能なし転生者は、スローライフを望んでる ~能なしとして処分されたけど、属性変化スキルで生き延びる!~

佐藤遼空

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2 エリナの霊力練習

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「カミラさんは霊力使いという事は、ヒモグラの場所を霊気で感知できるってことなんですよね?」
「ええ……まあ、そうだけど」

 エリナの勢いに、カミラさんが戸惑っている。

「私、霊力でヒモグラを感知する――って言って出てきたのはいいけど、まったくやり方が判らないんです。お願いします! 私に霊力の使い方をご指導ください!」

 エリナが凄い勢いで頭を下げる。カミラさんは、眼を見開いている。

「あらあら、まあまあ……」
「――ダメ…ですか?」

 エリナが顔を上げつつ、眼鏡の奥からチラ見する。
 カミラさんは苦笑しながら、エリナに応えた。

「わたしなんか、大したことない霊術士なんですよ。ヒモグラを探知できても、一人じゃ駆除できないくらい、攻撃力が弱いんですから。冒険者をやっていた頃は、探索と治癒専門だったの」

「冒険者だったんですか!」

 僕らは一斉に声をあげた。そしてエリナはさらに勢いづく。

「是非、教えてください! 私たち、新人冒険者なんです!」
「まあ、ヒモグラ駆除に来るのだから、そうよね。いいですよ。私の教えられることなら」
「ありがとうございます!」

 エリナは深々と頭を下げた。

 そこでカミラさんは、改まってエリナを見た。

「それじゃあ、まず人の霊気の感触をかぎ分けるの。そこから始めましょう。え~と――」
「エリナ・ロイです! ……で、霊気を――かぎわける?」

 エリナは首を傾げる。

「かぐ、というのは例えだけどね。そう…この有尾族のお嬢さん――」
「キャルです」

「キャルさんと、こちらの――」
「クオンです」
「クオンさんの霊気の色、というか、気配が違うのが判るかしら?」

 エリナはじーっと僕らを交互に見るが、結局、首を振った。

「……全然、判りません」
「眼に頼ってるからよ。眼を閉じて、二人を感じてごらんなさい」

 エリナは言われた通り、眼を閉じる。
 しばらく黙っているが、やがて口を開いた

「クオンくんは……尖った感じ――キャルちゃんは水みたいな――」
「そう、二人の違いが判るのね」
「はい。なんとなく」
「それじゃあ、二人を移動させるわね」

 カミラさんが、僕らに適当に入れ替わるように指さす。

「右はどっち?」
「う~ん……キャルちゃん?」
「正解。どんどん、行くわよ」

 そう言うと、カミラさんの指示で、僕らはエリナの前で左右を入れ替わるゲームを20回以上はやった。次第に外れることがなくなり、左右のどちらにいるかをエリナが完全に当てる。

「じゃあ、今度は少し難しくしましょう。まだ眼をつぶってて」

 カミラさんが指さしで、僕らに移動するように促す。キャルはエリナの左斜め後方。僕は正面だけど、さらに遠く離れた。

「どうかしら? キャルちゃんは何処?」

 エリナは目をつぶったまま、しばらく静止している。
 が、やがてキャルのいる左斜め後方を指さした。

 キャルが驚きの声をあげようとするのを、カミラさんが指を口に立てて止める。

「それじゃあ、クオンさんは?」

 またエリナは、じっと静止している。
 しばらく静止していたが、やがて口を開いた。

「正面にいるけど……離れてる感じ」
「そう。じゃあ、わたしは?」
「カミラさんは――私の右斜め前」

 カミラさんは、にっこりと微笑んだ。

「はい。じゃあ、眼を開けてみて」

 エリナが眼を開いて、自分の答えを確認する。驚きと――そして喜びの表情が浮かんだ。

「やった! 私、できました!」
「うん。エリナさん、ちゃんと素質があるわよ。それじゃあ、ヒモグラはね――ちょっと探ってきて」

 そう言うと、リスの大群が散らばっていく。と、すぐに一匹が戻って来た。

「チチチ」
「はいはい、判りましたよ」

 どうやら、あのリスたちは使役できる存在らしい。探索したようだ。
陰陽師の使う式神みたいなものか。
分霊体ファントム――って言ったか、これが霊術士特有の能力なんだろうな。


 カミラさんは歩きだすと、リスの招く畑の一角で足を止めた。

「この足元に一匹いるわ。――スコップで掘ってみて」

 ふと気づくと、リスたちが大群でスコップを担いで持ってきている。
 僕はそのスコップを手に取ると、その場を掘り始めた。

「ストップ! そこで一回止めて。これ以上掘ると、ヒモグラが飛び出してくるから、盾を持つ人は掘ってる人の傍に立って」

 エリナが盾を持って、僕の傍に来る。

「それじゃあ、掘って」

 スコップを入れる。と、ヒモグラと思しき物体が、地中から急に出てきた。

「わ!」

 驚いていると、ヒモグラは口を開いて、僕に向かって炎を吐き出した。
 それをエリナが盾で受ける。

 と、空中にいるヒモグラを、リスの群れが襲う。あっという間にリスの塊に包まれたヒモグラは、地面に落ちて動かなくなった。

「まだ生きてるから、このヒモグラの霊気の感触を覚えて」

 カミラさんに言われ、エリナは眼を閉じてヒモグラに顔を向けた。

「カミラさん、ファントムを使ってヒモグラを倒せるんですね」
「これくらい人数がいればね。わたしが掘って、わたしが防御して、わたしが倒すのは難しいの。そういう意味よ」
 
 僕はカミラさんの言う事に、納得して大きく頷いた。
 と、エリナが声をあげる。

「覚えました! なんとか地中にいても判ると思います。ありがとうございます、カミラさん!」

 エリナがカミラさんに、また頭を下げた。
 カミラさんは、微笑する。

「いえいえ、いいのよ。こういう事もあるから、わたしの処に新人さんを送ってるんでしょうしね。それじゃあ、今度はあなたたちだけで、頑張ってみてね」
「はい、頑張ります!」

 カミラさんは微笑むと、その場を後にした。僕らは顔を見合わせて、頷きあう。

「よし、じゃあ私たちだけでやってみよう!」
「はい!」

 そう言うとエリナは眼を閉じて、そっと畑を歩き始めた。しばらく歩く。
 と、ほどなくしてエリナは足を止めた。

「この下にいると思う」
「掘ってみましょう」

 僕はスコップを使って、地面を掘り始めた。キャルが傍に来て、盾を構える。

「出てくる前に、声をかけてください」
「うん。……けど、深さの探知が難し――」

 そう言ってるはしから、ピョンとヒモグラが飛び出してきた。
 そして僕をめがけて火を噴く。

「わあ!」

 と、声をあげると、キャルが盾で火を防ぐ。するとヒモグラは地面に着地し、あっという間に地中に隠れてしまった。

「あ――逃げられた」
「あれ? ヒモグラをやっつける役は?」
「あ……この場合、私がやっつけなきゃいけないのか」

 僕らは互いに顔を見合わせる。……ちょっと作戦が、足らなかったようだ。


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