婚約破棄?あなたが婚約していたのは私の妹でしょう?

やノゆ

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第6話・カレンの困惑

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ーーーカレン・アバーストは混乱した。

最愛の姉を助けようと、馬をかり、野を駆けた先にたどり着いた会場では、自身が思っていたのとは真逆の光景が広がっていたからである。

予想では、レイトンとリリアが姉を嘲笑い、姉は膝をつき項垂れているのではないかと。もしかしたら、そのまろい頬を涙で濡らしているやもと、妄想、いえ、想像していたのだが…。

実際、膝をついているのはレイトンである。
レイトンはがっくりと項垂れ、膝を付き、リリアは困惑したような表情でレイトンに寄り添っている。

その前には、こてんと首を傾げた世界で一番愛らしい我が姉がいた。


(…いや、どういう状況??)

カレンは状況が飲み込めなかった。


「まあ、カレン。どうしたの、そんなに慌てて」

どうしたの、とはこちらの台詞である。

「い、いえ、あの、お姉さま、レイトン様はどうされたのかしら…?」

そう言うと、姉はふわりと微笑んで、こう言った。

「レイトンサマ?それは誰かしら?」




* * * * * 


ーーーライーナ・アバーストは怒っていた。

妹の婚約者が、自身を婚約者だと勘違いして、婚約破棄したこと。
婚約者がいるにも関わらず、不貞を働いたこと。

そして、そもそも妹に婚約者ができてしまったこと。

ライーナは、カレンを大層可愛がっていた。
だから、まだ幼いにも関わらず、わがまま子息のせいで婚約させられたカレンが可哀想で仕方なかった。
しかも、自分の代わりに。

きっと、カレンは自分を可哀想に思い、身をていして庇ってくれたのだ。
なんと可哀想で、愛らしい妹なのだろう。

ーーー実際は、カレンが嫉妬に嫉妬を重ねて婚約?私がするからお姉さまは私のもの!と言う感じの思考で婚約したのだがーーー

だから、ライーナは今の状況に大層怒っていた。
だから、レイトンに精神的な攻撃を仕掛けてやろうと思ったのだーーー。



実際は、カレンが身を呈して守ったのは己の姉へ対する独占欲である。
そして、レイトンが本当に婚約したかったのはライーナである。
さらに、レイトンはライーナを婚約者と思い込んでいた。

ーーー皆、一様に勘違いを重ねてこの状況に陥ったことは、まだ知らない。


* * * * *


ーーーライーナの言葉を聞いたレイトンはずしゃあっと地面に身体を預けた。

勿論、ライーナはレイトンを誰だか知っている。わざと惚けたのである。


「まあ、まあ、地面とキスをしたがるなんで、大層ヘンテコなお方ですこと。」

ーーーしくしく。
そんな音が、足元から聞こえる。

ついに、箱入りバカ息子のレイトンは泣き出してしまったのだろうか。





ーーーカレンは、どっちが被害者なのか少しわからなくなった。







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