海街メゾンで、小さく暮らそ。

ミラ

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第四章 風子と小さな休日

映画

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 映画が始まる20時に住人全員がリビングに集まった。

 ビールとポップコーンを檜テーブルに並べた達也さんの隣で、私はちょこんと座っていた。海が見える大窓の前に垂れたスクリーンの前で、宗一郎さんと莉乃ちゃんが睨み合っている。

「莉乃、誰に入れ知恵されたんや?ホラーとか好きじゃないやろ?」
「何が?今日はこれが見たいって思っただけだけど~?」
「じゃあなんやねん、そのニヤついた顔は」
「えーだって楽しみだから!」

 宗一郎さんがはぁと大きく肩を落とすほど深い息をしてから、莉乃ちゃんがチョイスした恐怖映画を課金する。

「しゃあないなぁ……」

 自分の苦手な映画に課金させられている宗一郎さんが憐れだったのだが、珍しくやや丸まった背中をちょっと可愛く思ってしまった。達也さんがポップコーンをぱくぱく食べながら朗らかに笑う。

「宗ちゃんはホラー苦手だったのかぁ。たぶん莉乃も苦手だけど」
「え、莉乃ちゃん体張りますね……」

 リビングを真っ暗にして、ホラー映画観賞会は始まった。

 スクリーンが正面に見える場所にソファを移動して鑑賞会は始まった。最初はソファに宗一郎さんを真ん中にして、両側に私と莉乃ちゃんが座っていた。だが、怖い場面に驚いた莉乃ちゃんが宗一郎さんの手に触ってしまった。

 その瞬間、宗一郎さんの声が弾けた。

「ちょお!莉乃、触らんといてや!」
「ちょっと宗ちゃん、いきなり大きな声出さないでよ!びっくりしたぁ!」
「俺はメゾンで女子に絶対触らんて、決めてんねん!」
「え、今ルール持ち出すなんて!宗ちゃんが一番怖い!」

 宗一郎さんの大きな声なんて聞くのは初めてだった。スクリーンのホラー映像を背景に言い合う二人が可笑しくてしょうがなかった。

「まあまあ二人とも、風子ちゃんを挟んで座れば?俺は大きいからソファ座れないし」

 一人ふわふわラグの上でクッションに囲まれていたクマさんみたいな達也さんに諫められて、私を挟んで鑑賞は再開した。

 莉乃ちゃんはたびたび私に抱き付き、宗一郎さんはたまにびくりと体を揺らすのが揺れで伝わってきた。終いには宗一郎さんは手で顔を覆ってしまったのだが、最後まで見切った。


 映画の内容は全く入ってこなかったが、最高に面白い映画観賞会だった。


 映画の後、莉乃ちゃんは今お風呂に入っている。お風呂に入るのが怖いと言って、入口で達也さんを立たせて度々そこにいるかと確認の声をかけているらしい。それにはいはいと付き合ってくれる達也さんは、本当に優しいお父さんだ。

 宗一郎さんはまだソファでぼんやりしているので、私は熱いルイボスティーを淹れたマグカップを彼に手渡した。

「宗一郎さん、どうぞ」
「え、あー……ありがとう」

 私は自分のマグを両手に持ったまま、宗一郎さんの隣に座ってくすくす思い出し笑いをした。宗一郎さんが肩を竦める。

「笑わんでもええやろ?」
「いや、ホラー怖がってるのが可愛いってのはあるんですけど」
「可愛いってなんやねん……」
「何で最後まで見たのかなって。別に自由参加だから、途中退席すれば良かったのに」

 宗一郎さんはマグカップから揺蕩う湯気に息を吹きかけて、一口ルイボスティーを飲んでから言った。

「俺はメゾンでみんなに苦手なことを強いてるんやで?自分だけ苦手なものから逃げるわけにはいけへんやろ」

 憔悴した様子でルイボスティーを飲む宗一郎さんの横顔を見て、私はまたくすりと笑ってしまう。宗一郎さんらしい実直さだ。ほっこりした気持ちをルイボスティーと一緒に飲んだ。

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