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ガロード編■魔法都市
22.戦前
しおりを挟む塔から飛び降りて全速力で走って街の出口まで来ると、既にナハトヴァールのメンバーが揃っていた。
「ガロードぉ、遅いぞぉ!!」
「すまん、待たせたな」
同期のアイザックが笑いながら、汗だくで呼吸を整えている俺に対して茶々を入れる。
ふざけるなよ、とは言えなかった。
彼の表情もまた、笑っているように見せて、緊張している事がひしひしと伝わってくるからだ。
「よし、揃ったな、整列!」
総司令官のアラドが声を荒らげ、魔導師達が二列の横隊を作る。
「1.2.3.4.5.6.7.8.9.10欠!」
前列の者が右から順番に番号を叫び、最後の列員が番号を告げた後、すぐに後列最終列員が、前列と数が同じか欠けているかを叫ぶ。
前列と同じ人数、つまり総員数が偶数なら『満』、奇数なら『欠』と呼称するのだ。
これが二列横隊の番号呼称である。
10番目の欠なので、総員19名。
仮に10番目が満なら、20人いることとなる。
「総員19名、欠員無し! 報告終わり!」
小隊長のリディがアラドの前まで走ってくると敬礼し、人員報告を行う。
「よし」
アラドがそれに答え、返礼することで点呼が終了した。
「なあ、これ毎回やる意味あんのか? 人数なんて見れば分かるだろうによ」
「軍規を守るための礼式だ。諦めろ」
アイザックがボヤき、俺がそれに答える。
ここまでが日常のテンプレなのだが、今日は訳が違う。
誰もが初めての実戦なのだ。
「夜遅くに非常召集をかけることになってしまい、申し訳ない。中には非番の者もいるようだが諦めてくれ。」
「今回君たちを呼び出した理由は、もう知っている者もいるだろうが夜襲が迫っている。偵察班による報告では、相手は──」
「──あろう事か、敵の指揮官はハイオークだ。オークゾンビの群れとドラゴンゾンビ一体を引き連れて、ゆっくりとこちらへ進行してきている。」
「オークゾンビにドラゴンゾンビだって?そんなモンスター、伝承でしか聞いたことないぞ......」
アラドの言葉を遮るように、アイザックが呟く。
「それに、ハイオークだと......?」
俺も思わず呟く。
ハイオークと言えば、ハイエルフ同様にオークの中でも稀少な存在である。
そもそもオークに雌は存在せず、他種族と交わることで子孫を増やしてきた。
オークの遺伝子はとても強く、他種族との子供でありながら、あらゆる特徴を無視して『オーク』として産まれてくる。
そんなオークと、ごく稀に出現するハイエルフの雌の子供がハイオークだと言えば、どれほど数が少なく稀少な存在かが理解できるだろう。
ハイオークは『オーク』という名前を持つが、ハイエルフの遺伝子との掛け合わせからか、例外的に完全に見た目はエルフだ。
ただしエルフとは違い肌が褐色であり、邪悪なその風貌は魔族に通じるものがある。
特筆すべきはその身体能力の高さである。
特殊なモンスターを除き、アルハザードでは他の種族に比べ、オークのフィジカルポテンシャルの高さは郡を抜く。
最大筋力、瞬発力、持久力、耐久力、生命力と、あらゆるステータスが非常に高い。
そんなオークの三倍ものステータスを持つハイオークは、知力も高い。
魔法こそ使えないものの、人間に匹敵する適応力や技術力を持っていると言っても過言ではないだろう。
その能力の高さと知能の高さゆえ、ハイオークはなるべく無駄な争いを避けて、種の保存を優先することが多いと聞く。
そんなハイオークが夜襲を、しかも魔族であるアンデッド系のモンスターを引き連れてくるなど、考えられない。
オークと魔族が手を組んだ…...?
それとも、他の何かが......?
そして何よりも、ハイオークはハイエルフの血が入っているために、治癒力が非常に高い。
四肢を切断されると流石に生えてくることはないが、皮一枚でも繋がっていれば超高速で再生するという噂も耳にしたことがある。
はっきり言って反則だ。
こんな相手が目前に迫っているだと?
いくら何でも冗談が過ぎる。
ゴホン、と咳払いをし、アラドが続ける。
「このままでは夜明け前には街に到達するだろう。それまでに、何としてでも我々の力だけで乗り切る必要がある。相手を聞いて、不可能な戦いだと思っただろう。だが、我々が戦わなくては、街は壊滅する」
「勘違いするな、殲滅が目的ではない。現在、警備兵により市民の避難が開始されている。彼らの避難が完了すれば、勝利したと言って良いだろう。つまり、今回の我々の任務はそれまでの時間稼ぎだ」
「私を含め、ここにいる全員が討伐以外の本格的な対多数の戦は初めてとなるだろう。だが、忘れるな。君たちは駒ではない。全員が生き残る努力をしてくれ、以上だ」
「「──名誉のために!」」
総司令官のアラドが告げると、全員が揃って鼓舞するように吠えた。
気が付くと、黒い小鳥が肩にちょこんとのっていた。
──さあ、行くぞ。
俺は一人、心の中でそう呟いた。
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