え?公爵令嬢さまと婚約破棄して私と婚約したい?いやいや、ありえないから

やノゆ

文字の大きさ
21 / 23
ワクワク☆ドキドキ♡始まりへの船旅編

第20話・ベットの下の子供

しおりを挟む

ーーーアルベルトは、船内でキョロキョロとエミリアを探しながら、昔のことを思い出した。

そうだ、確か、あの時だ。
アルベルトが、ひどく少女に心惹かれたのは。

いや、思えば初めから惹かれていたのかもしれない。

幼い少年心が照れくさくて、それを否定したのかもしれない。
もしくは、あの公爵家の少年が恐ろしくて、気づかないフリをしたのかもしれない。

だが、アルベルトは知っている。
あの少年は、エミリアのことをこの世で最も尊く清いもののように語っていたが、実際は違う。

ーーーあの少女は、もっと凄惨で、蟲惑的な、魔性の少女だ。
皆気づいていないーーーいや、気づかないようにしているだけ。
あの少女は、恐ろしくて可憐で、愛らしく残酷に、魂を捉えて離さない。

アルベルトは、フッと目を伏せ、ドアを4回ノックした。

すぐに返事か返ってきて、ドアが開く。

深層を覗くような、透き通ったグリーンアイが見開かれた。
すぐさま恭しく礼をした少女に、真っ先に自分は頭を下げた。

「すまなかった…。こんなことに、なるとは思っていなかった。きみのご両親にも、謝らないと、いけない…」

自分が思っていたよりもよっぽど惨めで、言い訳がましい言葉が出てきた。
アルベルトは、弱々しい己の声に苛立ちを覚え、ぐっと唇を噛みしめる。

「…頭をお上げになってください。確かに、今回のことは全面的に、そちら側に非があった。」

エミリアは、不敬を承知で言った。
彼は元自国の王子であり、これから世話になる国の王族関係者だ。

それでも、彼の言葉が王族としてではなく、一人の恋に溺れた少年の謝罪だと思ったからこそ、こうして真剣に言葉を交わそうと、そして許しはしないと決意を固めていた。

「私は、あなたのことを許すつもりは毛頭ない。そして、こちらに引き入れるつもりも、想いを成熟させるつもりもありません。」

アルベルトは、年甲斐もなく泣き出したくなった。

ーーー胸からは、失恋の音がした。

「ですが、私は貴方の謝罪を受け入れます。許しはしない。けれど、謝罪をする気持ちと事実は、確かに私が認めます。」

ーーー貴方に、此方から関わりはしません。
だけど、貴方も哀れなベットの下の子供だから。

ーーー愛に餓えているのは、貴方だけではないわ。


そう言って、エミリアは笑った。
エミリアは、可愛そうな彼を哀れんでいた。多分、愛に餓えていただけだ。愛に餓えたあまり、身分目当ての婚約者、構わない母、あの・・父親、兄は知らないが、寡黙な方だったと思う。きっと、愛を伝えることはなかったはずだ。そんな周りに疲れて、聖女だと持て囃された私にすがりついてしまった。

エミリアは、青い瞳を見つめ、さらに深く微笑んだ。


ーーーああ、あの笑みだ。
魅惑的で、魂を捉えて放さない、残酷なまでに美しい笑み。

アルベルトは、いつも心配そうに眉を下げる、淡泊な兄を思い出した。
激務に追われる、美しい桃色の母を思い出した。


その二人は、確かに自分の家族だった。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。

佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。 二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。 クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。 その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。 「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」 「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」 「僕を騙すつもりか?」 「どういう事でしょう?」 「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」 「心から誓ってそんなことはしておりません!」 「黙れ!偽聖女が!」 クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。 信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。 ――目覚めたら一年前に戻っていた――

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

聖女に厳しく接して心を折ることが国の発展に繋がるとは思えませんが?

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエリ―ナは、新たに聖女となった平民の少女のことを心配していた。 王族や貴族の中には、平民が権力を持つことを快く思わない者がいる。それをエリーナはよく知っていたのだ。 特に王子と王女の苛烈さは、エリーナさえも毒牙にかかるくらいだった。 平民の聖女が、その二人に飲み込まれかねない。そう思ったエリーナは聖女補佐として聖女を守ることにした。 エリーナは同じく聖女の補佐となった侯爵令息セフィールとディオラスとともに、平民の聖女を守っていた。 しかしそれでも、王子と王女は牙を向いてきた。二人は平民の聖女の心を折るべく、行動していたのだ。 しかし王家の兄妹は、自らの行動が周囲からどう思われているか理解していなかった。 二人の積もりに積もった悪行は、社交界から王家が反感を買うことに繋がっていたのだ。

もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】

青緑 ネトロア
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。 親代わりの枢機卿と王都を散策中、初対面の王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の義娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。 辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認識されていく。辺境から帰還した後。多くの王侯貴族が参列する夜会で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。 ——————————— 本作品の更新は十日前後で投稿を予定しております。 更新予定の時刻は投稿日の17時に固定とさせていただきます。 誤字・脱字をコメントで教えてくださると、幸いです。 読みにくい箇所は、何話の修正か記載を同時にお願い致しますm(_ _)m  …(2025/03/15)… ※第一部が完結後、一段落しましたら第二部を検討しています。 ※第二部は構想段階ですが、後日談のような第一部より短めになる予定です。 ※40話にて、近況報告あり。 ※52話より、次回話の更新日をお知らせいたします。

処理中です...