能なし転生者は、スローライフを望んでる ~能なしとして処分されたけど、属性変化スキルで生き延びる!~

佐藤遼空

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3 キャルの服を選ぶ

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 僕らは揃って、街へと出かけた。此処はガロリア帝国の街の一つオーレムである。

「……改めて見ると、都会ですねえ」

 僕はエリナに言った。街は石造りの立てもが立ち並び、人々が雑踏を行きかう。その中で、僕らの姿は群衆に埋もれてる感じがした。

「けど、此処はガロリア帝国の首都、というわけじゃないんだろ、キャルちゃん?」
「はい。帝都のケイムは、此処からもう少し離れた場所ですね。オーレムは港町で、交易が盛んな処です」
「なるほど。――それはそうと、いきなりギルドに行ってみるかい?」

 エリナの声に、僕は答えた。

「まず洋服店に行きませんか? その……キャルにフード付きの服があった方がいいと思うんで」
 
 僕の言葉に、キャルが驚いた顔を見せる。

「え――だけど、お金は今の私たちには貴重だから、後回しでいいわ」
「ううん。まず、キャルの服を買った方がいいと思う。マントを頭からずっと被ってるのも妙だし、なるべく自然な格好の方がいいと思うんだ」

 僕の言葉に、エリナも頷いた。

「そうだな、クオンくんの言う通りだ。冒険者として登録するからには、少しはそれっぽく見えた方がいいしね」
「……わたし、二人に気を使ってもらってばかりで――」

 キャルはそう呟くとうつむいた。と、突然、エリナがガバとキャルに抱きつく。

「何を言ってるんだ、キャルちゃん! もう運命共同体だと言ったはずだぞ、気を使ってるのではなく、我々にとって一番重要なことを最優先してるだけだ。それに、いい加減、私のことを『さん』づけするのはやめないか? え?」

 エリナはそう言うと、キャルの頬に自分のほっぺをくっつけた。
 キャルが赤くなって、口を開く。

「じゃあ……エリナ」
「おお! それそれ。いいねえ、なんか妹ができたようだ、嬉しいなあ」

 エリナはご機嫌だ。そのままキャルと腕を組むと、軽い足取りで街を歩いて行った。

 やがて洋服店に到着する。僕らは恐る恐る、洋服の値札を見た。

「うむ。許容範囲じゃないか。キャルちゃん、気に入ったのを選ぶといいよ」
「わたし……どういう物を選んだらいいのか、判らなくて。――クオン、選んでくれる?」
「え? 僕が?」

 センスの欠片もない僕がキャルの服を選ぶなんて――と、思ったが、じっと見つめるキャルの眼を見ると拒否することもできず、僕は頷いた。

 キャルに似合っていて、それでいてちょっと冒険者とか魔導士っぽく見える服。
 ……ダメだ、判らん。考えてみれば引きこもってる時期が長すぎて、服なんか自分で買ったことないんだった。

 どうしよう。正直に無理って言うか――いや、ここは勇気を出して。

「すいません!」

 僕は店員の女性に声をかけた。店員さんはロングスカートを身に着けた身ぎれいな女性で、耳が横に尖って出ていた。エルフ、という奴か。

「はい、何かお探しですか?」

 店員さんが、微笑みながら答えてくれる。緩くウェーブのかかった金髪をした、凄い美人だ。

「あ、あの、この子に合ったフード付きの服を探してるんですけど。彼女は魔導士なんです」
「ああ、それなら向うの並びに、いいのがありますよ」

 店員さんはそう言うと、僕たちを別の並びに案内してくれた。

「この辺が魔導士がよく来てるハーフコートね。耐熱性が優れたものなんかもあるから、よくご覧になってください」
「ありがとうございます」

 僕はお礼を言うと、ずらりと並んだ丈の短いコート類を見た。
 ふと、白いコートに眼が止まった。
 白地に青のラインが入った、雰囲気のある服だ。なんかキャルに合うんじゃないかって、直感で思った。

