能なし転生者は、スローライフを望んでる ~能なしとして処分されたけど、属性変化スキルで生き延びる!~

佐藤遼空

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2 真剣な気持ち

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 僕たちが何も言えないでいると、カミラさんは言葉を続けた。

「けどね、あなたたちがとっても優しくて純粋な若者だから、応援してあげたいのは本当。だから、ささやかだけど、贈り物をさせてね」

 カミラさんはそう言うと、つと席を立ってすぐに戻って来た。

「エリナさんは、霊術士だけど、まだ充分に使い方を知らないみたい。だからこれをあげるわ」

 そう言ってカミラさんは、一冊のノートを出した。

「これは?」
「わたしが霊術の先生から教わったことや、自分が霊力を使っていくうちに気付いたことなどをまとめたノート。霊術は魔法と違って、体系的な理論が無くて、基本的には師からの口伝が多いから、自分でまとめるしかなかったの。これが役にたつんじゃないかと思って」

 エリナさんはノートを手にすると、それをめくった。
 その見ているエリナの眼鏡の奥が、驚きに変わっていく。

「これ……凄いです! 霊術って、こんなに色々な使い方をするんですか?」
「あくまで、わたしの知ってる事だけどね。名前のようなものは書いてないから、わたしの事は読んでも判らないし。役にたてばいいのだけれど」

 カミラさんが微笑むと、エリナは席から立ち上がって礼をした。

「ありがとうございます! カミラさんのこと、心の師匠だと思って――勉強させてもらいます」

 カミラさんは、静かに頷いた。そして次にキャルを見て、小さな指輪を出す。
 緑の宝石がついた指輪だ。

「キャルさんにはこれ」
「これは――魔晶石の指輪ですか?」

「小さなものだけどね。わたしは魔導士じゃないから、使い道がなくて持ったままだったんだけど、これはまだ何の魔法も入ってないから好きに使って。

 五角イノシシの時は詠唱で魔法を使ってたけど、火炎の温度が足りなかったんで焼き切れなかった。あなたくらいの魔力があったら、高度な魔法を使えるし、それを魔晶石に入れているのが最近の普通でしょ? けど、詠唱してたから、まだ魔晶石も持ってないかもって」

「実は……そうなんです。とてもありがたいです、ありがとうございます」

 今度はキャルも席から立って、静かに頭を下げた。

 カミラさんは、今度は僕を見た。

「クオンさんに役に立つ物があるかしら――って思ったんだけど、これはどうかしらね?」

 そう言ってカミラさんが出したのは、眼が左右に分かれてるタイプのゴーグルだ。

「わたしの夫は格闘家でね、脳みそまで筋肉みたいな人だったけど、よく言ってたの。『眼だけは鍛えることができねえ』って。それであの人は、戦闘時はゴーグルだけ着けてたのね」
「え! じゃあ、これは旦那さんの形見――そんな大事なもの……」

 僕が言いかけると、カミラさんは静かに首を振った。

「ううん、いいのよ。他にも思い出の品はあるし、もしクオンさんが有効に使ってくれるなら、あの人も喜ぶと思うから」

 カミラさんの静かな笑顔を見て、僕も心を決めた。
 ゴーグルを手に取ると、立ち上がって、それを頭からかぶり嵌めてみる。

「どうですか?」
「とっても似合ってるわ」

 僕はキャルとエリナの方にも向いてみた。

「凄くカッコイイぞ、クオンくん」
「うん。とても似合ってると思う」

 僕は二人の言葉を聞くと、ゴーグルを頭上に上げた。

「ありがとうございます、カミラさん。大事にします!」

 僕もカミラさんに頭を下げた。
 最後に僕らは全員で、並んでカミラさんにお礼の言葉を言った。

「「「本当にありがとうございました!」」」

 カミラさんも席から立つと、微笑んで言った。

「わたしこそ助けてもらって、本当にありがとう。あなたたちには色々な大変なことがあるかもしれないけど――きっと乗り越えていけるわ。頑張ってね」

 その言葉を最後に、僕らはカミラさんのお宅を後にした。

   *

 イノシシの死骸には、カミラさんが古いシーツをくれたので、それをかけて荷車に縛った。

 僕たちは荷車を引きながら、帰り道を歩いた。

「重くない? クオンくん」
「あ、大丈夫ですよ。軽くして運んでますんで」

 多分、能力を使うことで失われる体力はあるだろうけど。

「……わたし、二人に迷惑をかけるかもしれない」

 不意にキャルが、そう口を開いた。

「わたしの事、あいつらがまだ探してるかもしれないの。そうしたら、またクオンや、エリナに迷惑がかかる……」
「何を言ってるんだよ!」

 僕は思わず声をあげた。

「カミラさんも言ってたじゃないか、転生者は軍事機密に関わってるって。確かに僕らは殺されかけて、それを生き延びてる。生きてる秘密みたいなものなんだ。僕らの方こそ、キャルに迷惑をかけるかもしれないんだよ」

 僕がそう言うと、エリナがキャルを見つめた。

「キャルちゃんは、私たちと一緒にいるのは危険って思う? 嫌かな?」

 キャルは眼をつぶって、激しく首を振った。

「ううん! 二人と――一緒にいたい!」
「じゃあ、それでいいじゃない。――どんな奴らが来たって、頑張って生きていこうよ」

 僕はエリナの言葉に頷いて、キャルを見つめた。

「僕らは何も悪い事はしてない。堂々と生きていっていいと思うし――僕は、どんな敵が来たって……キャルのことを守るよ」
「クオン……」

 キャルが、僕のことを見つめた。
 僕も、キャルに眼差しを向ける。

 一時だけの気持ちじゃない。これは僕の、ただ一つの真剣な気持ちだ。

「――はいはい、だから我らブランケッツ、みんなで頑張っていこう! まあ、このイノシシを換金して、美味しいものでも食べよう。今日はご馳走だ!」
「いいですね! それ」
「うん。……いいと思う」

 キャルが嬉しそうに微笑んだ。
 この笑顔を守るために――僕は頑張る。

「――それはそうとさ、私、ちょっと気になることがあるんだ」

 と、エリナが言い出した。

「どうしたんです?」
「いやあね、私、イノシシの処からキャルちゃんを連れ出そうとした時、キャルちゃんも透明になるように念じたんだ。だけどキャルちゃんは透明にはならなかった」

「あ~、他人は勝手に透明にできないって事ですか。生き物は無理なのかな? じゃあ、僕の能力も無理かもですね」
「うん。もう一回試してみようと思って。キャルちゃん、ちょっといいかい?」

 エリナがそう言って、キャルの肩に触れる。と、キャルの姿がいきなり見えなくなった。

「うわ! なってるじゃないですか、透明化! なってますよ!!」
「ホントだ……。なんでだろう?」

 エリナが驚いた顔で手を離す。と、キャルの姿が現れた。

「あの……わたし、今度はエリナさんの言う通り、透明になろうと思ったんです」
「それなのかな? クオンくん、反発してみて」

 エリナが僕の肩に触れる。透明化しない。

「今度は透明化するって思ってみて」

 透明化する。

「あ! 消えた!」

 キャルが声をあげた。僕も自分の手を見る。見えない。

「そうか。本人の同調意志があれば、透明化の作用は、他人にも影響を与えられるんだな」

 僕の能力も同じだろうか? と、不意に試してみたい事ができた。

「そうだ、いい事思いつきましたよ」

 僕はキャルとエリナに言った。




    *     *     *     *     *

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