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襲撃者たち
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佑一は鞄にノートパソコンをしまうと、電車に乗った。
人ごみの中を歩きながら、辺りに気を配る。ホームに入ると、佑一は列に並び電車を待った。その逆側に電車が到着する。
列の並びが電車に吸い込まれていき、佑一もそれに続く。が、急に踵を返して、佑一は発射する逆側の電車に飛び乗った。佑一はそういう類の行動を三、四回繰り返して、自宅へと向かう。『除菌』と呼ばれる、尾行をまくための行動であった。
特に公安警察だけがやるわけではないが、警察が自身の情報を知られないための行動である。除菌をする事、尾行者に注意する事。それらは公安に入った時に叩き込まれた、必須の技術であった。
(尾行(つけ)られている)
動きが見え見えで、その道のプロではなさそうだった。が、一人二人まいても、次が現れる。明らかに数人のチームであった。
(このパソコンが狙いか)
逆を言えば、この中には重要な機密が入っている、という事になる。佑一はある駅で降りると、ロッカールームに向かった。そこで鞄をロッカーにいれてしまう。夕方の構内は、徐々に人が増え始めている。が、その中から、佑一を挟むように数人の男が現れた。
それぞれがバラバラの私服だが、全員がサングラスをかけている。明らかに様相がおかしい。佑一はロッカーの鍵を、ゆっくりとズボンのポケットにしまいこんだ。
「……人の眼もおかまいなしか?」
(四人)
佑一は相手の人数を確認した。その中の一人、赤いキャップを被ってジャンパーを着た男が、近づいてくる。
「鞄を渡してもらおう」
「……判った」
佑一は相手を見ながら、ポケットの中を探る。男が笑いを浮かべながら、掌を前に差し出した。
と、佑一は瞬時に男の指を握り、それを直角に押し上げた。男の指の折れる音と感触が伝わる。
「ぎゃあっ!」
悲鳴を上げる男の股間に蹴りを放つ。そのまま動きを止める男の胸を両手で押し、後ろにいた男にぶつけた。
「うわっ!」
押された男とぶつかって、二人が倒れる。その間に、背後の男二人が襲ってきていた。
佑一を掴もうとしている手を左手で払い、右の指先を相手のサングラスに突き込む。サングラスが割れて呻き声をあげる男の横から、もう一人の男が拳を打ってきた。佑一はそれを前手で払う。
が、男は続けて拳を打ってきた。左、右、左、右。佑一はそれを前腕で受け流すが、決して相手の正面には立たない。左に回り込んだ後は、逆に右に回り込む。と、不意に身を翻して左に回り込みながら、佑一は相手の横に入ると同時に、膝蹴りを鳩尾にくらわせた。
「ぐはっ」
呻いた男の首筋を、佑一は両手を組んだ鉄槌で思いきり打つ。男の身体が駅の床に、ばたりと沈み込んだ。
が、その佑一を背後から、両腕ごと抑えるように組みついてきた。相当な力である。佑一は右足で相手の足の甲を踏みつけると、そのまま膝をつくように沈み込みながら、相手の右腕を巻くように落とした。相手が床に転がる。
と、その目の前に蹴り足が飛んできた。佑一は思わず両腕でガードする。しかし衝撃は防ぎきれず、自分の両腕で佑一はしたたかに顔面を打って吹っ飛ばされた。佑一の眼鏡も飛ばされて、床に転がる。、
「くっ……」
身体を起こした佑一を、その男がさらに横蹴りを喰らわせようとする。佑一は敢えてもう一度寝て、男の蹴りを躱す。と、空振りして身体が流れた男の軸足を、佑一は思いきり蹴りつけた。
軸足が流れて男が転倒する。佑一はその床に倒れた男に、飛びつくように顔面パンチを見舞った。
「があっ」
男のサングラスが吹っ飛び、その素顔が見えた。怯んだ男の頭部を抱え、思いきり鼻っ柱に膝蹴りを叩き込む。男の頭部を放し際に、さらに前蹴りを入れて、男の身体を突き放した。
そこに投げから起きた男が体当たりの勢いで突進してくる。佑一はそれをギリギリまで寄せておいて、横にすり抜けて躱した。躱された男が勢い余って、ロッカーにぶつかる、凄まじい衝撃音が、構内に響き渡った。
気が付くと、この乱闘騒ぎを周囲の人々が見ている。男たちも、身体を起こして状況を見直していた。
「チッ」
一人の男が人差し指を立てると、男たちが一斉に走り去る。佑一は息をつきながら、飛ばされた眼鏡を拾いあげた。割れている。
「やってくれたな…」
佑一は割れた眼鏡をたたむと、そう呟いた。
(しかし、これで判ったことが幾つかある)
佑一はパソコンを取り出すと、再び電車に乗っていた。その間に、思考は目まぐるしく動く。
(PCを狙ってきた、という事は、まだ敵は必要な情報を得ていない。つまり西村の家にあったPCには、必要な情報がなかったか、取り出せなかったという事だ)
車窓の流れる風景を見ながら、佑一は渋い表情になった。
(そして敵は複数人、あるいは組織。しかし、判らない…連中が西村を殺したのか? 殺してまでして情報を奪おうとしたが、それが得られなかったから、さらに狙ってきたのか)
佑一には、核心にある疑問があった。
(動きが早すぎる)
佑一は風景を睨んだ。
(オレがPCを持ち出した途端、襲撃。つまり相手は研究所からPCが持ち出されるのを狙っていたし、それを知ることができた。あそこでオレがPCを持ち出すことを知ることができたのは誰だ?)
