海街メゾンで、小さく暮らそ。

ミラ

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第六章 風子と小さな勇気

暮らし

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 花火大会が終わってメゾンに帰り着いた私は、浴衣を脱いで風呂に入った。湯上りで濡れた髪のまま、誰もいない一人きりのリビングでガラホを耳にあてる。

 コール音を聞きながら大窓の前に立って、真っ暗な海と空を見つめた。

 まだ花火の光の余韻が消えず、目蓋の裏に残っていた。コール音を聞きながら、本が読めなくて泣いたあの日を思い起こしていた。友だちの結婚報告に追いつめられていたことが、日々に擦り減って、いつの間にか小さくなっている。

 お母さんへの電話は宗一郎さんの助けを借りた。けれど、今度は自分だけでやってみたい。私は何も変わっていないのだけれど、今なら彼女に言えそうな気がする。

 電話の向こうに、懐かしい彼女の声が聞こえた。

「もしもし、久しぶり。連絡遅くなってごめんね」

 親友の声を聞くと、自然に笑みがこぼれた。彼女を遠く感じる寂しさや劣等感は、そっと胸に置いたままだ。

 私は毎日働いて、メゾンで笑って泣いて夢を語り、花火大会に行ったりするように。彼女も手が触れる距離の大事な人たちと毎日を紡いでいる。

 そうしてこれからもっと、私たちは離れて行く。

「結婚と妊娠、本当におめでとう!」

 けれど、紡いだ日々の先にまた、私たちが繋がることもあるだろうと今夜は思えた。

 私が久しぶりに花火を見た話をすると、彼女もたまたま今日花火をしたと言って笑い合った。


 ほら、小さく繋がった。



 働いて、食べて、寝る。地味な毎日の中に楽しみをつくって、丁寧に重ねていく。

 そんな堅実な繰り返しがあるからこそ、お母さんとのわだかまりを解く小さな勇気が出る。親友におめでとうを言える心持ちが整い、綺麗な花火が忘れられない日も訪れる。

 地味で取るに足らない。

 けれど何よりもどっしりと人を支え、何度でも立ち直らせてくれる。

 それが小さな暮らしの、すごいところなのかもしれない。

 
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