官吏になりたい僕ですが、宰相が本気で邪魔してくる

すみよし

文字の大きさ
11 / 21
三度目

11 不肖の(元)息子は餌になる

しおりを挟む
 人目もあるので、昼食は僕の家──まあ家の所有者は父だけど──で食べた。使用人は置いてないので、僕とカイルさんで簡単なものを作って食べる。

 僕は料理が趣味。あんまり出掛けられない貧乏浪人の僕は、自炊が娯楽の一つとなっている。

 ちょくちょく、友達が材料持ち込みで「作って~♪」と僕への援助がてら押し掛けて来てくれるので、人に出しても大丈夫な腕前だと自負している。

 カイルさんはそこそこ料理ができる。野営のために簡単なものを覚えたそうだ。なんと、僕の父さんにも教わったことがあるらしい。

 父さんは若い頃商隊で料理を覚えたそうで、食べられる材料ならあり合わせのもので何でも美味しく料理ができる。荒くれ者も多かった商隊をまとめるには、胃袋を掴むのが手っ取り早くて良かったという。
 肉を捌くところからできるので、地方官をやっていた頃は官吏仲間から重宝がられたそうだ。

 ちなみに、元女官の母さんは父さんと結婚するまで全く料理の経験がなく、父さんに少しずつ教えてもらいながら料理を覚えたそうだ。
 僕は身内の欲目を差し引いても、母さんの料理は美味しいと思うけれど、母さんは今でも料理に苦手意識があるらしい。
 槍を持てば大陸五指には入るだろうと言われるその姿は実に堂に入ったものなのに、包丁を持った途端に心許なくなる様子は、ちょっとおもしろい。

 閑話休題。

 食事を終えたカイルさんが言う。

「今頃は絞られておられる頃でしょうかねえ」
「えっと、誰が誰に?」

 食後のお茶をカイルさんに渡して僕が聞くのに、カイルさんが答える。

「宰相殿が宰相補佐の殿下に。貴方とのやり取りで、次の策をご披露してしまった訳ですから」
「あ、そうですよね。そういうこと、なんですよね……。」

 特に、東の港については、北の宮直轄ではない上に東の宮さまが関わるので、北の宮では触れないようにされてきたはずなのだ。
 それに宰相が言及した。それだけでも驚くこと。

「宰相殿は東の港について北の宮の直轄にしたい腹でしょう。宰相補佐の殿下は反対なさっていますが」

とカイルさんは付け加える。

 宰相補佐の殿下が居られなくて、大臣や幹部が揃っている公式な場なんてそうそうないだろう。そりゃあ、「うっかり」本音漏らしちゃうよね宰相閣下。

 試験に受かることしか頭にない僕を餌に、それまで東の港に関心が薄かった宮の方々を、宰相は上手く釣ったのだ。
 明けて今日、色んな方のお使いが自由市に大集合。

 そして、そのお使いの動向を探るために急遽自由市に行くことになった皇帝侍従のカイルさんは、僕の話に付き合う時間なんかない。

 斯くして、僕はお宿に放り込まれ、翌朝自由市の視察ついでにカイルさんに迎えに来られたのだった。

 ようやく全てが飲み込めた僕は、はーっとため息をついた。

 通りで、試問の時、父さんの質問に答え易かったわけだ。

 父さんははじめ、僕を相手に、補佐の殿下がおっしゃっていた「課題を明らかにし、宮で共有」する討論をしたのだ。
 そして、目的を達した父さんは、すぐさま「相手を宮から叩き出す」討論に切り替えた。それを躱し切れなかった僕は、逃げ道も示されず、あえなく撃沈。

 そもそも、若かりし頃東の都で商会を営んでいたこともある父さんに、商売の話で僕が敵うわけないじゃないか。本当に容赦がないよ宰相閣下。

 思わず机になつく僕に、カイルさんは笑って言う。

「さて、来年はどうしますか?」

 僕は机になついたまま、ふーっと息を吐く。なんだか凄く疲れた。

 これでも、僕は全力で頑張っているつもりなんだけど、そんな僕の努力なんて、宮では何の役にも立ちそうにない。そんな気がする。

 普段なら、こんなだらしない姿勢をしていたら直ぐに注意されるのに、今のカイルさんはそれをしないまま話を続ける。

「あなたなら、他の道もあります。宮から離れるならば、貴方のお父上は勘当を解かれるでしょう。そうすれば、貴方を雇いたいと言う人は、引きも切らぬと思いますよ?」

 そうかな。まあ、試験勉強で法には詳しくなれた。補佐の殿下のしごきのおかげで、ちょっとは、去年よりはちょっとはマシなやり取りが出来たと思うけれど、それは、今年は父さんに話を続けさせようとする思惑があったから出来ただけかも知れないし。

 自信をなくしている僕は、まだ、立ち上がれない。

「それに、お父上とああ言った形でしかお話しできないのは、貴方にとっては辛いでしょう? この一年、よく耐えましたね」

 普段のカイルさんなら、絶対に言わないような優しい言葉。僕が顔を臥せているから見えないけれど、きっと、きれいな微笑み付きだろう。

 何だかんだ言いつつ両親に愛されてて、両親が大好きな僕の弱いところを的確に突いてくる。

 巧い。巧いなあ、僕の師匠は。うっかり「もういいか」なんて、僕は納得してしまいそうじゃないか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ

黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ! 「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。 だが、それは新たな伝説の始まりだった! 「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」 前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる! 「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」 仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。 一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを! 無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...