佑一は電車を出て、人波に呑まれて除菌をしながら考える。
(まず所長を含めた厚木研究所の所員。この中に敵との内通者がいる可能性が高い――)
しかしそこまで来て、佑一はふと思い出した。
“国枝、一足先にパソコンを持って帰れ。”
(まさか、安積さんが)
佑一は、一人息を呑んだ。が、さらに考える。
(いや…あれは本部からの指示だったはずだ。あの指示を出した人間が、裏で敵の組織にオレがPCを持ち出すことを連絡していたとしたら……)
佑一はその可能性に、心臓を掴まれたような威圧感を感じた。
(敵は公安内部にいる)
ぐ、と佑一は歯ぎしりした。しかしまた思い直す。
(いや、本部の指示であるかのように、安積が見せた可能性もある。同時に、その指示を出した課長、あるいは班長いや、もっと上の存在が敵との内通者の可能性もある。さらにはその両者ともに、敵である可能性も――)
佑一は独り歯を食いしばった。
(一体――誰が敵で、誰が味方なんだ)
大勢の人間の乗る電車の中で、佑一は例えようもない孤独と脅威に襲われていた。
*
「国枝くん」
部活終わりの帰宅路で呼び止められて、佑一は振り返った。同学年の剣道部員である、内海正英であった。
「内海か…どうした?」
内海は剣道部員の中でも小柄な方で、童顔である。あまり気の強い方でもなく、同学年なのに和真や佑一に対して控えめな態度で接する生徒であった。
「あ…あのさ、明日、選抜メンバーは特別な朝練やるんだって」
「え、そうなのか? 何時から?」
「7時から。国枝くんに伝えてくれって」
「そうか、判ったよ」
「うん。それじゃあ」
内海はそう言うと、手を振って去っていった。
翌朝、佑一は言われた通り7時に稽古場へ行った。誰も来ている気配がない。訝しみながらも剣道着に着替えて道場へ出ると、いつの間にか三人の二年生が現れていた。二年生たちは既に、道着と防具を着けている。
「おはようございます。…先輩たちだけですか?」
佑一の問いに、二年生の高岩が声を出す。
「その内に来るだろう。防具を着けろ」
はい、と返事をして佑一は面を着けた。道場に立つと、正面に二年生が並んだ。
「国枝、選抜に選ばれたお前に、特別稽古を行う。まずは掛かり稽古、三回だ」
「はい」
掛かり稽古とは、引き立て役の者が相手に打たせ、連続で技を出す稽古である。掛かる方は休みなく攻め続けるため、体力を相当に消耗する。
(三回か、キツイな)
そう思いながらも、佑一は三回続けて掛かり稽古を行った。二年生たちは交代するが、佑一は休みなしである。三回終わった時には、息が完全にきれていた。
「よし、じゃあこれからが本番だ。俺たちが三人が同時に攻める。お前はそれを凌ぐんだ」
「え? 三人同時ですか?」
「そうだ」
有無を言わさぬ雰囲気で、高岩が言った。
「じゃあ、行くぞ!」
そう言うなり、高岩を正面にして、もう二人の二年生が佑一の背後に廻った。
(なんだ、それ?)
