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潜んでました
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イブは眠い目を擦りつつ残りの授業を受けた後、今日も学園聖堂にて神に祈りを捧げる。
聖女教育担当教師の嫌味を受けてから、また膝を床につけて、両手を胸の前で組み合わせて祈り始める。
だが、祈っているのに、ついつい昨日のネオの話を思い出してしまう。
(ふふっ、ネオったら「神は死んだ」なんて面白いわ)
普段なら必死に祈るばかりで何も起こらず、逆に絶望感が募っていく祈りの時間だ。
だが、今日は心が軽かった。ネオが「聖女がいなくてもいい」国を教えてくれたおかげで、気が楽になったのだ。
(私は神はいると思うわ。
だって、ネオに会わせてくれたのはきっと神様ですもの)
聖女の役割を投げ捨てたりはしない。でも、他の道もあると知ることは、重責を少し減らしてくれた。
神に自然と感謝を祈ることができた。雨は降らないけれど。
心安らかに祈ったイブだが、さすがに膝が痺れてきた。床に座り込んで膝を擦りながら聖堂の上の方の窓を見上げる。
「上窓と言っていたけれど、ネオはどの窓から見てたのかしら」
イブが口元を緩めて窓を一枚一枚眺めていると、ひとつの窓に影が映った。鳥とは思えない大きな影だった。
「ネオ?」
イブは立ち上がって、影が見えた上窓の方向へ走った。窓を大きく開いて、イブは顔を覗かせて窓の外の木の上に呼びかけた。
「ネオ?いるの?いるなら顔を見せて」
窓の側の木には葉が生い茂っている。平民街には珍しいが、貴族学園内には葉が茂った木が多い。
庭師のネオが育てた葉に覆い隠され、誰の姿も見えない。返事もないが、イブはもう一度呼びかけた。
「ネオに会いたいと思っては、ダメかしら?」
イブが勘違いだったかと身を引こうとしたとき、木の上でガサガサと音が鳴ってネオが降って来た。
「ダメじゃないです」
イブは身軽にすとんと下りて来たネオの姿を確認して、大輪の笑みを咲かせた。
「やっぱりネオだったわ!」
「見つけないでください」
ネオは窓の外側できょろきょろと周りを見回してから、首の後ろを手で撫でた。
「どうして見つけてはいけないの?」
「その、仕事を置いて来ていて、内緒で見ているのでバツが悪いです」
イブはネオの秘密に思わず笑ってしまった。
「ビクター先生には内緒にしておくわ」
「聖女様にも内緒のはずでした」
「ネオが見てるって教えてくれたのよ」
「それはその、説明上に必要な情報だったので明かしただけで、こんな呼び出されるだなんて夢にも思いません」
ぶつぶつ声が小さくなっていくネオが可笑しくて、イブは笑いが止まらない。イブがひとしきり笑う様子をネオはまじまじ見つめた。
上窓の外からこっそり眺めていた彼女が、今言葉を交わして笑っている光景があまりに非現実的だ。
「堂々と見ていいのよ?雨は降らないけど」
「雨なんて降らなくていいです」
ネオがその言葉を言ってくれるのは、もう何回目になるだろうか。
聖女教育担当教師の嫌味を受けてから、また膝を床につけて、両手を胸の前で組み合わせて祈り始める。
だが、祈っているのに、ついつい昨日のネオの話を思い出してしまう。
(ふふっ、ネオったら「神は死んだ」なんて面白いわ)
普段なら必死に祈るばかりで何も起こらず、逆に絶望感が募っていく祈りの時間だ。
だが、今日は心が軽かった。ネオが「聖女がいなくてもいい」国を教えてくれたおかげで、気が楽になったのだ。
(私は神はいると思うわ。
だって、ネオに会わせてくれたのはきっと神様ですもの)
聖女の役割を投げ捨てたりはしない。でも、他の道もあると知ることは、重責を少し減らしてくれた。
神に自然と感謝を祈ることができた。雨は降らないけれど。
心安らかに祈ったイブだが、さすがに膝が痺れてきた。床に座り込んで膝を擦りながら聖堂の上の方の窓を見上げる。
「上窓と言っていたけれど、ネオはどの窓から見てたのかしら」
イブが口元を緩めて窓を一枚一枚眺めていると、ひとつの窓に影が映った。鳥とは思えない大きな影だった。
「ネオ?」
イブは立ち上がって、影が見えた上窓の方向へ走った。窓を大きく開いて、イブは顔を覗かせて窓の外の木の上に呼びかけた。
「ネオ?いるの?いるなら顔を見せて」
窓の側の木には葉が生い茂っている。平民街には珍しいが、貴族学園内には葉が茂った木が多い。
庭師のネオが育てた葉に覆い隠され、誰の姿も見えない。返事もないが、イブはもう一度呼びかけた。
「ネオに会いたいと思っては、ダメかしら?」
イブが勘違いだったかと身を引こうとしたとき、木の上でガサガサと音が鳴ってネオが降って来た。
「ダメじゃないです」
イブは身軽にすとんと下りて来たネオの姿を確認して、大輪の笑みを咲かせた。
「やっぱりネオだったわ!」
「見つけないでください」
ネオは窓の外側できょろきょろと周りを見回してから、首の後ろを手で撫でた。
「どうして見つけてはいけないの?」
「その、仕事を置いて来ていて、内緒で見ているのでバツが悪いです」
イブはネオの秘密に思わず笑ってしまった。
「ビクター先生には内緒にしておくわ」
「聖女様にも内緒のはずでした」
「ネオが見てるって教えてくれたのよ」
「それはその、説明上に必要な情報だったので明かしただけで、こんな呼び出されるだなんて夢にも思いません」
ぶつぶつ声が小さくなっていくネオが可笑しくて、イブは笑いが止まらない。イブがひとしきり笑う様子をネオはまじまじ見つめた。
上窓の外からこっそり眺めていた彼女が、今言葉を交わして笑っている光景があまりに非現実的だ。
「堂々と見ていいのよ?雨は降らないけど」
「雨なんて降らなくていいです」
ネオがその言葉を言ってくれるのは、もう何回目になるだろうか。
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