能なし転生者は、スローライフを望んでる ~能なしとして処分されたけど、属性変化スキルで生き延びる!~

佐藤遼空

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6 属性変化で加工する

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「作るって、盾を?」

 驚くキャルの問いに、僕は答えた。

「うん」
「しかし――素材は?」

 エリナがより突っ込んだ問いを発する。僕はそれを手に取った。

「これです」
「あいつらの――鎧?」
 
 僕は頷いた。

「この鎧は金属と皮でできてます。これを分解して、再構成すればいいんじゃないかと」
「確かにそうだが……できるのかい?」
「やってみます」

 あいつらの残したアーマーの一つを手に取り、僕は『軟化』を念じた。鎧は粘土のようにふにゃふにゃになる。

 僕は粘土状のアーマーから縁を囲っている金属部を外す。
 それを床に置くと、それだけ軟化が解除されて、その形で固まる。

「うん、加工できそうです」

 僕はもう一人のアーマーや、肩当てなどの防具も、みな分解してしまう。
 そうして皮部分と金属部分に分けた。

「加工道具が必要だな――」

 僕は剣を一本取った。剣は三本ある。素材はまだ充分にある。

 一本の剣を軟化させてしまう。そして刃を握り潰して鉄の塊にしてしまうと、僕はそれを転がしながら一本の棒にした。

「いやあ、凄いな……クオンくんの力って」
「ほんと……そうですね」

 エリナとキャルが、驚いたように声をあげる。なんかテレる。

 僕はその鉄棒を手にすると、皮部分をより集めて塊にした。それをうどんみたいに、鉄棒で平たく引き伸ばす。

 盾にするからには、それなりの大きさが必要だろう。
 身体が隠れるくらいの大きさにしたら、形を整える。

「今度は縁取りだな」

 金属部を軟化させて、細い紐を作り、皮の縁を挟むように囲っていく。
 感覚的には、完全に粘土遊びだ。

 けど、その加工を終わると、僕は軟化を解いた。

「どうです?」

 エリナとキャルに見せる。

「凄いわ、クオン! 本当の盾になってる!」
「確かに凄いぞ、クオンくん。君のディギアは加工に非常に有効だ」

 キャルの微笑みと、エリナの驚きに、僕は笑ってみせた。

「後は残り素材で取っ手をつけて、と」

 できた。身体二人分の半身を隠せるくらいの、大きめの盾が完成した。

「この棒を、二人分の武器に変えちゃいましょうか」
 
 僕はそう言うと、鉄棒を二つに分けた。
 長さが30cmくらいの棒が二本できる。

「多分、取っ手がゴムとかの方が使いやすいんですよね……」

 何かそれっぽい物はないか? 僕は家の中を探した。ゴムはない。

 ふと、日本刀の事を思い出した。あれは刃の下の方が細くなっていて、それを木で挟んで柄にしてたはず。

「う~んと……」

 僕はその辺にあった木切れを取ると、鉄棒の手元部を少し削ぎ落そうとした。
 が、左手で抑えた鉄棒も軟化してるが、右手に持ってる木切れも軟化してしまって、うまくナイフのように使えない。

「左右で、影響を分けないといけないか。左手だけに、力を集中」

 そう口にしながら、左手だけに念を集中した。すると今度は、抑えた鉄棒だけが軟化し、うまく木切れで鉄をそぎ落とせた。

「どうせだったら、鉄の方が使いやすいか」

 僕は削ぎ落とした鉄の方を、薄いナイフに加工する。まあ、刃が入ってないからペーパーナイフのようなものだが。

 それで鉄の棒の柄の部分を細く加工した。もう一本の方も、同じように加工する。

 もう一本の削ぎ落とした分を、細い釘状に加工した。

「それは、何に使うんだい?」
「目釘ってものを、入れるかと思うんですよ」

 僕はナイフを手にして、廃墟の木のあまり痛んでなさそうな部分を探す。

「今度は何を探してるんだい?」
「柄に使う、木を探してるんです」
「そう言えば……裏に薪が積んであったな」

 裏に廻ると薪が積んであり、それには小さな屋根がついていた。
 キャルが驚きの声を洩らす。

「こんな物があったんですね」
「薪なんか割れないから、使うって意識がなかったんだ。けど、クオンくんがいれば、薪は使い放題なんだな」
「そうか。夜は結構、薪拾いしなくてよさそうですね」

 そう言いながら、僕は適当な長さの薪を取った。家に戻る。

 薪を軟化させてナイフで切り、適当な大きさにすると、鉄棒の柄の細い部分を木に差し込んだ。それを横から目釘でとめていく。裏まで出た目釘をナイフで切り落して、完成だ。

「できました、二人の警棒。どうでしょう?」

 僕は鉄棒を二人に渡した。二人がそれを受けとる。

「クオンくんが簡単に扱ってるからそんな風に見えなかったけど、意外に重いな。それにやっぱり鉄棒だ。堅い。上等な警棒だよ」
「ほんと、凄いわ、クオン」

 キャルに褒められて、ちょっとテレた。

「二人は剣を振りまわすのがキツいだろうけど、何か護身具が必要だろうとは思ったんです。一応、モンスター相手なんで」
「クオンくんは、どうするんだい?」
 
 エリナの問いに、僕はちょっと考えながら言った。

「実はちょっと迷ってるんです」
「何を?」
「使うのに、木の棒がいいか、鉄の棒がいいか、です」

 エリナもキャルも、不思議そうな顔をした。
 僕は持ってきた薪を一本、手に取った。

「これを重くする――」

 ぐん、と薪が重くなって、僕の腕では支えきれなくなって、僕の手から落ちる。けど、薪は僕の手から離れた瞬間に重さを失くし、カランと乾いた音をたてて床に落ちた。

「やっぱり、武器は鉄棒の方がよさそうですね」
「どういう事なんだい?」

 首を傾げる二人に、僕は答えた。

「僕自身を重くした場合、僕は重さを意識しないで動けるんです。けど、手にした物を重くした場合、その重さは僕にモロにかかるのが判りました」
「それが……どうなるの?」

 キャルが不思議そうに訊ねる。

「木の棒を持って戦った場合、実行性のある攻撃にするためには、棒を重く硬くする必要があるんだ。けど、棒を重たくしたら、僕も振り回せないって事が判った。だからそうなると、最初から硬度と重量を持ってる鉄棒を、僕の力で軽くして振り回した方が、武器としては有効だと思う」

「クオンって、もう自分の異能をどう実践するかを考えてるのね」
「能なしだからね。自分にあるものを、どれくらい活かせるかが決め手だと思うから。あ、これは卑下してるんじゃなくて、事実を考えてるだけ。僕の『属性変化』は、色々な可能性があると思ってる」

「そうだな、クオンくんの力はかなり凄いと思うぞ」

 そう言ったエリナに笑いながら、僕はもう一本の剣を鉄棒にした。二人にあげた分の倍の長さの棒だ。ちょっと、ビュンビュンと振ってみる。やっぱり重たい。
 だけど――

「これを軽くすれば――」

 ヒュッ、と空気を切り裂く音がした。僕が振った棒は、重さがないかのように軽いので、かなりの速さで振れる。

「うわ、早い! 見えないくらいだ」
「これで、モグラの速さに追いつけるといいんだけど」

 そう言って僕は、笑ってみせた。



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