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最終話・珍事件後のそれぞれ
しおりを挟むーーーこれまでの、アバースト家の姉妹と、ビーストア家の子息一人と、サエリーア家の子女一人によって起きた珍事件は、瞬く間に貴族界へと広がった。
レイトンは涙目である。
初恋の相手に生ゴミ扱いされ、婚約者に軽蔑され、恋人にも捨てられた。
そんな彼を、馬鹿だと嘲笑う者より、同情する者が多かった。
可哀想に、少なくともスカートの件でトドメを刺されたのには同情するしかない…というのが、貴族達の意見である。
しかも、レイトンの元恋人リリアとカレン、ライーナは、どうやらとても気が合うらしく、あの珍事件以来、めっぽう仲良くなったのだ。
もう、貴族達はレイトンに同情しまくった。
特に、あの事件の場に居合わせた貴族達の中には、手紙を綴るものも数名いた。
曰く、スカートの件は不可抗力だ。
曰く、あの姉妹が強か過ぎた。
曰く、下着の色は何色でしたか?
曰く、これに懲りて、もう少し慎重に行動して下さい。
曰く、同情します。
レイトンは、その手紙らに全て返事を綴った。
下着の色は勿論教えていない。
断じて、教えていない。
ーーー結局、婚約破棄は成立、リリアとも破滅となったが、レイトンは後に、この件をこう語った。
『あの時のおかげで、多少のことでは挫けなくなった。
些細なことで鼻血も出さないし、女性と付き合うときも慎重になったし、なにより、泣くこともなくなった。』
この時のレイトンは、まるでチベットスナギツネが憑依したかのような表情をしていた。
* * * * *
ーーーリリア・サエリーアは、あの珍妙な事件のことを思い出して、笑ってしまった。
突然笑い出した友人を見て、カレンとライーナも何か察しがついたのか、それともリリアにつられたのか、上品に笑った。
「リリア様、あの時のことを考えています?」
「ええ。」
やっぱり、と言って、3人の美しい令嬢はクスクスと笑いあった。
「あの時は、私達皆どうかしてましたわ。」
「本当に。」
「まあ、おかげでこうしてお茶もできる仲になったんだもの。いいではありませんか。」
3人のご令嬢は、またクスクスと楽しげに笑いあった。
まだ湯気を立てる紅茶に、ライーナの黒曜石のような瞳がキラキラと映る。
カップの中の自分の瞳がやけに楽しげに細められているものだから、ライーナは笑いながら言った。
ーーー「そうだ、お茶会に今度、レイトン様も読んでみます?」
「やめてあげましょうよぉ。お姉さま」
「レイトン君、泣いてしまいますわ」
クスクス、クスクス。
その頃、アバースト邸でお茶をしていたレイトンは、また右胸が痛んだ。
己の心臓は、もしや右側にあるのだろうか…?
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