22 / 23
隣国・リリーシオへの到着
第21話・異物の自覚
しおりを挟むーーー各々が少しずつ変わったり、まったく変わらなかったり、新たに野望を遂行するべく気持ちを固めたりした船内は、海に揺られたまま日をまたぎ、やっと目当ての国に到達した。
魔法で無理やり進めたかいあって、本来なら一週間はかかるところを、1、2日でつけたのだ。
かなりの良待遇である。
エミリアはうーんと伸びをして、潮の香りをいっぱいに吸った。
「エミリア、はしたないですわ」
口ではそう言いながらも、口許には柔らかな笑みが浮かんでいる。
貴婦人、という言葉がよく似合う、優美な微笑みだった。
そんな風に言われては直す他ないエミリアは、すぐさまサッと姿勢を正し、佇まいを貴族のソレに変えた。
「お母様、確か、ここからは馬車で行くのですよね?」
エミリアがそう聞くと、母は困ったように眉を下げて、優しく耳に口を寄せた。
「あ、あのね、エミリア。驚かないで聞いてほしいんだけど、この国では箒に乗って移動するそうよ。」
エミリアはたっぷり間を開けたあと、はあ??と思いっきり顔にも声にも出して理解できません、と意思表示した。
箒に乗るなど、どんな時代の魔女だ。
そもそもあれは乗り心地も悪いし、魔力保有量が多くなければ継続して使うことは不可能だ。
もちろん、エミリアは箒乗りの授業は大の得意で、よく先生に褒められたものだ。
だが、実用的ではない上に、古臭い箒に乗って飛ぶなんてナンセンス、ということで、元自国では椅子をそのまま浮かして飛んでいた。
最近では、板に絨毯をひき、上に菓子や紅茶を載せて飛びながら食べたりする、空中茶会が流行っていたっけな、とエミリアはぼんやり考え、空を見上げた。
空の上には、黒いワンピースに黒い帽子の、典型的な魔女の姿をした女性がいた。
赤茶の髪にそばかすの、もう少し磨けば整った雰囲気と容姿になるだろうなあ、と思わせる女性だった。
「わ、わ、こんな綺麗なお嬢さん見たことないです…!始めましてー、道案内兼箒乗りの補助役のマーセラですぅ」
ボサボサの赤茶の髪で陰湿そうな雰囲気だったが、どうやらそれは間違いのようだ。
陽気に挨拶してくれた彼女に、エミリアはニコリと微笑んだ。
「綺麗だなんて、ありがとうございます。エミリア・クロケットですわ。よろしくお願いします。」
そう言うと、マーセラという赤茶髪の女性は、文字通り固まってしまった。
「あ、ぁ、」
ゆっくりとエミリアに手を伸ばそうとしたマーセラをすかさず王妃ーーーいや、元王妃のミリオンジュが止めた。
「…やっぱり、危ないわね。マーセラさん、目を覚ましなさいな」
そう言って、魔力を手に溜めるとパチン、と猫騙しのように手を叩いてマーセラを正気に戻した。
マーセラははっとした後、すぐに皆に箒を配り始めた。
怯えるような雰囲気と、たまに何かをぐっと堪えるような仕草を見て、エミリアは自分がとんでもない異物で、化け物だと言われているような錯覚に陥った。
何度か、マーセラを怖がらせないように笑顔を見せたりしたが、見てはいけないとでも言うように顔を逸らされた。
ついぞ一度も、マーセラは目を合わせる事なく案内を終えた。
0
あなたにおすすめの小説
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。
佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。
二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。
クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。
その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。
「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」
「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」
「僕を騙すつもりか?」
「どういう事でしょう?」
「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」
「心から誓ってそんなことはしておりません!」
「黙れ!偽聖女が!」
クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。
信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。
――目覚めたら一年前に戻っていた――
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
聖女に厳しく接して心を折ることが国の発展に繋がるとは思えませんが?
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるエリ―ナは、新たに聖女となった平民の少女のことを心配していた。
王族や貴族の中には、平民が権力を持つことを快く思わない者がいる。それをエリーナはよく知っていたのだ。
特に王子と王女の苛烈さは、エリーナさえも毒牙にかかるくらいだった。
平民の聖女が、その二人に飲み込まれかねない。そう思ったエリーナは聖女補佐として聖女を守ることにした。
エリーナは同じく聖女の補佐となった侯爵令息セフィールとディオラスとともに、平民の聖女を守っていた。
しかしそれでも、王子と王女は牙を向いてきた。二人は平民の聖女の心を折るべく、行動していたのだ。
しかし王家の兄妹は、自らの行動が周囲からどう思われているか理解していなかった。
二人の積もりに積もった悪行は、社交界から王家が反感を買うことに繋がっていたのだ。
もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】
青緑 ネトロア
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。
親代わりの枢機卿と王都を散策中、初対面の王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の義娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。
辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認識されていく。辺境から帰還した後。多くの王侯貴族が参列する夜会で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。
———————————
本作品の更新は十日前後で投稿を予定しております。
更新予定の時刻は投稿日の17時に固定とさせていただきます。
誤字・脱字をコメントで教えてくださると、幸いです。
読みにくい箇所は、何話の修正か記載を同時にお願い致しますm(_ _)m
…(2025/03/15)…
※第一部が完結後、一段落しましたら第二部を検討しています。
※第二部は構想段階ですが、後日談のような第一部より短めになる予定です。
※40話にて、近況報告あり。
※52話より、次回話の更新日をお知らせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる