Dream of Alice

彩。

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少年との出会いと

一話「アンタ……名前は? 俺の名前は……」

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いい香りがする方に引き寄せられるように、白い空間から外に出るとそこは色鮮やかな花畑があった。余りの綺麗さに言葉を失っていると、後ろから少年が出て来て「本当に外に出れた……」と呟き辺りを見回している。
私はこの花なんていう名前なんだろうと考えながら、花に触れようとした時に後ろから声がボソッと聞こえた。

「悪かったよ……」
「?」
「イラついていたとはいえあんな態度取ってさ……」

少年の方を見ると、頭をポリポリとかきながら眉を下げ申し訳なさそうにしている。

「アンタもあそこに閉じ込められて怖かったのに……本当に悪かった」
「いえ……その……出れましたし」
「アンタ……名前は? 俺の名前は……」

少年が名前を言い掛けた瞬間に、大きな音が響きわたり何事かと声の方に二人して振り返る。そこには、少年と似た格好をした人とその後ろには……

「え!? ちょ……アンタ何してるんスかぁぁぁぁ!!」

巨大なモンスターがドスドスと音を立て、追い掛けていた。追いかけられている本人は笑いながらこちらに向かってくる。

「うわっ……こっち来るなスよ!!」
「はは~! ソル! 食べられちゃう時は一緒だぞ」
「そんなの遠慮するっスよ! あーもう! ほら、逃げるぞ!」
「え?」

少年は私の手首を掴み、モンスターがいない方に走り出し花びらが舞う。その光景も綺麗だなっと見ていると、外見の割に足が速いモンスターに追われていた朱色の髪で目つきが少し悪そうな人が楽しそうに隣を走り目があう。彼は私を走りながらまじまじと見ているとにっこり笑う。

「ソルー! 俺がいない間になかなか可愛い女の子つかまえたなー!」
「アンタは俺がいない間に変なのつかまえてきましたねー!」
「いやーちょっと散策している時に目があってさ~あー死ぬかと思った」
「今も死にそうなんスけどね!?」

全力で走っているのによく二人は会話できるなっと私は思っていた。引っ張られて走っているが、もう息が途切れ途切れで苦しいし足が疲れて……

「あ!」
「!!」

足がうまく動かず、凹んでいた土の部分に引っかかり転んでしまった。足に痛みを感じ、見ると血が少し出ていて痛みにたえおさえていると声が聞こえた。
何かと、顔を上げ目の前にあのモンスターがいるのに気付いた。

モンスターは爪を獲物の私にめがけて、振り下ろそうとする。その瞬間がスローモーションに見えて死ぬときって本当にこう見えるんだと感じつつ、私は恐怖より安心していた。

――だって、これで私は死ねる……終われるから。

近付いてくる爪の気配に、そっと瞼を閉じ私は終わる予定だった。……のに。

「ちくしょぉぉぉぉ!!」

何かを走っていき切り裂く音と、耳が痛くなるような悲鳴が聞こえた。ドスッと目の前で何かが落ちる音に驚いて見開くとそこには、剣を持った黒髪の少年が立っていた。

「なんで……」

目の前には、少年が斬ったであろうモンスターの手が落ちていた。モンスターは、斬られた怒りで彼にもう片方の手で攻撃をしようとする。その手の上にジャンプして乗り、剣を振り上げ……

「おりゃぁ!」

モンスターの頭に刺した。先程の比じゃない叫びが響き、暴れまわりモンスターはその後消えた。少年はふぅっと、息を吐いてから剣を持ち直しスタッと地面に着地する。
私はポカーンと口を開いたまま少年を見ていると、彼は私に慌てて近寄ってくる。

「間に合ったみたいで良かった! おい、怪我はないか? 体は……」
「あ……」

彼に揺さぶられ、自分は助かったのだと気付いた。そう、助かったのだ。あのモンスターから死にそうだったのを助けて貰い、助か……

「え!? やっぱりどこか痛いのか!?」

助かったと感じたら涙がぽろぽろと出て来た。おかしい。先程の私は死ぬことに安心していたのに。何で。

「おい?」
「……」

何で涙が止まらないんだろうか。わからず、泣き続けていると、少年はおろおろしていたが、聞いても泣き止まないのを見ているとイライラしてきたのだろう。怒りながら口を開く。

「だーーー!」
「!?」
「いや、なんか言ってくんねーとわかんねーよ! 何で泣いてるんだよ! モンスターは退治しただろ?」
「……」
「ほらだんまり! なんだよ! なんかあるなら言えよ! ビービー泣いてイライラするんだよ!! これだから女は……」
「ソルトくんや……」
「なんスか先輩! 先輩もなんか言って下さいスよ! コイツ……って、いてぇぇぇぇ!」

朱色の髪の人は、少年に頭に手を勢いよく振り落とした。結構な音がし、痛がっている彼を無視し、私に向き合い優しい声をかける。

「モンスターに襲われて死にそうになって怖かったんだよなぁ」
「……!!」

その人に言われて私は初めて一瞬は死んで終えてもいいと思ったが、やはり死ぬのは怖かったんだと気付いた。
泣きじゃくる私に朱色の人は背中を優しく撫でてくれた。それが、涙を止まらなくし先程の光景を思い出す。鋭い爪が私に……もしかしたらまた……

