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ワクワク☆ドキドキ♡始まりへの船旅編
第19話・アルベルトの後悔と思い出・後
しおりを挟むーーーそれからというもの、アルベルトは同情の籠もった眼でエミリアを観察した。
ある時は、靴に針を入れられていたのに、戸惑うことも嘆くこともなく、その針をそっと鞄に仕まい込んでいた。
教師に相談はしないのだろうか、と不思議に思いながら、助けようとは思わなかった。
あくまで、可愛そうに愛されすぎた哀れなキティの観察なのだから。
ある時は、机の上に葬花がおいてあったが、彼女は表情一つ変えずにその葬花を持ち出してどこかへ行った。
どこへ行ったのかと思いつつもぼんやり窓を眺めていたら、校舎裏に彼女がいた。
せっせと土を掘り、手が汚れるのも気にせず近くにあった収まりの良さそうな石で土を掘っている。
そして、なんと、彼女の傍らにはーーー、動物の死骸があった。
なんとも酷いが、遠目からでも魔法による殺害だと推定できる。
野生で死んだにはあまりにも綺麗すぎるし、普通に殺したとしても、血飛沫一つ付かずに、眠るように死んでいるのはおかしい。
これが学生の仕業なら、とんだ犯罪者である。
事実、小動物の命をいたずらに奪うのも、魔法を殺害に使うのも、罪になる。
アルベルトは、まさか、彼女が?と思いつき、いや、それならわざわざ墓を作らないだろうと即座に否定する。
そんなふうにだらだらと考えているうちに、お墓造りは終わったようだ。
先程の葬花を備えていて、なるほどこのために持ち出したのか、と納得する。
妙に手際よく作っていたし、何度もこういう被害に合っているのかもしれない、とアルベルトは頬杖をつきながら窓を眺め続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あの」
ーーー透き通った、竪琴が似合いそうな清廉な声だった。
アルベルトは思わず振り返ったが、視線の先にいた少女を見て目を見開いた。
彼女はこんなに綺麗な声をしているのか、と。
話しかけられたのが自分ではないことを、なんだなとても残念に感じた。
「御機嫌よう、刺繍クラブの方ですよね。突然話しかけた非礼を侘びますわ。最近、金針が沢山手に入ったので、寄付しようと思ったのですが…。」
アルベルトは、目を見開いた。
あの時回収していた針を、寄付するつもりなのか、と。
「まあ!それは本当ですの?最近、クラブ長がとってもいい絹を誤って100も買ってしまったから、今は糸はおろか、針でさえ買わず、マッチ棒を魔法で針にして使っていたのです。これで、糸が満足に変えますわ!」
話しかけられた、優麗な黒髪の少女は大層喜んでいた。
今にも抱きついて頬にキスしそうな勢いである。
「いいえ、とんでもありませんわ。去年の貴族支援学祭では、見事な菫の刺繍のハンカチを買い上げさせていただきましたもの。とっても気に入っているのです」
実は私、あまり針仕事を好んでいませんの、と小声で囁いて、クスクスと黒髪の少女と笑っている。
その白い肌を、美しいと思った。
ほんのりと輝く彼女が、欲しいと思った。
蜂蜜色の髪に、顔を埋めてみたくなった。
控えめに笑う姿に捉えられて、魂がズルズルと引きずり出される感覚を味わった。
味わって、しまった。
アルベルトは、目が離せなかった。
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