え?公爵令嬢さまと婚約破棄して私と婚約したい?いやいや、ありえないから

やノゆ

文字の大きさ
19 / 23
ワクワク☆ドキドキ♡始まりへの船旅編

第18話・アルベルトの後悔と思い出 前

しおりを挟む
しばらくサボっていてすみませんでした。
どうしても手が進まず…。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ーーーアルベルト・ゲーチェリー・ツェルガは、後悔していた。

そもそもの始まりは、学園内でとある少女を見つけたことだ。
窓から校舎裏をひょっこりと覗くと、陽の光に当てられた天使と見間違う程美しい少女が、盛り上がった土に対して花を添え、手を合わせていたのである。

合わせている手の指は細く白く、苦労を知らない手であったが、その手はお世辞にも綺麗とは言えない、泥だらけの状態であった。

それからだ。少女を気にするようになったのは。

少女は、愛されている者だった。
アルベルトは、嫉妬のような、憎悪には遠いが、似たようなものを少女ーーーエミリアに感じた。

自身は愛とは、かなり遠い位置にいたから。

父親とはあまり話さず、気まぐれに菓子を与えられ、成績を聞いてくるだけ。
母は愛してくれているのだろうが、激務に追われ、あまり構ってもらった記憶はない。
兄も淡白なもので、たまに会っては気にかけてくれるが、母と同様、一ヶ月に数回顔を合わせる程度であった。

幼き頃は共に囲んでいた食卓も、今ではバラバラに、部屋で食べるようになってしまった。
そもそもそれは、兄が毒をもられたのが原因で、食を誰かと食べるという行為を恐れてしまったのである。

そのため、立食式のパーティーでは何も口にせず、どうしても何か食べなければいけないときは代わりにアルベルトが飲むというふうにしていた。
それで許されているのは、顔と身分と、それからまだ幼いからではあるが。