突然の事に、動揺する間もなく高岩が打ち込んでくる。佑一がそれを受けた瞬間、背後から後頭部を打たれた。それを感じた瞬間、全身に衝撃を受けて佑一はよろけた。
人ごみの中を歩きながら、辺りに気を配る。ホームに入ると、佑一は列に並び電車を待った。その逆側に電車が到着する。
列の並びが電車に吸い込まれていき、佑一もそれに続く。が、急に踵を返して、佑一は発射する逆側の電車に飛び乗った。佑一はそういう類の行動を三、四回繰り返して、自宅へと向かう。『除菌』と呼ばれる、尾行をまくための行動であった。
特に公安警察だけがやるわけではないが、警察が自身の情報を知られないための行動である。除菌をする事、尾行者に注意する事。それらは公安に入った時に叩き込まれた、必須の技術であった。
(尾行(つけ)られている)
動きが見え見えで、その道のプロではなさそうだった。が、一人二人まいても、次が現れる。明らかに数人のチームであった。
(このパソコンが狙いか)
逆を言えば、この中には重要な機密が入っている、という事になる。佑一はある駅で降りると、ロッカールームに向かった。そこで鞄をロッカーにいれてしまう。夕方の構内は、徐々に人が増え始めている。が、その中から、佑一を挟むように数人の男が現れた。
それぞれがバラバラの私服だが、全員がサングラスをかけている。明らかに様相がおかしい。佑一はロッカーの鍵を、ゆっくりとズボンのポケットにしまいこんだ。
「……人の眼もおかまいなしか?」
(四人)
佑一は相手の人数を確認した。その中の一人、赤いキャップを被ってジャンパーを着た男が、近づいてくる。
「鞄を渡してもらおう」
「……判った」
佑一は相手を見ながら、ポケットの中を探る。男が笑いを浮かべながら、掌を前に差し出した。
と、佑一は瞬時に男の指を握り、それを直角に押し上げた。男の指の折れる音と感触が伝わる。
「ぎゃあっ!」
悲鳴を上げる男の股間に蹴りを放つ。そのまま動きを止める男の胸を両手で押し、後ろにいた男にぶつけた。
「うわっ!」
押された男とぶつかって、二人が倒れる。その間に、背後の男二人が襲ってきていた。
佑一を掴もうとしている手を左手で払い、右の指先を相手のサングラスに突き込む。サングラスが割れて呻き声をあげる男の横から、もう一人の男が拳を打ってきた。佑一はそれを前手で払う。
が、男は続けて拳を打ってきた。左、右、左、右。佑一はそれを前腕で受け流すが、決して相手の正面には立たない。左に回り込んだ後は、逆に右に回り込む。と、不意に身を翻して左に回り込みながら、佑一は相手の横に入ると同時に、膝蹴りを鳩尾にくらわせた。
「ぐはっ」
呻いた男の首筋を、佑一は両手を組んだ鉄槌で思いきり打つ。男の身体が駅の床に、ばたりと沈み込んだ。
が、その佑一を背後から、両腕ごと抑えるように組みついてきた。相当な力である。佑一は右足で相手の足の甲を踏みつけると、そのまま膝をつくように沈み込みながら、相手の右腕を巻くように落とした。相手が床に転がる。
と、その目の前に蹴り足が飛んできた。佑一は思わず両腕でガードする。しかし衝撃は防ぎきれず、自分の両腕で佑一はしたたかに顔面を打って吹っ飛ばされた。佑一の眼鏡も飛ばされて、床に転がる。、
「くっ……」
身体を起こした佑一を、その男がさらに横蹴りを喰らわせようとする。佑一は敢えてもう一度寝て、男の蹴りを躱す。と、空振りして身体が流れた男の軸足を、佑一は思いきり蹴りつけた。
軸足が流れて男が転倒する。佑一はその床に倒れた男に、飛びつくように顔面パンチを見舞った。
「があっ」
男のサングラスが吹っ飛び、その素顔が見えた。怯んだ男の頭部を抱え、思いきり鼻っ柱に膝蹴りを叩き込む。男の頭部を放し際に、さらに前蹴りを入れて、男の身体を突き放した。
そこに投げから起きた男が体当たりの勢いで突進してくる。佑一はそれをギリギリまで寄せておいて、横にすり抜けて躱した。躱された男が勢い余って、ロッカーにぶつかる、凄まじい衝撃音が、構内に響き渡った。
気が付くと、この乱闘騒ぎを周囲の人々が見ている。男たちも、身体を起こして状況を見直していた。
「チッ」
一人の男が人差し指を立てると、男たちが一斉に走り去る。佑一は息をつきながら、飛ばされた眼鏡を拾いあげた。割れている。
「やってくれたな…」
佑一は割れた眼鏡をたたむと、そう呟いた。
(しかし、これで判ったことが幾つかある)
佑一はパソコンを取り出すと、再び電車に乗っていた。その間に、思考は目まぐるしく動く。
(PCを狙ってきた、という事は、まだ敵は必要な情報を得ていない。つまり西村の家にあったPCには、必要な情報がなかったか、取り出せなかったという事だ)
車窓の流れる風景を見ながら、佑一は渋い表情になった。
(そして敵は複数人、あるいは組織。しかし、判らない…連中が西村を殺したのか? 殺してまでして情報を奪おうとしたが、それが得られなかったから、さらに狙ってきたのか)
佑一には、核心にある疑問があった。
(動きが早すぎる)
佑一は風景を睨んだ。
(オレがPCを持ち出した途端、襲撃。つまり相手は研究所からPCが持ち出されるのを狙っていたし、それを知ることができた。あそこでオレがPCを持ち出すことを知ることができたのは誰だ?)
