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6 能力把握
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キャルはそう説明した後に、さらに補足した。
「ガロリア帝国は自由主義が浸透しているので、他の国からの亡命者や犯罪者が流れてきてるんです。そういう人たちでも、名前を変えて登録できるのがガロリア帝国の冒険者ギルドだって訊いたことがあります」
「治安には悪いと思うけど、今の私たちには好都合か。じゃあ、冒険者として登録して、なんとかお金を稼ぐことを考えよう」
エリナの提案に、僕は不安を覚えた。
「けど……僕たちにモンスター退治とかできるんでしょうか?」
「うん。私たちに無理のないクエストからこなして、お金を貯めてこう」
「そうか、そうですね。それで行きましょう」
僕はちょっと安心した。が、すぐにエリナが口を開いた。
「しかしクオンくんは、あの奴隷商人の手下を倒したんだぞ。あいつらだって、それなりに強かったはずだし、それに勝ったクオンくんは結構、強いはずだよ」
「そう言われても……全然、実感がないですし」
「しかし冒険者となると、改めて私たちの戦力を考える必要があるな。クオンくんは、身体や触れた物の素材感を変える能力がある。これは魔力、気力、霊力のいずれでもないんだよね?」
エリナがキャルを見て、そう言った。キャルが答える。
「多分、異能――ディギアと呼ばれてるものですね。魔法と違っていきなり現象が起こせる、かなり特殊なものです。普通の人にはまず見られず、転生者(リィンカー)や南方の一部の種族にだけ見られるものと言われてます」
「ふ~ん、ディギアは特別なのか。クオンくんの能力は名づけるなら……属性付与――いや、属性変化かな。プロパティ・チェンジ……う~ん、プロパティ・シフトといった感じか」
「プロパティ・シフトって……カッコいい響きですね」
僕はちょっと気にいって、浮かれ気分で言った。
「私は透明化――トランスパーレントだな。それと霊力が若干あるらしいが……キャルちゃん、霊力って何ができる能力なんだ?」
「霊力を使うのは霊術士というんですが、色んな使い方があるみたいです。まず触れずに物を動かせる念動力。それから念話、遠視などが一般的です。一番目立つのは、『ファントム』と呼ばれる分霊体を出せる力でしょうか」
キャルの説明に、エリナは興味をもって訊ねた。
「なんだ、そのファントムというのは?」
「自分の霊体から分離して、操り人形みたいなものを出せる能力ですね。これで直接、相手を攻撃したりできます。モンスター退治にも有効です」
「ふ~む、なるほど……。まず、念動力から試してみるか。むー」
そう言うとエリナは、手を前に出して唸り始めた。
手の先にある、枯れ葉がひら、ひらと動く。
「え? 風じゃなく、動いてる?」
「エリナさん、動いてますよ。やっぱり、霊力があるんですよ」
キャルが嬉しそうに、エリナに言った。
「そっか~、けど、この程度の力じゃあ『凡庸そのもの』かもねえ」
そう苦笑するエリナに、キャルは真剣な眼差しで言った。
「そんな事はないです! どんな力だって、いきなり凄い力を持ってる人なんかいません。訓練して鍛えて、強くなっていくんです。エリナさんの霊力も、きっと大きな可能性があると思います」
「そっか。なんかそう言われると嬉しいや。キャルちゃん、ありがとね」
「いえ、ほんとの事ですから」
エリナが微笑むのに対し、キャルは恐縮してみせた。
「じゃあ、キャルちゃんは何使いなの?」
「わたしは魔法を少し」
「おー、魔法! やっぱり、異世界だねえ」
エリナが感動したように口にする。
それに対し、キャルは少し困り顔を見せた。
「ただちょっと……魔晶石がないので、詠唱でしか魔法が使えません。ああ、こんな事なら、もっと暗唱できるように覚えとくんだった」
「え? 魔法って呪文を詠唱して出すもんじゃないの?」
「それは基本なんですが、最近はもう魔晶石に法式を刻印してあって、魔力の放出だけで魔法を使うのが一般的なんです。まあ、刻印はあくまで手続きの速度を早くするだけのものだから、本人が理解してない魔法は使えませんけど」
「よく判らないけど――プログラムがあって、電源を入れたら出る、みたいな感じなんだね。けど、それで判らない現象を起こせるほど便利でもない、と。じゃあ、今、キャルちゃんは全く魔法が使えない状態?」
「そんな事ないですよ。簡単な火くらいなら、無詠唱で起こせます。ほら」
そう言うとキャルは、人差し指をたてた。その指先に、炎が灯る。
「おお! 火だ! ……いや、凄いぞ、キャルちゃん! これは、今日はあったかいものが口にできる事じゃないか!」
「ほんとだ!」
エリナの言葉に、僕も声をあげた。
そうだ。この転生してからの生活で、僕は一度も温かいものを口にしてなかった。冷めた残飯が基本で、飲み物も冷たい水。温かいものを口にできると言う事が、どれほど幸せな事か。
「こうしちゃいられない。クオンくん、まずあったかいものを口にするために、近くから焚き木を集めよう。それから落ち着いて、夜に備えよう」
「そうは言っても、水も食料もないんじゃないですか?」
僕がそう言うと、エリナはフッと笑みを浮かべた。
「フフ…クオンくん。よく耳を澄ましてみたまえ。何か聞こえないかね?」
僕とキャルは、言われた通りに耳を澄ます。
何かせせらぎのような音がする。
「水音ですか、これ?」
「そう。実は家のすぐ裏は、小川なんだよ」
そう言うとエリナは先に立って家を出た。僕らはそれについて出る。
と、ほんとに家のすぐ裏が、森に囲まれた小川だった。
幅は1mほどだろうか。水の流れは豊富で、透明度も高い。綺麗な水だ。
「凄い、綺麗な川だわ」
「この水、私が二週間飲んでたが、とりあえずお腹を壊すような事もなかった。山から出た綺麗な水だ。けどキャルちゃんがいて火が起こせるなら、これからは一旦沸かした水を冷まして飲料水にしたほうがいいな」
「そうか、水の心配はないですね。よかった」
僕が言うと、エリナが微笑んだ。
「うん。そしてパンとハムだけ、盗んだものだが備蓄してある。今日はそれを夕飯にしよう。焚き木を集めよう」
「はい!」
僕らはそれからしばらく焚き木を拾った。
焚き木を拾って家に戻ると、それを石造りのかまどにくべる。
「じゃあ、キャルちゃん、火を起こしてくれ」
「はい」
キャルは指先から火を出して、集めた焚き木に火を付けた。
エリナはボコボコになっている鍋に水を汲んできて、それをかまどに据えた。
「その鍋、どうしたんですか?」
「この家に放置してあった。あと木のコップが一つだけある」
エリナがそう言うと、キャルが傍から口を開いた。
「あの、このミントの葉を摘んでみたんですけど。お茶にしませんか?」
「なに、これミントなのか?」
キャルが差し出した葉っぱの集まりを見て、僕とエリナは驚いた。
「はい、その辺にいっぱい生えてますね。ミントは強い植物なんで自生してます」
「そうか、じゃあハーブティーがいただけるわけだな。なんか、ワクワクしてきたぞ」
エリナは嬉しそうに言うと、キャルも笑ってみせた。
「じゃあ、ちょっと入れますね」
キャルは数枚のミントをつまむと、鍋に放り込む。
「よし、じゃあリビングの暖炉にも火をいれよう。夜は冷えるし、あっちがメインで過ごす部屋だ」
僕らは残りの集めた焚き木と、リビングの暖炉に放り込んだ。
リビングの暖炉はレンガ造りで、その煙突は天井まで伸びている。
これなら室内で火をたいても、煙は上に登っていく仕組みだ。
「凄いな、今日は夜も少しあったかく過ごせそうだ。とはいえ、壁が破れてるから限界はあるがな」
暖炉に火が入ると、エリナは笑ってみせた。
そんな事をしているうちに、すっかり陽がくれていた。
「じゃあ、夕飯にしよう。クオンくん、キャルちゃん」
「はい」
僕とキャルがリビングに行くと、エリナが台所の棚を開けて、パンとハムを持ってきた。ハムはまだ、糸でぐるぐる巻きになっている。
「これを暖炉の火で炙って食べよう。鉄串が三本ある。ただ、ハムは丸のままで切る道具がないがな」
エリナはそう言うと、苦笑してみせた。僕はふと思いついた。
