能なし転生者は、スローライフを望んでる ~能なしとして処分されたけど、属性変化スキルで生き延びる!~

佐藤遼空

文字の大きさ
8 / 193

3 新たな出会い

しおりを挟む
「クオン!」

 倒れた僕に、キャルが駆け寄ってきた。僕は身体を起こそうとするが、膝ががくがく震えて立ち上がれない。

「大丈夫、クオン?」
「大丈夫。ただ…ちょっと立てないだけ」

 僕は頑張って笑顔を見せた。
 キャルが僕の手をとる。

「クオン…怪我してる。わたしのために――」
「もう心配いらないよ。あいつらは…倒したから」

 僕はそう言って笑ってみせた。
 そんな言い方しかできなかった。けど…間違いなく、僕はあの二人を殺したんだ。

 そう思った瞬間、意識せずに僕の眼から涙が溢れ出てきた。

「え? え……?」

 自分でも、何故、泣いてるのか判らない。
 するとキャルが、僕の傷ついた手を握って涙をにじませた。

「ごめんなさい、クオン。わたしのために、優しいクオンがやりたくない事…させちゃったんだよね?」

 確かに――
 人の命を奪ったことは、取り返しのつかない事だ。けど……

 僕はずっと取り返しのつかない事になるのを恐れて、悲鳴をあげる事も反撃をする事もしなかった。そうしていれば、なんでもない日常が再びやってくると信じて。
 けど違ったんだ。
 生きるってことは、取り返しのつかない事を、幾つも重ねるってことだ。
 今、僕はそれに気づいた。

「ううん。いいんだ、キャル」

 僕はキャルに言った。

「命がかけがえのない大事なものだって、今でも思ってる。…けど、それ以上に、キャルが大事なんだ。だからあいつらを殺した事に、後悔も罪悪感もない。僕はあいつらより、キャルと一緒に生きていく未来の方が大切なんだ」
「クオン……」

 キャルは僕の手を両手で包むと、自分の頬にあてた。キャルは泣いていた。
 愛おしい……。そんな気持ち、初めて知った。

 この世界で、僕とキャルと二人きりだ。
 僕はキャルを抱きしめたくなった。

「――美しい!」

 突然、すぐ傍で声がした。
 驚愕して、僕らは声を方を見る。
 すぐ傍らで、一人の女性がしゃがんで泣いている。…いつの間に?
 
「私はもう……君らに感動したよ!」

 女性はそう言うと、かけていた眼鏡をとって涙を拭いた。

「だ……誰だ?」
「申し訳ないけど、一部始終を見させてもらったよ。女の子をかばって、死力を尽くす少年の姿! 私はもう……いや、本当に感動した」

 若いけれど、キャルよりは年上の女性だ。20歳前後だろうか。
 一体、誰なんだ? 男たちの仲間か?

「あ、すまない。警戒するのも無理ないよね。私は絵梨奈。廣井絵梨奈と言えば、そこの君にはピンとくるんじゃないのかな?」
「廣井ってことは……日本人」
「そう。そして、透明になって、君らの動向を見ていたのだよ!」
「まさか……」

 僕にも判った。彼女が誰なのか。

「あの地下水道のメモ主!」
「そうだ! 正解!」
 
 眼鏡の女性は、そう言うと微笑んだ。
 女の人だったのか。ぶわっと、僕の中で色んな感情が巻き起こった。

「あ、あの――貴女のメモのおかげで、生き延びることができたんです。ありがとうございました!」
「いやいや、役に立ってよかった。ホント、お互い、死ななくて良かったよ」
「けど……どうして僕が、あの地下水道から出てきた人間だって判ったんですか?」
 
 僕は疑問をぶつけてみた。すると絵梨奈は、僕の来ているマントを指さした。

「そのマント、いい場所に落ちてたろう?」
「あ! 地下水道から出た人が拾うように、あそこに置いてたんですか?」
「そう。いっつも見張ってる訳にもいかないから、目印にね」

