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三度目
08 三度目の挑戦
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試問は滞りなく進んだ。口を挟む様子のない宰相に、居並ぶ方々がざわつき始める。誰もがこのまま終わると思った頃。
「よろしいでしょうか?」
場をたたみはじめた試験官の話に、スルリと入り込むように父さんの声が響いた。
水を打ったように場が静まる。
「っど、どっ、どうぞ、宰相閣下」
声が裏返った試験官に構うことなく父さんは続けた。
「輸出に西の工芸品を、という意見がありました。その理由を伺いたく」
ハイそれ僕の出した意見ー!
目があった試験官の「あああ始まってしまったー!」という心の声が聞こえた、気がした。
「現在、輸出はすべて東の港を経由しなければなりません。その関連経費はいかほどになるか。また、東の港を使用する諸問題は非常に多い。それを踏まえてお聞きしたい」
輸出したところで、税等諸費用、輸送費で利益が飛ぶ、さらに、港の利用をめぐって何かと吹っ掛けておいでになる東の宮様にどう対応するつもりか、ということだろう。
会場が波打つ。ひそひそと、ここかしこで話す声が、こちらまで聞こえてくる。
「で、では、1928番の者お答えせよ」
「はい」
僕は話し出した。不思議と落ち着いた気分だった。
「まず、経費全て価格に反映させますと、北の市の概ね四倍になるかと思います。しかし、西の工芸品は他国でも非常に人気があり、わざわざ求めに帝国に参る者もいるほど。旅費、税等を含めますと、また、商人経由ですとさらに値があがり、他国の市では七倍で取引されております。故に高い値で卸すことも可能かと」
僕が討論について宰相補佐の殿下に初めに教わったのは、「宮の討論」では相手を説き伏せようとか、言い負かしてやろうとかしてはいけない、ということだった。
お前の敗因はまずはそこだ、と言われた。
確かに、僕は父さんに意見を否定され、焦って自分の意見の正しさを証明しようとした。そうすると、経験、知識で勝る父さんに矛盾点をどんどん指摘され、追い込まれていったのだ。
「討論、といっても目的は様々だ。自分の意見を広く知らしめるもの、はっきり勝敗をつけるもの。
だが、『宮の討論』は、課題を明らかにして宮で共有し、より良い結論を出そう、というのが目的だ。相手を自分の思うように説得しよう、などと思ってやるものではない」
ましてや、相手に勝とうとしてはならない。
宮の狭い人間関係の中でそれをやるのは、相手を宮から叩き出す時のみ。
「しかし、その場合でさえ、完全に追い詰めてはならぬ。必ず相手に逃げ道を作ってやるのだ。相手の意見も一部は容れてやる。そうしないと、要らぬ恨みを買う。思わぬ反撃を受けることもある。何より、周りを過剰に警戒させてしまう。私も初めはそれで失敗した」
僕は宰相補佐の殿下から「失敗」という言葉を聞いて驚いた。この方でさえ失敗することがあったのか。
「宰相はその辺りの案配に長けている。だからこそ先日の……、」
そこで何故か、殿下は深いため息を吐いた。
「まあ、過ぎたことはよいな。まずは、相手の意見を容れる用意があることを示す。客観的な数字を示して相手に考えさせる。決して、相手の意見を否定してはならない」
僕は殿下の教え通りに話していく。と言っても出だしはちょっと一方的に喋りすぎてしまったけれど。それでも、やり取りは続き、父さんはさらに質問重ねる。
そのうち、試験官が「おや」とわずかに身を乗り出した。
僕は手応えを感じながら、慎重に話を続けた。
「よろしいでしょうか?」
場をたたみはじめた試験官の話に、スルリと入り込むように父さんの声が響いた。
水を打ったように場が静まる。
「っど、どっ、どうぞ、宰相閣下」
声が裏返った試験官に構うことなく父さんは続けた。
「輸出に西の工芸品を、という意見がありました。その理由を伺いたく」
ハイそれ僕の出した意見ー!
目があった試験官の「あああ始まってしまったー!」という心の声が聞こえた、気がした。
「現在、輸出はすべて東の港を経由しなければなりません。その関連経費はいかほどになるか。また、東の港を使用する諸問題は非常に多い。それを踏まえてお聞きしたい」
輸出したところで、税等諸費用、輸送費で利益が飛ぶ、さらに、港の利用をめぐって何かと吹っ掛けておいでになる東の宮様にどう対応するつもりか、ということだろう。
会場が波打つ。ひそひそと、ここかしこで話す声が、こちらまで聞こえてくる。
「で、では、1928番の者お答えせよ」
「はい」
僕は話し出した。不思議と落ち着いた気分だった。
「まず、経費全て価格に反映させますと、北の市の概ね四倍になるかと思います。しかし、西の工芸品は他国でも非常に人気があり、わざわざ求めに帝国に参る者もいるほど。旅費、税等を含めますと、また、商人経由ですとさらに値があがり、他国の市では七倍で取引されております。故に高い値で卸すことも可能かと」
僕が討論について宰相補佐の殿下に初めに教わったのは、「宮の討論」では相手を説き伏せようとか、言い負かしてやろうとかしてはいけない、ということだった。
お前の敗因はまずはそこだ、と言われた。
確かに、僕は父さんに意見を否定され、焦って自分の意見の正しさを証明しようとした。そうすると、経験、知識で勝る父さんに矛盾点をどんどん指摘され、追い込まれていったのだ。
「討論、といっても目的は様々だ。自分の意見を広く知らしめるもの、はっきり勝敗をつけるもの。
だが、『宮の討論』は、課題を明らかにして宮で共有し、より良い結論を出そう、というのが目的だ。相手を自分の思うように説得しよう、などと思ってやるものではない」
ましてや、相手に勝とうとしてはならない。
宮の狭い人間関係の中でそれをやるのは、相手を宮から叩き出す時のみ。
「しかし、その場合でさえ、完全に追い詰めてはならぬ。必ず相手に逃げ道を作ってやるのだ。相手の意見も一部は容れてやる。そうしないと、要らぬ恨みを買う。思わぬ反撃を受けることもある。何より、周りを過剰に警戒させてしまう。私も初めはそれで失敗した」
僕は宰相補佐の殿下から「失敗」という言葉を聞いて驚いた。この方でさえ失敗することがあったのか。
「宰相はその辺りの案配に長けている。だからこそ先日の……、」
そこで何故か、殿下は深いため息を吐いた。
「まあ、過ぎたことはよいな。まずは、相手の意見を容れる用意があることを示す。客観的な数字を示して相手に考えさせる。決して、相手の意見を否定してはならない」
僕は殿下の教え通りに話していく。と言っても出だしはちょっと一方的に喋りすぎてしまったけれど。それでも、やり取りは続き、父さんはさらに質問重ねる。
そのうち、試験官が「おや」とわずかに身を乗り出した。
僕は手応えを感じながら、慎重に話を続けた。
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