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三度目
11 不肖の(元)息子は餌になる
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人目もあるので、昼食は僕の家──まあ家の所有者は父だけど──で食べた。使用人は置いてないので、僕とカイルさんで簡単なものを作って食べる。
僕は料理が趣味。あんまり出掛けられない貧乏浪人の僕は、自炊が娯楽の一つとなっている。
ちょくちょく、友達が材料持ち込みで「作って~♪」と僕への援助がてら押し掛けて来てくれるので、人に出しても大丈夫な腕前だと自負している。
カイルさんはそこそこ料理ができる。野営のために簡単なものを覚えたそうだ。なんと、僕の父さんにも教わったことがあるらしい。
父さんは若い頃商隊で料理を覚えたそうで、食べられる材料ならあり合わせのもので何でも美味しく料理ができる。荒くれ者も多かった商隊をまとめるには、胃袋を掴むのが手っ取り早くて良かったという。
肉を捌くところからできるので、地方官をやっていた頃は官吏仲間から重宝がられたそうだ。
ちなみに、元女官の母さんは父さんと結婚するまで全く料理の経験がなく、父さんに少しずつ教えてもらいながら料理を覚えたそうだ。
僕は身内の欲目を差し引いても、母さんの料理は美味しいと思うけれど、母さんは今でも料理に苦手意識があるらしい。
槍を持てば大陸五指には入るだろうと言われるその姿は実に堂に入ったものなのに、包丁を持った途端に心許なくなる様子は、ちょっとおもしろい。
閑話休題。
食事を終えたカイルさんが言う。
「今頃は絞られておられる頃でしょうかねえ」
「えっと、誰が誰に?」
食後のお茶をカイルさんに渡して僕が聞くのに、カイルさんが答える。
「宰相殿が宰相補佐の殿下に。貴方とのやり取りで、次の策をご披露してしまった訳ですから」
「あ、そうですよね。そういうこと、なんですよね……。」
特に、東の港については、北の宮直轄ではない上に東の宮さまが関わるので、北の宮では触れないようにされてきたはずなのだ。
それに宰相が言及した。それだけでも驚くこと。
「宰相殿は東の港について北の宮の直轄にしたい腹でしょう。宰相補佐の殿下は反対なさっていますが」
とカイルさんは付け加える。
宰相補佐の殿下が居られなくて、大臣や幹部が揃っている公式な場なんてそうそうないだろう。そりゃあ、「うっかり」本音漏らしちゃうよね宰相閣下。
試験に受かることしか頭にない僕を餌に、それまで東の港に関心が薄かった宮の方々を、宰相は上手く釣ったのだ。
明けて今日、色んな方のお使いが自由市に大集合。
そして、そのお使いの動向を探るために急遽自由市に行くことになった皇帝侍従のカイルさんは、僕の話に付き合う時間なんかない。
斯くして、僕はお宿に放り込まれ、翌朝自由市の視察ついでにカイルさんに迎えに来られたのだった。
ようやく全てが飲み込めた僕は、はーっとため息をついた。
通りで、試問の時、父さんの質問に答え易かったわけだ。
父さんははじめ、僕を相手に、補佐の殿下がおっしゃっていた「課題を明らかにし、宮で共有」する討論をしたのだ。
そして、目的を達した父さんは、すぐさま「相手を宮から叩き出す」討論に切り替えた。それを躱し切れなかった僕は、逃げ道も示されず、あえなく撃沈。
そもそも、若かりし頃東の都で商会を営んでいたこともある父さんに、商売の話で僕が敵うわけないじゃないか。本当に容赦がないよ宰相閣下。
思わず机になつく僕に、カイルさんは笑って言う。
「さて、来年はどうしますか?」
僕は机になついたまま、ふーっと息を吐く。なんだか凄く疲れた。
これでも、僕は全力で頑張っているつもりなんだけど、そんな僕の努力なんて、宮では何の役にも立ちそうにない。そんな気がする。
普段なら、こんなだらしない姿勢をしていたら直ぐに注意されるのに、今のカイルさんはそれをしないまま話を続ける。
「あなたなら、他の道もあります。宮から離れるならば、貴方のお父上は勘当を解かれるでしょう。そうすれば、貴方を雇いたいと言う人は、引きも切らぬと思いますよ?」
そうかな。まあ、試験勉強で法には詳しくなれた。補佐の殿下のしごきのおかげで、ちょっとは、去年よりはちょっとはマシなやり取りが出来たと思うけれど、それは、今年は父さんに話を続けさせようとする思惑があったから出来ただけかも知れないし。
自信をなくしている僕は、まだ、立ち上がれない。
「それに、お父上とああ言った形でしかお話しできないのは、貴方にとっては辛いでしょう? この一年、よく耐えましたね」
普段のカイルさんなら、絶対に言わないような優しい言葉。僕が顔を臥せているから見えないけれど、きっと、きれいな微笑み付きだろう。
何だかんだ言いつつ両親に愛されてて、両親が大好きな僕の弱いところを的確に突いてくる。
巧い。巧いなあ、僕の師匠は。うっかり「もういいか」なんて、僕は納得してしまいそうじゃないか。
僕は料理が趣味。あんまり出掛けられない貧乏浪人の僕は、自炊が娯楽の一つとなっている。
ちょくちょく、友達が材料持ち込みで「作って~♪」と僕への援助がてら押し掛けて来てくれるので、人に出しても大丈夫な腕前だと自負している。
カイルさんはそこそこ料理ができる。野営のために簡単なものを覚えたそうだ。なんと、僕の父さんにも教わったことがあるらしい。
父さんは若い頃商隊で料理を覚えたそうで、食べられる材料ならあり合わせのもので何でも美味しく料理ができる。荒くれ者も多かった商隊をまとめるには、胃袋を掴むのが手っ取り早くて良かったという。
肉を捌くところからできるので、地方官をやっていた頃は官吏仲間から重宝がられたそうだ。
ちなみに、元女官の母さんは父さんと結婚するまで全く料理の経験がなく、父さんに少しずつ教えてもらいながら料理を覚えたそうだ。
僕は身内の欲目を差し引いても、母さんの料理は美味しいと思うけれど、母さんは今でも料理に苦手意識があるらしい。
槍を持てば大陸五指には入るだろうと言われるその姿は実に堂に入ったものなのに、包丁を持った途端に心許なくなる様子は、ちょっとおもしろい。
閑話休題。
食事を終えたカイルさんが言う。
「今頃は絞られておられる頃でしょうかねえ」
「えっと、誰が誰に?」
食後のお茶をカイルさんに渡して僕が聞くのに、カイルさんが答える。
「宰相殿が宰相補佐の殿下に。貴方とのやり取りで、次の策をご披露してしまった訳ですから」
「あ、そうですよね。そういうこと、なんですよね……。」
特に、東の港については、北の宮直轄ではない上に東の宮さまが関わるので、北の宮では触れないようにされてきたはずなのだ。
それに宰相が言及した。それだけでも驚くこと。
「宰相殿は東の港について北の宮の直轄にしたい腹でしょう。宰相補佐の殿下は反対なさっていますが」
とカイルさんは付け加える。
宰相補佐の殿下が居られなくて、大臣や幹部が揃っている公式な場なんてそうそうないだろう。そりゃあ、「うっかり」本音漏らしちゃうよね宰相閣下。
試験に受かることしか頭にない僕を餌に、それまで東の港に関心が薄かった宮の方々を、宰相は上手く釣ったのだ。
明けて今日、色んな方のお使いが自由市に大集合。
そして、そのお使いの動向を探るために急遽自由市に行くことになった皇帝侍従のカイルさんは、僕の話に付き合う時間なんかない。
斯くして、僕はお宿に放り込まれ、翌朝自由市の視察ついでにカイルさんに迎えに来られたのだった。
ようやく全てが飲み込めた僕は、はーっとため息をついた。
通りで、試問の時、父さんの質問に答え易かったわけだ。
父さんははじめ、僕を相手に、補佐の殿下がおっしゃっていた「課題を明らかにし、宮で共有」する討論をしたのだ。
そして、目的を達した父さんは、すぐさま「相手を宮から叩き出す」討論に切り替えた。それを躱し切れなかった僕は、逃げ道も示されず、あえなく撃沈。
そもそも、若かりし頃東の都で商会を営んでいたこともある父さんに、商売の話で僕が敵うわけないじゃないか。本当に容赦がないよ宰相閣下。
思わず机になつく僕に、カイルさんは笑って言う。
「さて、来年はどうしますか?」
僕は机になついたまま、ふーっと息を吐く。なんだか凄く疲れた。
これでも、僕は全力で頑張っているつもりなんだけど、そんな僕の努力なんて、宮では何の役にも立ちそうにない。そんな気がする。
普段なら、こんなだらしない姿勢をしていたら直ぐに注意されるのに、今のカイルさんはそれをしないまま話を続ける。
「あなたなら、他の道もあります。宮から離れるならば、貴方のお父上は勘当を解かれるでしょう。そうすれば、貴方を雇いたいと言う人は、引きも切らぬと思いますよ?」
そうかな。まあ、試験勉強で法には詳しくなれた。補佐の殿下のしごきのおかげで、ちょっとは、去年よりはちょっとはマシなやり取りが出来たと思うけれど、それは、今年は父さんに話を続けさせようとする思惑があったから出来ただけかも知れないし。
自信をなくしている僕は、まだ、立ち上がれない。
「それに、お父上とああ言った形でしかお話しできないのは、貴方にとっては辛いでしょう? この一年、よく耐えましたね」
普段のカイルさんなら、絶対に言わないような優しい言葉。僕が顔を臥せているから見えないけれど、きっと、きれいな微笑み付きだろう。
何だかんだ言いつつ両親に愛されてて、両親が大好きな僕の弱いところを的確に突いてくる。
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