14 / 14
メモ
〈ルキウス〉最終話余談
しおりを挟む※最終話「元小さいのは即位する」からカットした部分。
────────
カイルもヨシュアも「出世」してしまったのに対し、リヒトは変わらず東に居る。それを残念がる声は未だ数多あるが、リヒトはそういったことに興味を示さない。
本人は「東の宮ただ一人を主人と定めているから」と言うが、ルキウスが思うに理由はそれ一つだけではなさそうである。
様々ある中でも、リヒトがガレスの守役に就いたことも、リヒトが北の宮を避ける大きな要因だろう。
ガレスが居たから東に留まり、長じたガレスが北の宮に行くからあえて距離を取る。
──まあ、リヒトまで北の宮に行ってしまっては、いよいよ兄上は退屈してしまうからな。
そうなったら恐ろしいことになるなあとルキウスは遠い目をする。
リヒトが東にいてくれてありがたい、と内心感謝する次代東の宮の目の先で、リヒトは先ほどからどこかソワソワとした様子である。さしあたって思い当たることがないルキウスは尋ねてみる。
「どうしたリヒト。落ち着かぬようだが」
「あ、はい。あとちょっと、ちょっとしたらですね、ヨシュアさんちの息子さんをとっ捕まえに行くんですよ」
「……とっ捕まえる? ザイを?」
ヨシュアの息子ザイは、今は北の宮の直轄領にいるはずだ。北の宮の所属とはいえ、正式な要請をすれば東の宮が召出すことは可能である。
事実何度か、東の宮は手順を踏んでザイを呼び出している。それを「とっ捕まえる」とは? ……カイルであるまいし。
「はい。『カイルの弟子を直轄領補佐官なぞ中途半端な地位に留まらせなさるなら、いっそ東に賜りたい。ガレスを東から取っておゆきになるのだから、ケチくさいことはおっしゃるな』って宮様が申されまして」
「……兄上……。含みも何もあったものではないな。それで?」
「それで陛下が『三日のうちに捕らえることが出来たなら東に持っていかれるがよい』っておっしゃったんで」
「リヒト……!」
ルキウスは突然立ち上がる。常にないルキウスの鬼気迫る様子に、リヒトは思わず飛び退きかけたがなんとか耐えたようである。そのリヒトの両肩をルキウスがガッシと掴む。
東の宮とは対照的に細身でありながら、東の宮と同じように大剣を扱うルキウスである。掴まれたリヒトが「痛いっす」と正直に申し上げるが、ルキウスの耳には入らない。
「リヒトよ」
「はい?」
目を据わらせたルキウスが宣言する。
「全力でザイの退路を断つぞ!」
「……ルキウス様はお留守番でお勉強ですよ?」
向こうが陛下とカイルの二人、だからこちらも二人で追うのが条件だとリヒトに言われ、ルキウスはあからさまにガッカリする。
「しかしヨシュアは把握しているのか?」
座り直してルキウスが聞くのに、リヒトは答える。
「宰相閣下のお使いが直轄領に走ったのは確認されてます。ザイ君は今のところ行方知れずらしく。恐らくは東から船で出るつもりでしょう」
もうすぐこちらに来る頃だとリヒトは言う。
「楽しみですねー、ザイ君はおっとりしてますけどなかなかしぶといんですよ。俺は全力で亡命経路潰してきます」
というわけで行ってまいりまーす。とリヒトはへらりと笑う。何かがリヒトの結界に引っ掛かったらしい。
「もし陛下が先に捕まえなさったら、ザイ君は若様の侍従になさるそうです。どっちになってもウチにはおいしいですね」
そう言って颯爽と出かけて行くリヒトをルキウスは気を付けてなと見送る。
──なるほど、ガレスを思い、ザイも気に入っているリヒトにとってはどっちも良いのか。
ルキウスはリヒトらしいことだと笑った。
※
さて、ザイは東の宮から逃げ切れるだろうか?
ザイについて、ルキウスは自分の娘にザイを添わせたいと考えていた。無理は承知でカイルを通じて陛下に「お願い」もしたルキウスであったが、色良い返事はついに頂けなかった。
ガレスの即位が現実的なものになると、いよいよザイを東に得ることは無理だろうと考えていたのが、ここにきての陛下のお言葉である。しかし、
──ザイは東の宮とリヒトでも捕まえられない。
陛下はそう確信しておられるのだろう。
それでも、餌だと分かっていても万に一つの見込みがあれば打って出るのが東の宮にリヒトである。
あの主人にしてあの従僕あり。そして自分のような弟宮もいる訳だ。
それでなくてもカイルの弟子と思う存分戦える機会など、あの兄宮が逃すはずがない。
その兄から逃れられるのなら、ザイはガレスの侍従としてこれ以上なくうってつけであるという証明にもなる。
──どちらになってもヨシュアには気の毒なことだが。
息子には政と無縁な人生を送らせたがっていたヨシュアである。近いうちにこちらに愚痴をこぼしにくるかもしれない。それぐらいは聞いてやろう。
──それまでにこれを片付けねば。
ルキウスは延々と続く引き継ぎの文書の山の読み込みに戻った。
※────
この後、↓の場面に続きます。
・【完結】官吏になりたい僕ですが、父さん(宰相)が本気で邪魔してくる【短編】16話「傾向と対策~父の助言『三十六計、(以下省略)』~」
※主人公はヨシュアの息子のザイです
さらにその後↓
・【完結】官吏になりたい僕ですが、父さん(宰相)が本気で邪魔してくる【短編】おまけ「見定めと諦めが肝心 」
※リヒトとカイル(+ヨシュアの嫁)の話
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる