Dream of Alice

彩。

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少年との出会いと

三話「アイツらはお前を見捨てたん?」

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「……せんぱいっ」
「なんだーソル? 次の町までの距離はまだまだだぞ」

紙の地図を出しながら、柏谷さんは辺りを見回しながら答える。ソルトくんは、ちらりと彼を見てからため息を漏らす。

「その地図で今の居場所とかわかるんスか……」
「いーやわかんねぇからなんとなくだな! つかさぁー本当は自分の場所もわかるゲームのマップみたいなの買おうとしたじゃん。それ、止めたのはソルじゃんーなのにそれ言うのかよ」
「いや、だって! 結構値段が高くて……」
「はいはい。じゃあ、文句言うなって。それより……」

地図を何でも入る袋に戻し、柏谷さんは空を見上げる。結構歩いたのに空はまだ明るい。

「先輩……それだけは……」
「わかってるソル。でも、これだけは言いたい」
「……」
「腹減ったなぁ……」

ぐぅっとソルトくん達のお腹の音が鳴る。先程から歩いてはモンスターを退治と、動いている二人には体力が減ってきたようだ。

「あー駄目だー! もうわかってしまうと動けねー!」
「ソルトくん……!」

ソルトくんは草むらに寝そべり、柏谷さんも座り込む。二人共疲れて体力がないようだ。

「まさかこの異世界満腹度とかあるとはなぁ……予想外予想外」
「あのクソうさぎめぇ……食料も勧めとけよな」

恨めしそうにソルトくんは、アイテムや武器を売ってくれたうさぎさんのことを思い出し文句を言う。……思い返せば、端に食料も売っていた気がする。
現実では珍しいアイテムなど見ていないでそちらもちゃんと見ていればよかったと私も反省をする。

「嘆いてもどうにもならねーぜソル」
「だって先輩……」
「薬草じゃお腹いっぱいになりませんしねぇ……どこかに……? あ、あのどうかしましたか?」

じぃっとソルトくんが私を見るから、何だろうと聞くと大きくため息を吐かれた。

「いいよなーアンタは」
「え?」
「そんなに動いてないからお腹空いてなく余裕でいられる。こっちはアンタ守る気で動いてるってのに」
「おい、ソル……」
「先輩は黙っていて下さいっス! 守るとは言ったけど、アンタはただ守られているだけで悪いと思わねぇのかよ?」
「……」

ソルトくんに言われてしまい、私は黙る。
戦闘は役に立たないから足手まといになるとは思っていた。だから、どうにかしないととは考えていたが、何も考えておらず私は甘えていた。それを指摘されただけだ。

「ソル、お前お腹空いているからって八つ当たりは……」
「わかりました」
「陽菜ちゃん?」

だったら、今私が出来ることをしようと一応護身用にと買って貰ったナイフを持つ。

「私、何か食べ物になりそうなもの探してきます!」
「え、おい……陽菜ちゃん!?」

今はそれくらいしか出来ないと思い、私は草むらをかき分け進み探しに行った。




「えっと……とは言っても食べれる果物とか木の実の見分け方ってどうすればいいんだろう」

そういう知識はないし、どこにあるのかもわからない。大体木の上にあるものをどうやって取ればいいのだろうか思いつかない。

「やるしかありませんよね……私、お荷物ですし」

意気込み、とりあえず揺らせば落ちてくるかと思い歩いているとと人の影が見えた。

「チェシャは~果物より魚の方が好きにゃんだけどにゃー」
「……!」

紫色の猫耳の人が歩いており、ファンタジー世界な人物に私は一瞬話しかけるのは戸惑ったが、食べ物ある場所を聞けるのではと思い走って近寄って行く。

「川ないかにゃーチェシャは……」
「待って下さい! あの……ここら辺に……!?」

くるりと猫耳の人曲がったので、私もそこで曲がろうとしたが走り出すとガクンと足が落ちる感覚がした。何かと下を見ると、そこは崖で。

「え、ひゃぁぁぁぁぁ」

そのまま体勢が崩れ、宙に放り投げられそのまま落下していく。落ちていく中で、怪我をするし本当に役立たずだな自分と後悔しながら痛みを覚悟し目をぎゅっと瞑る。
だが、いくら瞑っても痛みは来ない。かわりに柔らかい何かの上に座っている感覚がして恐る恐る目を開ける。

「全く……見てて危なっかしいやつやなぁ」
「貴方は!」

そこにはこの前の可愛らしいうさ耳の子がいた。

「何でこんな場所に一人でおる? モンスターとか出て危ないやろう」
「それは……」
「アイツらはお前は見捨てたん?」
「ち、違います!」
「だったら何故一人でおったん? 守るとか一緒に言っていたくせにやっぱり邪魔になって……」
「違います! ソルトくん達はそんなことしません!」