 絵梨奈がそう笑うと、キャルが声をあげた。

「あの……クオンの知り合いなの?」
「いや、そうじゃない。初対面なんだけど、この人には凄く世話になったんだ」

 僕はかいつまんで、地下水道から脱出した際の話をした。

「そんな事が……」
「けど君たち、此処で落ち着いてる場合じゃないぞ。なにせ、二人の死体があるんだ」
「あ」

 僕らは改めて、自分たちの状況を再認識した。

「そうだ、なんとかしてキャルの足環とリス…なんとかを取らないと。あの二人が、鍵を持ってるかもしれない」

 僕は立ち上がると、スキンヘッドの遺体を探った。着ている鎧を脱がせて、腰につけていた袋を取る。僕は、死体に怯えているキャルに言った。

「キャルはいいよ。無精ひげの方も、僕が見る」
「ううん。わたしの事だから」
 
 キャルは気丈な顔を作って、そう言った。

「私も手伝おう」
 
 そう言うと、絵梨奈がキャルと一緒に男の懐を探る。
 金らしき紙幣と小銭を、二人とも持っていた。後はボールや、紐など。
 肝心の鍵がなかった。

 正直、大きな落胆だった。重い空気のなかで、キャルが口を開いた。

「結局、わたしがいたら、クオンにも迷惑がかかる。……わたしの事は、もう置いていって」
「何を言うんだ! 君を絶対に――守ってみせる。どこまでも逃げよう」
「クオン……」
「キャル……」

 僕らが見つめあった時、絵梨奈が口を開いた。

「もしかしたらの可能性だけど――クオンくんの力で、外れないかな?」
「え? 僕の力? けど僕の力は、自分の身体を堅くしたり柔らかくしたりする能力ですよ」
「それなんだけどさー」

 絵梨奈はそう言って、人差し指を立てた。

「私の能力は、透明になる能力なのね。最初は自分だけが透明になってた。けど、それを使ってるうちに、自分が持った物まで透明にできるようになったの。つまりね、能力は成長するんだよ。もし、私のケースがクオンくんに当てはまれば――」
「持った物を、堅くしたり――柔らかくしたりできるかもしれない?」

 絵梨奈が頷く。キャルが、僕を見た。

「や…やってみるよ」

 僕はキャルに言った。まず、キャルの脚を出してもらう。
 色白のすらりとした脚に、不釣り合いな醜さで喰い込まんばかりに足環が嵌められている。

 僕はその足環に触れた。
 柔らかくなれ。柔らかくなれ――
 キャルを助けるためだ。柔らかくなってくれ!

 不意に、足環がつまめた。

「「「あ!」」」

 全員が声をあげた。
 僕はそのまま足環をもっと大きくつまんで、引き伸ばす。
 足環を大きくすると、キャルにその足を抜いてもらった。

「やった!」

 僕が声を上げると、キャルが抱きついてきた。

「ありがとう! ありがとう、クオン!」
「ま、まだ首輪がある。それを取ろうよ」
「あ、うん」

 僕に抱きついていた事を自覚したのか、赤くなってキャルが僕から離れた。
 そこで、絵梨奈が口を開いた。

「喜びのところ悪いけど、その首輪。あの男は、爆弾が入ってるって言ってたろう?」
「あ、うん」
「君のその力で取ろうとしたら、爆発する可能性もある。慎重に考えた方がいい」

 絵梨奈の言葉に、僕とキャルは顔を見合わせた。僕は、キャルに言った。

「僕は――キャルが望むなら、それを外してみる」
「けど…失敗したら……クオンも一緒に死んじゃう」
「キャルと一緒なら――構わない」

 僕はそう言って、キャルを見つめた。



    *     *     *     *     *

 いいなと思ったら、♡、お気に入り登録をいただけると、励みになります!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...