「これはどうかな?」

 僕はその一品を手に取った。
 キャルに手渡すと、キャルが少し嬉しそうに服を見る。

「凄く素敵な感じ……」
「ちょっと着てみたら、どうだい?」

 エリナに促されて、キャルはマントを脱いだ。僕がそれを受けとる。
 キャルが白いハーフコートを着る。

「ど、どう?」

 すっごく可愛い。もう、その可愛さに、胸がドキドキしてきた。

「凄く……いいと思う」
「私もいいと思うな。凄く可愛いし、結構、実用性もありそうだ」

 キャルは嬉しそうに微笑むと、店内の鏡で自分の姿を見た。
 鏡の中のキャルが、テレたように赤くなる。

「気にいらなかったら、別のにすればいいと思うよ」
「ううん。わたしもいいと思う。けど、値段が――」

 キャルはコートを脱ぐと、値札を見た。眼を見開いている。僕とエリナも覗き込んだ。15400ワルド。
 キャルは、ちょっと残念そうな笑みを浮かべた。

「今のわたしたちには、ちょっと高いよ。もうちょっと別なのにしよ?」

 僕は、その言葉を聞いて、ちょっと考えた。――けど、僕は言った。

「いいじゃない。それにしようよ」
「けど……こんなに使ったら――」
「僕たちの門出なんだから、ここで出し惜しみしないで行くのがいいと思うんだ」

 僕はそう言った。と、エリナがそれに続ける。

「そうだね。女の子の服って大事だし。それに、それだけ出費したなら、頑張って稼ごうって気になるじゃない。気合を入れるためにも、それを買っていこうよ」
「……いいの、二人とも?」

 ためらいがちのキャルの問いに、僕らは頷いた。
 キャルが、とびきりの微笑みをみせてくれた。

 その場でコートを身に着けたキャルは、そのまま街に出た。
 マントは僕が肩から羽織る。僕もこの方が落ち着く。
 
 新しい衣装を身に着けたキャルは、凄く嬉しそうだった。
 本当はフードを被ってない方が可愛いと思うけど、それは仕方ない。

「うん。なんか私たち、冒険者パーティーに見える気がしてきた。いい雰囲気だぞ」

 エリナがそう口にする。僕もそんな気がした。
 ふと気づいて、僕はエリナに近寄ると、囁いて訊いた。

「そう言えばエリナさんの服は、どうしたんですか?」
「あ、実はね、私は最初からこの格好で転生したんだよ」

 エリナが眼鏡の奥でわらってみせる。

「え? その格好で? どういう事ですか?」
「実は私はオタクでね。この格好は『ロング・ファンタジーⅢ』のヒロイン、アムネシアの格好っぽいのだ」
「い……言われてみれば――」

 眼鏡を覗けば、ファンタジーゲームのヒロインっぽい格好だ。 
薄手の生地で、ひらひらとした布が舞ってる、不思議な服だとは思ったんだ。

「アムネシアに憧れてたから、そんな格好になっちゃったんだろうねえ。けどおかげで、この世界には比較的すんなり馴染んだんだ」
「そうだったんですか」

 頷きながら、僕はふと考えた。

 エリナは前の世界でオタクだったってのは、なんとなく判る。それはそれとして、この世界に僕同様に転生してきたとしたら、エリナも前世では死んでるはずだ。

 僕は無理矢理、狩谷に殺されたんだけど、エリナはどうして死んだんだろう?

 けど、よく考えたら、僕が死んだ事情だって話してない。
 ……なんとなくだけど、いじめられてた奴に殺された、なんてあんまり言いたくない。

 けど、いつか話そう。……キャルにも。

「――ね、ギルドに着いたみたいだよ」

 地図を持って先を歩いていたキャルが、振り返る。
 僕は我に返って、エリナを見た。

「ようし、着いたか――ちょっと、緊張するな」
「そ、そうですね」

 僕らは三人で、ギルドの建物を見上げた。
石造りで三階建ての、立派な建物だ。かなり大きい。

 僕たちの横を通り抜け、人が入っていく。
 皆、冒険者っぽい格好の人たちだ。結構、体格がいいし、強そうだ。

「よし、まずは行ってみるか」

 エリナの言葉に、僕とキャルは頷いた。
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