宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─

すみよし

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04 時間がないので

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 西の宮からもらった時間はそう長くない。だからシファは契約してとっとと帰りたいのであるが、目の前の竜王様がそうさせて下さらない。

「わっ、我との契約を目指して、昔は魔山に戦士たち魔導師たちが列をなしたと言うのに」

「まあ、さようでございましたか」

 それがどうした、シファには全く関係がない。

「でしたら契約は他の方に。私には、竜王様のお力は身に余ります」

 下手に慰めるのも失礼だろうと考えるシファには、シクシクと泣き崩れている竜王さまは手に余る。

 他所に愚痴ってくれまいかと言外にお願いしてみるが、竜王さまは泣き止んでくださらない。

「まっ、前来た奴もだ、面倒くさいの一言でっ、わっ、我を無視しようとしてっ」

「……それは背の高い、いいえ、竜王さまよりは低いとは存じますが、私より頭一つくらい高い、銀髪の男の方でしょうか?」

 シファがカイルを想定して言うのに、竜王さまが、ガバッと顔を上げる。

 その拍子に周りにいた何か精霊たちが数体ふき飛ばされてしまったのをシファは横目で見た。

 どこまで飛んでいくかしら?

「そっ、そうだ! そいつも我は強すぎる大き過ぎる、と言いよって。強いのの何が悪い! 大きいのは、大きいのは──っ、仕方がないではないかー!」

 大きいことの弊害は理解しているらしい。

 きっとカイルが徹底的に完膚なきまでに言いあげたのだろう。正直助かった。

 いざとなれば舌鋒鋭い兄弟子に、シファは感謝した。

 シファはふと思いついて言う。

「精霊というものは自在に消えたり現れたりなさると聞き及んでおります。竜王さまは、お身体の大きさを変えたりはなさらないのですか?」

「それができれば我もしておる!」

「さようでございましたか。人の身で何も存ぜぬものですから、失礼はご堪忍くださいまし」

 やはり使い勝手が、悪い。

 それこそ失礼なことを考えつつも、シファは竜王に謝罪する。

 シファのきれいな礼を見て、竜王が言う。

「お前は、もしや女官か?」

「少し前までは、そうでございました。今は宮を辞しております」

「ほう!」

 竜王が、自分を売り込むことをわすれて、シファ自身に興味を持ったらしい。

「何故そなたは宮を辞したのか? 宮とやらに入りたくて仕方のない人間は多いのだろう?」

 竜王さまは地面にペタリと顎をつけ、シファを覗き込む。

 シファはパチパチと瞬きをして、竜王さまをじっと見る。そんなことを聞いて竜王さまはどうなさるのだろう。

「申し訳ありません竜王さま。それはお答え致しかねます。それに、私、日没までに帰らねばなりませんの」

 ですから失礼致します御機嫌よう。

 宮の礼が竜王さまに通じるかはわからないが、最上の礼をして、シファはスタスタと竜王の前から去ろうとした。

「待て待て待て! 我が悪かった! 人の娘よ、人には人の理があろうのに、興味本位で不躾なことを申した! 許してくれ!」

 一瞬でシファの前に回り込み、竜王さまは小さくなった。

 いや、図体は相変わらず大きいのだが、本当にごめんなさいの格好をするのに、シファは、ああ、この竜王さまは暇すぎて話し相手が欲しいのか、と理解する。

「竜王さま、お顔をお上げくださいまし。竜王さまともあろう方にそのように謝って頂くのは、この身が縮む思いがいたします」

 シファがそう言うと、竜王は、ぱっと顔を上げ、──その瞬間にまた何か飛んで行ったようだが──にこにこと笑った(ようにシファには思えた)。

「竜王さま、私のお願いを聞いてくださいますか?」

「おお、聞くとも聞くとも! 我にできることならなんでも言うが良い! 契約か? 我と契約するか⁉︎」

「いえ、先にも申しましたように契約は結構でございます」

 途端に竜王がしゅんとする。どうしてそんなに契約したいのかしら? とシファは不思議に思うが、聞けば話が長くなりそうなのでやめておく。

「私の願いに叶う精霊を、一緒に探して頂けませんか?」

「我以外の精霊をか?」

「はい。何しろ私はこの山が初めてでございます。魔山の主様である竜王さまなら、私が望む精霊がいるかいないか、また、いるとするならばどこにいるのかご存知かと」

 竜王さまはしばらく尻尾をあっちにやったりこっちにやったりしていた。随分とご不満のようである。シファは重ねて言う。

「私、本当に時間がございませんの。もし竜王さまもご存知ないのであれば、人の子の私にこの日没までに見つけられるとも思えません。残念ですが、諦めて只今より帰ります」

 邪魔をするならもう帰る、と宣言したシファに竜王は慌てたらしい。ガバリと立ち上がるとシファに言った。また何か精霊が飛んで行ったようだが(略)。

「よし、我について参れ。まずは頂上に来い」

 くいと首を振って竜王が先導する。

 シファは、素直に竜王様に着いて頂上を目指す。

 大きい体では大変だろうに、振り返り振り返り、人の子の歩みに合わせてくれる竜王さまに、シファはふわりと笑った。
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