能ある元科学者、改めチートエルフは爪を隠し(きれない)

玲於奈

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0章

2.始生【中】

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古くから、というより、この世界に魔というものが発生して以来、アルビノというのは、どの種族においても、突出した魔力をもつと言われている。

この世界に存在する種とは、
魔力が少ないが高い身体能力を持つ、獣人。
手先の器用さから職人が多い、小人族ドワーフ
魔力、身体能力とバランスのとれた、人間。
高い魔力と狩猟の技能をもつ、森人エルフ
そして、かつてその他の種の敵対し今はほとんど絶滅したと言われている、魔族。

魔物や魔獣と魔族の違いについては置いておくとして。
各々の種族にはそれぞれ高位種というのが存在するが、森人エルフの上位種、高位森人ハイエルフは圧倒的な魔力を持つ。

ここで、アルビノのハイエルフとは、どういう意味を持つか考えてみる。
元来魔力の少ない獣人のアルビノであれば、にんげん並の魔法が使える獣人ということで済まされるが、
元々が圧倒的な魔力を持つ高位森人ハイエルフ。そのアルビノとなれば、その希少性は異常に高まり、その存在がどれだけ危険で、そして、今現在の森の状況にも頷けるというものである。


「この赤ん坊の魔力にあてられて、この辺りに全くと言っていいほど、魔物がいなかったんですね……」


赤子の正体を知り、どこか納得したように頷く藍髪の青年。それに対して、金髪の男は黙って赤子をまじまじと見つめ、そっと揺らす。


「だぁ」


きゃっきゃっと赤子は嬉しそうに笑い、男にその小さな手を伸ばす。

赤子が動く度にまだ僅かにしか生えていないその白髪が揺れ、その額に埋まる、瞳と同色の紅い石をさらりと撫でた。

ハイエルフの特徴は、その額に埋まる魔石と、通常のエルフより少し長い耳である。
ハイエルフが高い魔力を持つのは、その額に埋め込まれた高純度の魔石が由来しているとかなんとか。

男は人生で1度会えれば幸運とまで言われているハイエルフにぞ出会ったこともないので、そこに関しての知識はあまりない。


「にしても、なぜハイエルフの赤子が捨てられている?エルフは長命種ゆえに繁殖能力が低いから、産まれた赤子は総出で可愛がり大切にすると聞くぞ。しかも、ハイエルフのアルビノときた。
こんなの、他種族に利用されてはたまらないとばかりに最悪、軟禁でもしそうなもんだ。」

「それですよねぇ……なーんか複雑な事情でもあるんでしょうか。ハイエルフのアルビノなんて、もう存在が生ける爆弾ですよ……」

「捨てざるを得なかった理由が何かしらあったんだろうな。さて、どうしたものか…………うん?」

「なんですか?」

「なんか、赤ん坊の包みの中に入ってるぞ。」


動く赤子の脇から、紙のようなものを男がとりだす。

そっと紙を広げると、包まれた中から、金色の腕輪らしきものがコトリ、と音を立ててこぼれ落ちた。


「……なんですか、それ。」

「俺が聞きたい。親の形見かなにかか?
……待て、紙に何か書いてある。なになに……??」

「何と?」

「……読めん。」


あっけらかんとそう言う主人に、ガクッと青年は膝から力が抜けかけたが、直ぐに男からその紙を奪い取る。

「これは、精霊語……?」

「あー、エルフだもんな。つっても今どき、エルフも大陸共通語を使う集落が多いと聞くが……未だに精霊語を使っているとは、国か……?きな臭ぇな。おいお前、言語互換の魔道具持ってなかったっけか?それ使え。」

「言われなくても、もう出してますよ。えっと、どれどれ……?」


紙に虫眼鏡のようなもので文字を追いながら、2人して覗きこむ。


「『この子を人間として育ててください』……?」


2人は顔を見合わせる。


「いや、正直無理があるだろ。この溢れ出る魔力、どーすんだ。」

「一時的な幻術で姿形は誤魔化せても、この明らかに異常な魔力量は誤魔化せませんよね?どういうことでしょう……あっ、なんか、腕輪の内側にも何か精霊語で彫られています。」


『アイン・ノーベル』

そう読めた。

「この子の名前か?」

「そうに違いありません。この子の名前を伝える意もあるかも知れませんが、もしかしたら、この腕輪は魔力を抑える魔道具かなにかか……?
魔道具に直接名前を彫り込むことで所有者となり、その者専用のものになると聞きます。
ただ、その彫り込む技術が相当に高く、ほとんど専用の魔道具を作れる者はいないと聞きますが……」

「エルフなら然り、ということになるな」

「そうですね……」


2人で顔を突き合わせて思案していると、遠くからバタバタとこちらに掛けてくる音がした。


「ちょっとぉ!!2人とも酷いですよぅ!!
置いて行かなくてもいいじゃないですかぁ、探知するの、大変だったんですよぉ!?」


そう文句を言いながら駆け込んできたのは、頭に白い兎の耳を生やした獣人の少女である。


「……あぁ、クルルか、完璧に忘れてたわ」

「ご主人様、酷いっ」

「だってお前遅せぇんだもん。てか、今それどころじゃねぇんだわ」


そう言いながら、しっしっと手で払う仕草をする男に少女は頬を膨らませる。


「何ですかぁ、それ!私を差し置いて……」


むくれつつも、男達が抱えて覗き込んでるものに興味を持ったのか、少女も赤子を覗きこむと、途端に破顔する。


「かぁわいいっ!!なんですか、赤ん坊ですかっ。
アルビノじゃないですかぁ、私と一緒っ!!」

「おい、お前と一緒にするな。ちょっと治癒魔法が使えるアルビノの兎族とハイエルフでは訳が違うんだぞ。」

「そうですよ、クルル、ちょっと口を閉じて静かにしてください。今魔道具の解析をしようと頑張ってるんで」


煩わしげに扱う青年に、どういうことだという顔をする少女に渋々状況を説明する男に、少女は何をそんなに悩んでいるのだ、と首を傾げた。


「そんなの、この腕輪が魔力を抑える魔道具ってことじゃないですか、さっさと着けて見ちゃえばいいんですよ」

「あっ、バカ、まだその安全性が……」

「えいっ」


軽いかけ声とともに少女は金色の腕輪を赤子の小さな腕に通した。


「バッカ、お前、なんてことしてくれてんだ!!」

「ふぇぇぇえぇ!?!?」


そういって少女の頭を強めにはたく男の剣幕に少女は少し涙目になる。


「まだ得体のしれないもん赤子に着けるなんて、お前正気か!?
馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、ここまで阿呆だったとは……」


そう頭を抱える男に、腕輪をつけられてしまった赤子を呆然と見守っていた青年が声をかける。


「ちょっと、見てください!!」


赤子の腕に対して大きすぎると思われたその腕輪は、シュルルルルっと回転しながら、赤子の小さな腕にぴったりにおさまる。


「だぁ?」


そう不思議そうに自らの腕輪に視線をやる赤子の顔がどんどん変容していく。

白く美しい肌と白髪、紅眼はそのままに、額の紅い魔石が消え、長い耳が人間のそれに変化する。



「人間になった…………?」




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