たからこそ、なんでも持つエミリアに嫉妬したのだ。

整った容姿に、美しい体躯。
綺麗な髪も肌も、恵まれた才能も。
周りの人間に愛され、そして愛す彼女も。

全部全部、自身の理想に近い形であった。


ーーーだからこそ、衝撃的だった出来事がある。

その日はあいにくの雨で、ジメジメとした空気に苛々としていた。
だから、自分の取り巻き達に、ぽつりと零してしまったのである。

「エミリア・クロケットは、本当にいいひとなのか?」と。

言い出したら、止まらなかった。

「そもそも、そう演じているだけだろう」
「愛される自分に酔っている」
「優しい少女を演じている自分に対して悦に浸っている」
「身分もそれ程高くないくせに」

そういったとき、ほとんどの周りの者は戸惑う表情をしながらも、口では薄っぺらく同意の意を示していた。
アルベルトは、ああやっぱり、と目を細めた。

「そうですよね!」
「私も、前々からそうではないかと思っていたのです」

薄っぺらい、薄っぺらい。
ほれ、見たことか。
結局、エミリア・クロケットも、この程度しか愛されていない。
自分のほうが、上ではないか。



















「巫山戯ないでください。」

凛とした、ボーイソプラノだった。

「先輩方が、教材室で何を語っていると思えば、同級生の女のコ一人の陰口ですか?あまり美しい行為ではありませんね。」

ーーーカイベル・フォンディナム。
確か、学園内では、その容姿と丁寧な物腰が人気な生徒であった。

「エミリア・クロケットのこと、何も知らないくせに、何を語るっていうんです?」

濁った黄色が、アルベルトを捉えた。

「彼女のことは、僕が一番知っている。僕が一番愛してる。彼女の肌はきめ細やかで、白く、白粉なんてつけなくたって美しい。彼女の髪、あの蜂蜜色の髪に使っている石鹸は、はちみつの香りがするんだ。だから、彼女の髪からはいつも蜂蜜の甘い香りがする。あのグリーンアイ、硝子のような透き通った瞳に僕が映るたび、歓喜に身体が震えるんだ。それに、あの華奢で骨の髄まで美しい身体からは想像もつかないくらい魔法の才能がある。それこそ、彼女は聖女のようなんだ。けれど、そんなものはオマケでしかない。彼女の本当の魅力は、その清らかな心根なんだ。初めは一目惚れだったんだけど、彼女に救ってもらえて、僕は、僕の一目惚れなんていう皮一枚を見ただけで判断した自分が如何に愚かだったか思い知った。ああ、勿論、彼女の皮も愛しているけれど。それどころか、髪の毛一本、睫毛一本だって全て僕のものにしたい。ああ、けれど、邪魔な奴が多いんだよな。でもね、最後に手に入れるのは僕だよ。完璧な計画を立ててあるんだ。子供は2人は欲しいな。できれば女のコで。だって、僕以外の男が彼女のそばで、彼女の愛情を身いっぱいに浴びるなんて、いくら自分の子供でも許せない。狂ってしまう。まあ、女のコだとしても、あまり愛されすぎるようなら邪魔でしかないけど、彼女の血が通った女だと思えば愛せるような気がするんだ。楽しみとか、ワクワクするって、こういうことを言うんでしょ?大丈夫、まだ待てる。あー、待てなくなったらどうしようかな。
ーーーふう。てことで、僕のほうが彼女のこと知っているし、彼女をあいしているんだよ。分かった?わかったら、もうくだらない盲言を吐き散らさないでください。それでは、失礼します。」


ーーーアルベルトは、先程までの嫉妬と憎悪に似たなにかが、すとんと同情に変わった。


ああ、そうか、彼女は確かに愛されている。

だけど、愛されすぎると、こうなるのか…。

アルベルトは、彼女に深く深く同情した。
自分は、こんなものに愛されるくらいなら、今のままの方がマシだ、と。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。

佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。 二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。 クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。 その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。 「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」 「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」 「僕を騙すつもりか?」 「どういう事でしょう?」 「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」 「心から誓ってそんなことはしておりません!」 「黙れ!偽聖女が!」 クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。 信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。 ――目覚めたら一年前に戻っていた――

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

聖女に厳しく接して心を折ることが国の発展に繋がるとは思えませんが?

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエリ―ナは、新たに聖女となった平民の少女のことを心配していた。 王族や貴族の中には、平民が権力を持つことを快く思わない者がいる。それをエリーナはよく知っていたのだ。 特に王子と王女の苛烈さは、エリーナさえも毒牙にかかるくらいだった。 平民の聖女が、その二人に飲み込まれかねない。そう思ったエリーナは聖女補佐として聖女を守ることにした。 エリーナは同じく聖女の補佐となった侯爵令息セフィールとディオラスとともに、平民の聖女を守っていた。 しかしそれでも、王子と王女は牙を向いてきた。二人は平民の聖女の心を折るべく、行動していたのだ。 しかし王家の兄妹は、自らの行動が周囲からどう思われているか理解していなかった。 二人の積もりに積もった悪行は、社交界から王家が反感を買うことに繋がっていたのだ。

もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】

青緑 ネトロア
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。 親代わりの枢機卿と王都を散策中、初対面の王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の義娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。 辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認識されていく。辺境から帰還した後。多くの王侯貴族が参列する夜会で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。 ——————————— 本作品の更新は十日前後で投稿を予定しております。 更新予定の時刻は投稿日の17時に固定とさせていただきます。 誤字・脱字をコメントで教えてくださると、幸いです。 読みにくい箇所は、何話の修正か記載を同時にお願い致しますm(_ _)m  …(2025/03/15)… ※第一部が完結後、一段落しましたら第二部を検討しています。 ※第二部は構想段階ですが、後日談のような第一部より短めになる予定です。 ※40話にて、近況報告あり。 ※52話より、次回話の更新日をお知らせいたします。

処理中です...