子守 〜元盗賊の使いっ走りが皇子の守役になる話〜

すみよし

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メモ

〈ルキウス〉最終話余談

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※最終話「元小さいのは即位する」からカットした部分。

────────

 カイルもヨシュアも「出世」してしまったのに対し、リヒトは変わらず東に居る。それを残念がる声は未だ数多あるが、リヒトはそういったことに興味を示さない。

 本人は「東の宮ただ一人を主人と定めているから」と言うが、ルキウスが思うに理由はそれ一つだけではなさそうである。

 様々ある中でも、リヒトがガレスの守役に就いたことも、リヒトが北の宮を避ける大きな要因だろう。

 ガレスが居たから東に留まり、長じたガレスが北の宮に行くからあえて距離を取る。

 ──まあ、リヒトまで北の宮に行ってしまっては、いよいよ兄上は退屈してしまうからな。

 そうなったら恐ろしいことになるなあとルキウスは遠い目をする。

 リヒトが東にいてくれてありがたい、と内心感謝する次代東の宮の目の先で、リヒトは先ほどからどこかソワソワとした様子である。さしあたって思い当たることがないルキウスは尋ねてみる。

「どうしたリヒト。落ち着かぬようだが」
「あ、はい。あとちょっと、ちょっとしたらですね、ヨシュアさんちの息子さんをとっ捕まえに行くんですよ」
「……とっ捕まえる? ザイを?」

 ヨシュアの息子ザイは、今は北の宮の直轄領にいるはずだ。北の宮の所属とはいえ、正式な要請をすれば東の宮が召出すことは可能である。

 事実何度か、東の宮は手順を踏んでザイを呼び出している。それを「とっ捕まえる」とは? ……カイルであるまいし。

「はい。『カイルの弟子を直轄領補佐官なぞ中途半端な地位に留まらせなさるなら、いっそ東に賜りたい。ガレスを東から取っておゆきになるのだから、ケチくさいことはおっしゃるな』って宮様が申されまして」

「……兄上……。含みも何もあったものではないな。それで?」

「それで陛下が『三日のうちに捕らえることが出来たなら東に持っていかれるがよい』っておっしゃったんで」
「リヒト……!」

 ルキウスは突然立ち上がる。常にないルキウスの鬼気迫る様子に、リヒトは思わず飛び退きかけたがなんとか耐えたようである。そのリヒトの両肩をルキウスがガッシと掴む。

 東の宮とは対照的に細身でありながら、東の宮と同じように大剣を扱うルキウスである。掴まれたリヒトが「痛いっす」と正直に申し上げるが、ルキウスの耳には入らない。

「リヒトよ」
「はい?」

 目を据わらせたルキウスが宣言する。

「全力でザイの退路を断つぞ!」
「……ルキウス様はお留守番でお勉強ですよ?」

 向こうが陛下とカイルの二人、だからこちらも二人で追うのが条件だとリヒトに言われ、ルキウスはあからさまにガッカリする。

「しかしヨシュアは把握しているのか?」

 座り直してルキウスが聞くのに、リヒトは答える。

「宰相閣下のお使いが直轄領に走ったのは確認されてます。ザイ君は今のところ行方知れずらしく。恐らくは東から船で出るつもりでしょう」

 もうすぐこちらに来る頃だとリヒトは言う。

「楽しみですねー、ザイ君はおっとりしてますけどなかなかしぶといんですよ。俺は全力で亡命経路潰してきます」

というわけで行ってまいりまーす。とリヒトはへらりと笑う。何かがリヒトの結界に引っ掛かったらしい。

「もし陛下が先に捕まえなさったら、ザイ君は若様の侍従になさるそうです。どっちになってもウチにはおいしいですね」

 そう言って颯爽と出かけて行くリヒトをルキウスは気を付けてなと見送る。

 ──なるほど、ガレスを思い、ザイも気に入っているリヒトにとってはどっちも良いのか。

 ルキウスはリヒトらしいことだと笑った。

 ※
  
 さて、ザイは東の宮から逃げ切れるだろうか? 

 ザイについて、ルキウスは自分の娘にザイを添わせたいと考えていた。無理は承知でカイルを通じて陛下に「お願い」もしたルキウスであったが、色良い返事はついに頂けなかった。

 ガレスの即位が現実的なものになると、いよいよザイを東に得ることは無理だろうと考えていたのが、ここにきての陛下のお言葉である。しかし、

 ──ザイは東の宮とリヒトでも捕まえられない。

 陛下はそう確信しておられるのだろう。

 それでも、餌だと分かっていても万に一つの見込みがあれば打って出るのが東の宮にリヒトである。

 あの主人にしてあの従僕あり。そして自分のような弟宮もいる訳だ。

 それでなくてもカイルの弟子と思う存分戦える機会など、あの兄宮が逃すはずがない。

 その兄から逃れられるのなら、ザイはガレスの侍従としてこれ以上なくうってつけであるという証明にもなる。

 ──どちらになってもヨシュアには気の毒なことだが。

 息子には政と無縁な人生を送らせたがっていたヨシュアである。近いうちにこちらに愚痴をこぼしにくるかもしれない。それぐらいは聞いてやろう。

 ──それまでにこれを片付けねば。

 ルキウスは延々と続く引き継ぎの文書の山の読み込みに戻った。



※────
この後、↓の場面に続きます。

・【完結】官吏になりたい僕ですが、父さん(宰相)が本気で邪魔してくる【短編】16話「傾向と対策~父の助言『三十六計、(以下省略)』~」
 ※主人公はヨシュアの息子のザイです

さらにその後↓

・【完結】官吏になりたい僕ですが、父さん(宰相)が本気で邪魔してくる【短編】おまけ「見定めと諦めが肝心 」
 ※リヒトとカイル(+ヨシュアの嫁)の話

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