてから携帯電話の画面に目を落とす。ふと、広基がそんな友人をじっと見ていることに気がついた。その表情を見るにつけ、とある予感がサエの胸をざわつかせた。そして彼が考え、これから口にするであろうことを予想し、それを食い止めたいと思った。
だがサエがなにか口実を思いつく前に、広基は口を開いていた。
「あのさ、その犬探し、おれと啓二も手伝うよ」
「おい、広基!」啓二がすぐさま噛みつく。
「いいじゃない。お店はどこも空いてなかったわけだし。それに、ほっとけないだろ」
「それは、そうだけどさ……」
次いで広基はサエたちのほうをに向き直ると、「ごめん、そういうわけだから。また今度でもいいかな?」
手を合わせる広基に対して、先手を打ったのは友香だった。控えめに手をあげた彼女はこう言った。
「それ、わたしとサエちゃんにも手伝わせてくれないかな?」
「ちょっと友香!」サエは思わず目を剥いた。「なんでわたしたちがそんなこと――」
「でも、きっとその子心配してるよ。日が暮れたら、もっと不安になるかもしれない。そうじゃない? ね、手伝ってあげようよ」
サエは口をつぐんだ。
当然、犬とその飼い主の手助けをすることに異論はない。それよりも彼女が懸念していたのは、勇三と一緒に行動をしなくてはならないことに対してだった。
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