ソルトくん達が悪い印象になるのが耐えれなくて、つい大きな声で否定してしまう。うさ耳のした子は驚いた顔で私を見る。

「私が、役に立ちたくて果物とか探しに行くと自分で行ったんです! ソルトくん達は何も悪くありません」
「……お前……」
「助けてくれてありがとうございました。では、失礼しま……」
「ちょい、待ち」

立ち上がり、この子の前から去ろうとするとスカートの端を掴まれる。何かを見下ろせば、うさ耳の子はにぱーと笑う。

「そう言う事やったんか。勘違いして悪かったわ」
「いえ、わかって頂けたら……」
「俺の名前は三月うさぎの唯是ゆいぜ
「?」
「唯是って呼んだれや」
「?? はい、唯是くん?」

よくわからず彼を見下ろすと彼は私の手を掴む。

「俺が美味しい果物の場所紹介したる! 着いてきたってー!」
「え? あ、ちょ……」

唯是くんの手に引かれ、私はその場を後にした。




「これがりんごで食べれる。この草も結構役に立つから取っとき」
「……」

唯是くんに連れられ、来た場所は食べ物が沢山ある場所だった。役に立つからと薬草も取ってくれて、助かっている。

「す、すみません……手伝って貰って……」
「別にええで。俺もひよこの仲間の酷い事を言って悪かったしそのお詫びやから」
「そんな……って、ひよこ?」

唯是くんから貰っていた食べ物を袋に詰めていた作業を止め、彼を見ると木の上にいた彼は沢山果物を抱えおりてくる。

「陽菜はそんな雰囲気しとるからあだ名やあだ名」
「あだ名……」

それは私がひよこみたいなんだろうか。危なっかしいと言っていたしそれなのかな。

「そんな深く考えんでえぇ。 あ、あそこにも美味しそうなものが……」
「あ、待って下さい唯是くん……」

唯是くんがぴょんぴょんと跳ねるように、向かうから食べ物を抱え追い掛ける。
小さいのに結構速く、流石うさぎだなぁと考えながら唯是くんの後を追いかけるとその先は……

「うわぁ……」

その先には、赤くて綺麗な花が沢山咲いている花畑だった。
唯是くんも予想外だったらしく、辺りを見回し「花畑やったんかぁ……」と驚いた声をあげている。
私は近寄り、花畑の真ん中に屈む。そういえば、ソルトくんと一緒に出た場所も綺麗な花畑がある場所だった。モンスターが現れ、よく見れなかったが花は心を癒してくれるなぁっと眺めていると後ろからプチプチと花を摘む音がして、振り返ると唯是くんが何か作っている。
彼はアイテムを売っていたし、店で売る何かかなぁっと思い、視線をまた前に向け花を見つめる。うん、いい香りがしなんだか落ち着く。

「出来た!」
「ん? ……!?」

唯是くんの嬉しそうな声が聞こえたと思ったら頭にふわっと何か乗せられる。何かと手を頭に伸ばせばそれは。

「花冠?」
「ひよこに似合うと思ったんやけど……思ったより」
「え」

似合わなかったと言われるのかと焦る私に、唯是くんは照れたように笑う。

「似合っていて驚いたわ」
「!!」

予想外の言葉に、小さなうさ耳した子に言われたのに私も照れて赤くなってしまう。
何か言わないと、お礼を言わないとと思い私は俯きながら小さな声で言う。

「ありがとうございます……」
「おん」

風が吹き、赤い花びらが舞う。和やかな時間になったなぁっと思いながら、ソルトくん達がお腹空かせていると思い立ち上がる。

「ひよこ?」
「ソルトくん達のとこに戻らないと行けません。お腹空かせているだろうし」
「それもそか。えぇっと、ひよこが……」

町まで食料足りるかなぁと袋の中身を見ていたら、自分達に大きな影がかかった。何かと顔を上げるとそこには……モンスターがいた。

「なんでこんな場所にモンスターが……まぁ、ええか。ひよこあっちに……」
「! 唯是くんあぶないっ……」
「!?」

モンスターが唯是くんに攻撃しようとしているのがわかり、私は身体が動いていた。唯是くんを突き飛ばせるというところで、キッと睨み付けた唯是くんが。

「このあほっ!!」

私を逆に突き飛ばされた。食べ物のりんごがごろごろと転がりながら、私は目の前の光景を見てドクン、と心臓が速くなる。
だって、目の前で唯是くんが。唯是くんが。

「唯是くん……!」

モンスターの攻撃を負い、血塗れになった唯是くんに走って近寄る。血が溢れて止まらない。

「あ、あ……」

どこかの光景と重なり、私は青ざめていく。私のせいだ。私が、私が……

「ひよこ、にげ……」

私のせいで唯是くんが    が……

「やだ……」
「ひよ……」

モンスターがまた攻撃しようとしているのも気が付かず、私はただ泣いて唯是くんを抱きしめていた。血が服に染みていくのをお構いなくだ。


**


「っ……私……」
「にげ……」

爪が陽菜に触れ食い込みそうになる瞬間、ぐにゅんとその爪が捻じれる。カツカツと黒と紫の変わった服を着た猫耳の先程の少年が現れ、泣いて唯是を抱きしめているのを見てからため息を吐くと、ダーツを投げるような構えをする。