佑一は電車を出て、人波に呑まれて除菌をしながら考える。
(まず所長を含めた厚木研究所の所員。この中に敵との内通者がいる可能性が高い――)
しかしそこまで来て、佑一はふと思い出した。
“国枝、一足先にパソコンを持って帰れ。”
(まさか、安積さんが)
佑一は、一人息を呑んだ。が、さらに考える。
(いや…あれは本部からの指示だったはずだ。あの指示を出した人間が、裏で敵の組織にオレがPCを持ち出すことを連絡していたとしたら……)
佑一はその可能性に、心臓を掴まれたような威圧感を感じた。
(敵は公安内部にいる)
ぐ、と佑一は歯ぎしりした。しかしまた思い直す。
(いや、本部の指示であるかのように、安積が見せた可能性もある。同時に、その指示を出した課長、あるいは班長いや、もっと上の存在が敵との内通者の可能性もある。さらにはその両者ともに、敵である可能性も――)
佑一は独り歯を食いしばった。
(一体――誰が敵で、誰が味方なんだ)
大勢の人間の乗る電車の中で、佑一は例えようもない孤独と脅威に襲われていた。
*
「国枝くん」
部活終わりの帰宅路で呼び止められて、佑一は振り返った。同学年の剣道部員である、内海正英であった。
「内海か…どうした?」
内海は剣道部員の中でも小柄な方で、童顔である。あまり気の強い方でもなく、同学年なのに和真や佑一に対して控えめな態度で接する生徒であった。
「あ…あのさ、明日、選抜メンバーは特別な朝練やるんだって」
「え、そうなのか? 何時から?」
「7時から。国枝くんに伝えてくれって」
「そうか、判ったよ」
「うん。それじゃあ」
内海はそう言うと、手を振って去っていった。
翌朝、佑一は言われた通り7時に稽古場へ行った。誰も来ている気配がない。訝しみながらも剣道着に着替えて道場へ出ると、いつの間にか三人の二年生が現れていた。二年生たちは既に、道着と防具を着けている。
「おはようございます。…先輩たちだけですか?」
佑一の問いに、二年生の高岩が声を出す。
「その内に来るだろう。防具を着けろ」
はい、と返事をして佑一は面を着けた。道場に立つと、正面に二年生が並んだ。
「国枝、選抜に選ばれたお前に、特別稽古を行う。まずは掛かり稽古、三回だ」
「はい」
掛かり稽古とは、引き立て役の者が相手に打たせ、連続で技を出す稽古である。掛かる方は休みなく攻め続けるため、体力を相当に消耗する。
(三回か、キツイな)
そう思いながらも、佑一は三回続けて掛かり稽古を行った。二年生たちは交代するが、佑一は休みなしである。三回終わった時には、息が完全にきれていた。
「よし、じゃあこれからが本番だ。俺たちが三人が同時に攻める。お前はそれを凌ぐんだ」
「え? 三人同時ですか?」
「そうだ」
有無を言わさぬ雰囲気で、高岩が言った。
「じゃあ、行くぞ!」
そう言うなり、高岩を正面にして、もう二人の二年生が佑一の背後に廻った。
(なんだ、それ?)
突然の事に、動揺する間もなく高岩が打ち込んでくる。佑一がそれを受けた瞬間、背後から後頭部を打たれた。それを感じた瞬間、全身に衝撃を受けて佑一はよろけた。
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