「あ、ちょっと待ってください。なんとかできるかも」
* * * * *
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「ガロリア帝国は自由主義が浸透しているので、他の国からの亡命者や犯罪者が流れてきてるんです。そういう人たちでも、名前を変えて登録できるのがガロリア帝国の冒険者ギルドだって訊いたことがあります」
「治安には悪いと思うけど、今の私たちには好都合か。じゃあ、冒険者として登録して、なんとかお金を稼ぐことを考えよう」
エリナの提案に、僕は不安を覚えた。
「けど……僕たちにモンスター退治とかできるんでしょうか?」
「うん。私たちに無理のないクエストからこなして、お金を貯めてこう」
「そうか、そうですね。それで行きましょう」
僕はちょっと安心した。が、すぐにエリナが口を開いた。
「しかしクオンくんは、あの奴隷商人の手下を倒したんだぞ。あいつらだって、それなりに強かったはずだし、それに勝ったクオンくんは結構、強いはずだよ」
「そう言われても……全然、実感がないですし」
「しかし冒険者となると、改めて私たちの戦力を考える必要があるな。クオンくんは、身体や触れた物の素材感を変える能力がある。これは魔力、気力、霊力のいずれでもないんだよね?」
エリナがキャルを見て、そう言った。キャルが答える。
「多分、異能――ディギアと呼ばれてるものですね。魔法と違っていきなり現象が起こせる、かなり特殊なものです。普通の人にはまず見られず、転生者(リィンカー)や南方の一部の種族にだけ見られるものと言われてます」
「ふ~ん、ディギアは特別なのか。クオンくんの能力は名づけるなら……属性付与――いや、属性変化かな。プロパティ・チェンジ……う~ん、プロパティ・シフトといった感じか」
「プロパティ・シフトって……カッコいい響きですね」
僕はちょっと気にいって、浮かれ気分で言った。
「私は透明化――トランスパーレントだな。それと霊力が若干あるらしいが……キャルちゃん、霊力って何ができる能力なんだ?」
「霊力を使うのは霊術士というんですが、色んな使い方があるみたいです。まず触れずに物を動かせる念動力。それから念話、遠視などが一般的です。一番目立つのは、『ファントム』と呼ばれる分霊体を出せる力でしょうか」
キャルの説明に、エリナは興味をもって訊ねた。
「なんだ、そのファントムというのは?」
「自分の霊体から分離して、操り人形みたいなものを出せる能力ですね。これで直接、相手を攻撃したりできます。モンスター退治にも有効です」
「ふ~む、なるほど……。まず、念動力から試してみるか。むー」
そう言うとエリナは、手を前に出して唸り始めた。
手の先にある、枯れ葉がひら、ひらと動く。
「え? 風じゃなく、動いてる?」
「エリナさん、動いてますよ。やっぱり、霊力があるんですよ」
キャルが嬉しそうに、エリナに言った。
「そっか~、けど、この程度の力じゃあ『凡庸そのもの』かもねえ」
そう苦笑するエリナに、キャルは真剣な眼差しで言った。
「そんな事はないです! どんな力だって、いきなり凄い力を持ってる人なんかいません。訓練して鍛えて、強くなっていくんです。エリナさんの霊力も、きっと大きな可能性があると思います」
「そっか。なんかそう言われると嬉しいや。キャルちゃん、ありがとね」
「いえ、ほんとの事ですから」
エリナが微笑むのに対し、キャルは恐縮してみせた。
「じゃあ、キャルちゃんは何使いなの?」
「わたしは魔法を少し」
「おー、魔法! やっぱり、異世界だねえ」
エリナが感動したように口にする。
それに対し、キャルは少し困り顔を見せた。
「ただちょっと……魔晶石がないので、詠唱でしか魔法が使えません。ああ、こんな事なら、もっと暗唱できるように覚えとくんだった」
「え? 魔法って呪文を詠唱して出すもんじゃないの?」
「それは基本なんですが、最近はもう魔晶石に法式を刻印してあって、魔力の放出だけで魔法を使うのが一般的なんです。まあ、刻印はあくまで手続きの速度を早くするだけのものだから、本人が理解してない魔法は使えませんけど」