「……そんなに怖かったのかよ……でも、もう終えたんだ。もう泣くことねーだろ」

叩かれた頭をおさえながら、彼が不機嫌そうに聞いてくる。私はその質問に答えることなく泣き続けるからまた彼の不機嫌さが増したのに気付き、口を開く。

「だって……また……襲われ……今度は死んでしまったらと思うと……こわ……く……て……」

思い出すだけで涙が止まらない。あの爪が私を切り裂いていたら私は死んでしまっていた。そうしたら……

「……まぁ、怖かったよな……」
「なーんだそんなことかよ」
「……ソル?」

朱色の人の手が離れたと思ったら、今度は少年がグィっと私の肩を掴み引き寄せる。眉を吊り上げ怒った表情が怖くてまた怒られると身構えるが、聞こえた言葉は違った。

「だったら今度も俺がアンタを守ってやる! だから泣くなよ!」
「!!」

一瞬で涙が止まる程その言葉は染み込むように入っていき、ふと何かを思い出しそうになった。だが、思い出すより前に私は目の前の彼を見つめていた。

「やっと泣き止んだな~ったく女ってのは……」
「本当に……?」
「?」
「本当に守ってくれるの?」
「!!」

私の顔を見て、驚きつつ少し赤くなった彼は視線を逸らし小さく呟く。

「あ、あぁ……」
「!」

その言葉に微笑むと、今度は先程より真っ赤になってパッと手を離した。何故だろうと顔を覗きこむが視線をあわせようとせず、不思議に見ていると間に朱色の彼が割り込む。

「はいはい。これで、俺達と行動共にすることが決まったことだし自己紹介するか! じゃあ、ソル!」
「あぁ……禾本のうもとソルト。学校は……」
宝桜ほうおう学園中等部の人ですよね?」
「お!?」

視線を逸らしながら、自己紹介する禾本くんにそう言うと朱色の人は驚いた顔をされた。なんだろうか、違ったのだろうか。

「あれ? 君って俺らと違った服着ているからわからないかと思ったけどもしかして俺らと同じ世界から来た子?」
「同じ世界?」
「うん、そう。なんかこの世界が夢みたいな場所だから同じ世界のことは俺らは現実って呼んでいるんだけどさ」
「現実……」

そう言われ私は、確かに彼らの言う世界から来たというのが何故かわかった。なんだろうか雰囲気が似ているからだろうか?

「はい……そうだと思うんですが……」

ちらりと自分の服装を見る。赤いエプロンドレス……余り気にしていなかったがファンタジー世界の服装をしている。こんな私がそう言っても信じて貰えないだろう。

「ふーん、そっか。じゃあ、俺の名前は柏谷かしやちろる。ちろるくんって呼んでくれたら嬉しいな」
「はい。……って、え?」
「……」

あっさりと信じて貰えると思えず、驚いて彼を見ると柏谷さんの方が不思議そうな顔をされた。

「信じるんですか? 私、嘘ついて……」
「なんとなく俺らと同じ世界の子だなってわかるよ。……なんだろう雰囲気が似ているというか」

先程私が感じたのも彼らも感じていたのかと納得し、ほっとしていると禾本くんが声をかけてきた。

「それで、どこの学校で名前は?」
「あ、すみません……私の名前は甘泉あまいずみ陽菜ひなで、学校は……」

名前まで簡単に言えていたのに学校になると、言葉が止まってしまった。いや、思い出せなく言えなくなってしまったのだ。あれ? 学校行っていたはずなのになんで思い出せないのだろうか。

「……覚えていないのか?」
「すみません……」
「じゃあ……家族構成とかは?」
「先輩? 何聞いて……」
「うっせ。さっきまで真っ赤になっていた奴は黙ってろ」
「なっ!」
「家族構成……」

柏谷さんに聞かれ、一生懸命思い出そうとする。が、全然思い出せない。思い出そうとすると頭が真っ白になる。なんなんだろうかこれは。

「……こちらの世界に来たショックで記憶喪失になったのか?」
「はぁ? 先輩、話聞いて何でそんな結論を……」
「だって、名前と一般常識以外答えられないのはそうとしか思えないだろ。それともソルはこの子が嘘ついているように見えるか?」
「う……」
「記憶喪失……」

自分で言葉に出すが実感がわかない。確かに思い出せないことが多いし、自分がわからないからそうなんだろう。

「おやおや、お困りのようやな」
「!!」

暗くなりかけた時に聞こえた声にバッと後ろと振り向くとそこには、綺麗な顔をしているが奇抜な格好をした人が立っていた。


**


「白うさぎ……君の思い通りにゲームが始まったようだよ」
「……」

遠くの木の上から三人を眺め楽し気に紫色の猫は言う。白いロングコートの黒髪の少年は何も言わず彼の言葉を聞いているだけだ。

「さて、彼女はこの世界を気に入ってくれるだろうか」
「……」
「俺はね、白うさぎ……彼女は……」
「チェシャ猫」
「……はいはーい。……そうだね、俺だって彼女が泣く顔はもう見たくない」
「そうだ。だから俺は……」
「……」

白うさぎは、チェシャ猫から陽菜に視線を向ける。

「悪にだってなる。……ごめんな陽菜」

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