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第三章
27 寄せてくる
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「挨拶?」
「セラさんが皇妃様のお付きの女官におなりになるの。皇妃様がその旨の御文を私にも下さって、セラさんが届けにいらしたの」
ザイは呻く。万一セラが宮に戻っていたらと思い、いったん宰相邸に帰ったというのに。
しかも、セラが皇妃様のお付き女官になるという。おそらく、二度の婚約破棄の悪評など吹き飛ぶだろう。
つまりは、セラは誰かと結婚するに何の差し障りもなくなる。
「そうなんだ。偶然ですね」
おそらくは父以上にザイとセラとの結婚を推している筆頭である。ザイがここに寄ることを見越しての来訪だろう。
「そうね、偶然ね」
何事か含ませる母は、滔々と続ける。
「筆頭様方は今はお父さんとお話しされているわ。私は内向きを優先するようにとお気遣い頂いて席を外させて頂いているの。
でも、あなたの到着はお父さんにも筆頭様にもまだお知らせはしていないの」
だから、と夫人が言う。
「お父さんも筆頭様も何もご存知ないでしょうから、あなたは、今からこのまま宮に上がっても、差し支えはないわね」
「ソウデスネ」
しかし、結局は差し支えるだろう。このまま顔を合わせずやり過ごしたら、あとでバレて次に宮で筆頭に会ったら詰められるに違いない。
苦い顔をするザイに、宰相夫人がにこりと笑って言う。
「ここで第四の殿下とセラさんが出会うようにでもしてみましょうか?」
セラの任官は正式にはまだ成されていない。今、第四王子がセラを見染めたと言えば、話はまた変わってくる。
「あちらの国王様はきっとそれをお望みでしょう。第四の殿下を帝国に留め置くのには一番穏やかですもの。ザイとは関係のないところで、すらすらとお話は進むでしょう」
元女官がすました顔で言うのにザイは深いため息を吐く。
偶然二人を鉢合わせさせるなど、この邸全てを仕切る宰相夫人には造作もないことだろう。
「ちょうど筆頭と打ち合わせしたいこともあるから、僕も顔を出してくるよ。セラが皇妃様のお付きになるなら、彼女にも挨拶しないといけない」
「そう。それならば殿下には引き続きこちらにいていただくわ。安心しなさい、どこかの王子様はセラさんには絶対出会わない」
そう言ってザイを見送りに立つ母が言う。
「ザイ。前にも言ったけれど、セラさんにはあなたでなくてもいいの」
「わかってるよ」
「それなら、陛下の侍従であるあなたが、セラ女官にわざわざ関わろうとする意味を考えなくてはいけません」
ザイは立ち止まる。
しかし、何も言わずに挨拶に向かった。
※
宰相邸の廊下は長い。
攻め込まれても敵の隊列は自然と細長くなり、一気に攻撃を仕掛けられない造りだ。
ザイはその長い廊下を早足で歩く。
どの客間を使っているかも聞かなかったザイは母の張り巡らせた結界に沿って自分の魔力を流してゆく。そうやって今この屋敷にいる人間を把握する。
いた。
筆頭とセラだ。おそらく宰相との会談がひと段落し、秘書官が書類を揃えるまで休憩となったのだろう。中庭に出ようとしている。
ザイは目視でも二人を見つけた。
ザイが廊下を進む間に、筆頭が秘書官から呼ばれたらしく、二人は一度立ち止まる。そうしてセラだけが中庭に出た。
セラが出てきたちょうど逆の口から自身も中庭に出ようとしたザイの足が止まる。
精霊が。
碧が、ザイよりも先にセラの前に現れたから。
「セラさんが皇妃様のお付きの女官におなりになるの。皇妃様がその旨の御文を私にも下さって、セラさんが届けにいらしたの」
ザイは呻く。万一セラが宮に戻っていたらと思い、いったん宰相邸に帰ったというのに。
しかも、セラが皇妃様のお付き女官になるという。おそらく、二度の婚約破棄の悪評など吹き飛ぶだろう。
つまりは、セラは誰かと結婚するに何の差し障りもなくなる。
「そうなんだ。偶然ですね」
おそらくは父以上にザイとセラとの結婚を推している筆頭である。ザイがここに寄ることを見越しての来訪だろう。
「そうね、偶然ね」
何事か含ませる母は、滔々と続ける。
「筆頭様方は今はお父さんとお話しされているわ。私は内向きを優先するようにとお気遣い頂いて席を外させて頂いているの。
でも、あなたの到着はお父さんにも筆頭様にもまだお知らせはしていないの」
だから、と夫人が言う。
「お父さんも筆頭様も何もご存知ないでしょうから、あなたは、今からこのまま宮に上がっても、差し支えはないわね」
「ソウデスネ」
しかし、結局は差し支えるだろう。このまま顔を合わせずやり過ごしたら、あとでバレて次に宮で筆頭に会ったら詰められるに違いない。
苦い顔をするザイに、宰相夫人がにこりと笑って言う。
「ここで第四の殿下とセラさんが出会うようにでもしてみましょうか?」
セラの任官は正式にはまだ成されていない。今、第四王子がセラを見染めたと言えば、話はまた変わってくる。
「あちらの国王様はきっとそれをお望みでしょう。第四の殿下を帝国に留め置くのには一番穏やかですもの。ザイとは関係のないところで、すらすらとお話は進むでしょう」
元女官がすました顔で言うのにザイは深いため息を吐く。
偶然二人を鉢合わせさせるなど、この邸全てを仕切る宰相夫人には造作もないことだろう。
「ちょうど筆頭と打ち合わせしたいこともあるから、僕も顔を出してくるよ。セラが皇妃様のお付きになるなら、彼女にも挨拶しないといけない」
「そう。それならば殿下には引き続きこちらにいていただくわ。安心しなさい、どこかの王子様はセラさんには絶対出会わない」
そう言ってザイを見送りに立つ母が言う。
「ザイ。前にも言ったけれど、セラさんにはあなたでなくてもいいの」
「わかってるよ」
「それなら、陛下の侍従であるあなたが、セラ女官にわざわざ関わろうとする意味を考えなくてはいけません」
ザイは立ち止まる。
しかし、何も言わずに挨拶に向かった。
※
宰相邸の廊下は長い。
攻め込まれても敵の隊列は自然と細長くなり、一気に攻撃を仕掛けられない造りだ。
ザイはその長い廊下を早足で歩く。
どの客間を使っているかも聞かなかったザイは母の張り巡らせた結界に沿って自分の魔力を流してゆく。そうやって今この屋敷にいる人間を把握する。
いた。
筆頭とセラだ。おそらく宰相との会談がひと段落し、秘書官が書類を揃えるまで休憩となったのだろう。中庭に出ようとしている。
ザイは目視でも二人を見つけた。
ザイが廊下を進む間に、筆頭が秘書官から呼ばれたらしく、二人は一度立ち止まる。そうしてセラだけが中庭に出た。
セラが出てきたちょうど逆の口から自身も中庭に出ようとしたザイの足が止まる。
精霊が。
碧が、ザイよりも先にセラの前に現れたから。
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