「よく判らないけど――プログラムがあって、電源を入れたら出る、みたいな感じなんだね。けど、それで判らない現象を起こせるほど便利でもない、と。じゃあ、今、キャルちゃんは全く魔法が使えない状態?」
「そんな事ないですよ。簡単な火くらいなら、無詠唱で起こせます。ほら」
そう言うとキャルは、人差し指をたてた。その指先に、炎が灯る。
「おお! 火だ! ……いや、凄いぞ、キャルちゃん! これは、今日はあったかいものが口にできる事じゃないか!」
「ほんとだ!」
エリナの言葉に、僕も声をあげた。
そうだ。この転生してからの生活で、僕は一度も温かいものを口にしてなかった。冷めた残飯が基本で、飲み物も冷たい水。温かいものを口にできると言う事が、どれほど幸せな事か。
「こうしちゃいられない。クオンくん、まずあったかいものを口にするために、近くから焚き木を集めよう。それから落ち着いて、夜に備えよう」
「そうは言っても、水も食料もないんじゃないですか?」
僕がそう言うと、エリナはフッと笑みを浮かべた。
「フフ…クオンくん。よく耳を澄ましてみたまえ。何か聞こえないかね?」
僕とキャルは、言われた通りに耳を澄ます。
何かせせらぎのような音がする。
「水音ですか、これ?」
「そう。実は家のすぐ裏は、小川なんだよ」
そう言うとエリナは先に立って家を出た。僕らはそれについて出る。
と、ほんとに家のすぐ裏が、森に囲まれた小川だった。
幅は1mほどだろうか。水の流れは豊富で、透明度も高い。綺麗な水だ。
「凄い、綺麗な川だわ」
「この水、私が二週間飲んでたが、とりあえずお腹を壊すような事もなかった。山から出た綺麗な水だ。けどキャルちゃんがいて火が起こせるなら、これからは一旦沸かした水を冷まして飲料水にしたほうがいいな」
「そうか、水の心配はないですね。よかった」
僕が言うと、エリナが微笑んだ。
「うん。そしてパンとハムだけ、盗んだものだが備蓄してある。今日はそれを夕飯にしよう。焚き木を集めよう」
「はい!」
僕らはそれからしばらく焚き木を拾った。
焚き木を拾って家に戻ると、それを石造りのかまどにくべる。
「じゃあ、キャルちゃん、火を起こしてくれ」
「はい」
キャルは指先から火を出して、集めた焚き木に火を付けた。
エリナはボコボコになっている鍋に水を汲んできて、それをかまどに据えた。
「その鍋、どうしたんですか?」
「この家に放置してあった。あと木のコップが一つだけある」
エリナがそう言うと、キャルが傍から口を開いた。
「あの、このミントの葉を摘んでみたんですけど。お茶にしませんか?」
「なに、これミントなのか?」
キャルが差し出した葉っぱの集まりを見て、僕とエリナは驚いた。
「はい、その辺にいっぱい生えてますね。ミントは強い植物なんで自生してます」
「そうか、じゃあハーブティーがいただけるわけだな。なんか、ワクワクしてきたぞ」
エリナは嬉しそうに言うと、キャルも笑ってみせた。
「じゃあ、ちょっと入れますね」
キャルは数枚のミントをつまむと、鍋に放り込む。
「よし、じゃあリビングの暖炉にも火をいれよう。夜は冷えるし、あっちがメインで過ごす部屋だ」
僕らは残りの集めた焚き木と、リビングの暖炉に放り込んだ。
リビングの暖炉はレンガ造りで、その煙突は天井まで伸びている。
これなら室内で火をたいても、煙は上に登っていく仕組みだ。
「凄いな、今日は夜も少しあったかく過ごせそうだ。とはいえ、壁が破れてるから限界はあるがな」
暖炉に火が入ると、エリナは笑ってみせた。
そんな事をしているうちに、すっかり陽がくれていた。
「じゃあ、夕飯にしよう。クオンくん、キャルちゃん」
「はい」
僕とキャルがリビングに行くと、エリナが台所の棚を開けて、パンとハムを持ってきた。ハムはまだ、糸でぐるぐる巻きになっている。
「これを暖炉の火で炙って食べよう。鉄串が三本ある。ただ、ハムは丸のままで切る道具がないがな」
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