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第六章 風子と小さな勇気
夜歩きの約束
しおりを挟む次の水曜日の夜、私は達也さんの自主企画「白良浜まで夜歩き」に参加できた。夜でも湿気が強くて暑い道を二人で歩けば、すぐに汗ばんでくる。
達也さんは大きな体を揺らして私の隣を歩いた。
「風子ちゃん、先週はごめんねぇ……うちの社長、急に呼び出すからさ」
達也さんは眉を下げて再度謝った。
「いえいえ、お付き合いは必要ですから。あ、でも飲み過ぎには気をつけてください」
私が軽く注意すると、達也さんは朗らかに笑った。夜の風の中、白良浜へ繋がる道を歩けば、だんだんと海の匂いが濃くなっていく。
「飲み会って言っても酒を飲んでるの社長だけでね。僕はドライバーだから飲まないんだ。社長の奢りで美味しいもの食べさせてもらえるから、僕も楽しみにしてるんだよ」
「上司との飲み会でも、楽しいなら素敵ですね」
「そうそう、宗ちゃんの紹介で入った会社でね。社長が可愛がってくれてるんだ」
社長が良い人だと話す達也さんは、働きやすい環境にいるようで安心した。
白良浜の一番端までビーチ沿いの道を歩きながら、達也さんは汗いっぱいの顔で私を見た。
「風子ちゃん、精密検査のとき。莉乃とずっと一緒にいてくれてありがとう。料理のことも、それに今の散歩も。風子ちゃんのおかげで僕、最近、良い感じだよ」
精密検査のことがあってから、達也さんはビールを止めて手作りハイボールを飲むようになった。莉乃ちゃんは気が向けば配合してあげている。
莉乃ちゃんの刺々しい言葉も、近ごろは角が丸くなったように思う。ハイボールを作ってもらって感激する達也さんに、莉乃ちゃんのハイハイとそっけない返事は健在だ。
だが、二人の空気は悪くない。
背筋を伸ばして汗をかきながら歩く達也さんが、良い流れの中にいるのが伝わってくる。
「私は何もしてませんけど、そう言ってもらえるのは嬉しいです」
私は本当に特別なことは何もできなかった。けれど、きっと達也さんは心からそう思ってくれているのだろうから、彼の気持ちだけは快く受け取る。
私がふふっと笑うと、達也さんは大きな手を拳にして私に向けた。
「もし風子ちゃんが何かに困ったときは、言ってね。僕、必ずこうやって駆けつけるから」
達也さんはちょっと小走りして見せた。私は達也さんに負けじと小走りし始めた。達也さんを追い抜いて振り返る。
「達也さんありがとうございます!困った時は甘えちゃいますね!」
「うん!って、風子ちゃん走るの速くない?!」
「先に端まで行ってますねー!」
「えー待ってよー!」
必ず駆けつけるなんてヒーローみたいに言ってくれる達也さんが頼もしくて、にやけながら夜の白良浜を全力疾走してしまった。
その夜は、楽しく運動をしてさっぱりした気持ちで眠れる、はずだった。
寝る用意を終えてからのスマホタイムで、あの連絡を見るまでは。
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