書きの種 ’２５(エッセイ)

『裏切りの島で』が完結！

新聞小説である『裏切りの島で』が完結した。作者は塩田武士さん。や～、毎日欠かさず楽しませてもらった。面白かった。

舞台はとある小さな島――久遠島である。ここでは条例により、全てのインターネット機器が禁止されている。それでどうなるかというと――いわば『三丁目の夕陽』状態にになるのだ。最初はそういうレトロ懐古趣味の小説かと思った。が、違った。

このインターネットがない島に、突如、怪人が現れる。ハシビロコウの仮面を被って動画配信をする配信者シンだ。このシンは、ネット禁止の島へ敢えて潜入して動画をとる、というタブーを犯すことで、動画の人気を集めようとしていたのだ。

このシンが主役のパートでは、シンがたまたま大学時代に動画配信をしてバズり、そこから配信者になった経緯が書かれる。同級生たちに比べ、明らかに金持ちになったシン。最初は優越感に浸っているが、次第にその心もとない足元に憂慮の念を抱くようになり、そして動画の人気が落ちるとその心配は現実のものとなった。

その人気の一発逆転の作が、禁断の島での動画配信だったのだ。ところが、である。シンはこの島をかぎまわるうちに、明らかにカタギの者とは思えない連中が出入りする場所を発見する。そこを探ろうとすると、ピンチになる。そこで突如、屈強な「アニキ」にすくわれる。

このアニキは実は潜入捜査をしていた刑事で、この島はインターネットがないのをいいことに、ヤクザが裏カジノを経営するマーケットになっていたのだ。そこの潜入捜査にシンもつきあう事になり、島の「裏側」がそこで明るみになる。と同時に、この動きを島の役場勤めをしている女性も気づいており、そこでこの両者は出会うことになる。

懐古趣味から一転、最新のネット配信事情、そこから一気にカジノ潜入の捜査ものとのなり脱出の際にはアクションも出る。実に多彩な顔を持った小説であり、その都度、主人公は変化する。複数の視点から語られる事件を顛末を、実に楽しく読んだ。一年間ありがとうございました、お疲れ様でした。