「邪魔者はチェシャがたーいじ!」

突然現れた猫耳の少年にモンスターは攻撃しようとするが、その前に手を振り下ろすと、悲鳴を上げモンスターは簡単に消えて行く。それを見終えた後、混乱して退治されたのも猫耳の少年に気付いていない陽菜に近寄る。


**



「唯是くんゆいぜく……?」

段々弱っていく唯是くんにあの人と重ねてしまい、混乱しているとふと優しく頭を撫でられ、驚いて顔を上げると猫耳の人が居た。

「大丈夫だから」

見て大丈夫じゃないと言い掛けた私の言葉を被せるようにまた「大丈夫だ」という。それを何度繰り返しているうちに、私は前より心が落ち着いてはくるが……目の前にいる唯是は青ざめているし血は止まらない。

「唯是くんがこのままじゃ……」
「大丈夫だよ。君ならその人を助けれる」
「どうやって……」
「まずは目を閉じて落ち着こうか」

そう言われても落ち着くことなんかと言おうと思ったが、この人の顔を見ているという事を聞いても大丈夫な気がし、目を閉じる。そうすると、この人が頭を撫でてくれるから落ち着いても来た。

「手に集中して……そして、祈る」
「祈る……?」
「そう。治れってね」

言われた通りに治りますようにと祈る。ふわっと、あたたかい何かに包み込まれた感じがし、目を開けるとそこにはパチパチと瞬きをし怪我が治っている唯是の姿があって。

「え、なんで……」

後ろに振り返り理由を聞こうとすると、既にそこには誰もいなかった。辺りを見回し、どこに行ったのかと探す私に唯是くんは起き上がり嬉しそうな顔で目の前に立つ。

「ひよこは治癒術使えたんやな!」
「え? 治癒術?」

それは、ゲームとかでよく治癒術師が使っている魔法のことだろうか。私にそれが……?

「いえ、それは私じゃなくて……猫耳の人が……」
「?」

あの時の出来事を話すと、唯是は考えこむが私に向けてにこっと笑う。

「チェシャに教えて貰ったんやな!」
「チェシャ?」
「猫耳の奴の名前や。ひよこのいう外見から言うとソイツだと思う」
「チェシャ……」

名前を知れたし、今度会ったら礼を言い何か渡せたらいいなぁっと考える。

「使い方わかったし、これからひよこは治癒術使えるようになったと思うで」
「え」
「戦闘で役立たずじゃなくなったということや!」

唯是くんに役立たずじゃなくなったと言われて、気にしていたのが気付かれていたんだなっと恥ずかしくなる。だけど、彼の言う通り役立たずじゃなくなった。少しはお荷物じゃなくなっただろうか?

「とりあえず腹空かせていると思うから食べ物持って帰るか」
「あ、そうですね! ……あ、りんごが……」

あの突き飛ばされた時にりんごが落ちてしまい、傷んでしまっているのがある。

「まぁ、食えそうなのと俺からも少し分けたるわ」
「悪いですよ」
「回復させて貰った礼や」
「でも、それは……」
「とりあえず崖の場所までいこか」
「……」

これは断っても渡してくるなと諦め、私は唯是くんの後を追った。



「さて、崖に上るには……」

改めて崖の前に立つと高い。唯是くんがいないと、暫く気絶していたんじゃないだろうかと思うと感謝しても足りない。

「帽子屋はスキル販売というのをしとる。それは客にも売っとるんやけど、結構いい値段するからお前らには……」
「うわぁぁぁぁ」
「はや……ん? なんか騒がし……って」
「え!?」

大きな音がし、人が上から落ちてきた。黒髪で宝桜学園の制服を着て……もしかしなくてもこの人はソルトくんだ。

「ソルトくん?」
「いたた……!? 陽菜か?」

がしっと私の肩を掴む。結構な高さから落ちて痛いはずなのにそれを感じさせ……いや、頭から血が流れているし、怪我している。

「良かった……モンスターにくわれたのかと……」
「心配……してくれたんですか?」
「!! べ、別に心配なんかしてねぇよ! ただ、そのだな……」
「?」
「さっきはキツイこと言った……なっと。それとモンスター居て危ないのに行かせて……その……」
「ソルトくん……」
「わるか……」
「ソルトくん!?」

バターンと大きな音が鳴るくらい、いきなりソルトくんが倒れた。あれだけ出血しているのだから立っていた事が奇跡だから当たり前か。

「ひよこ」
「唯是くんどうしましょうか!?」
「さっきの治癒術の練習台に丁度えぇな!」
「え、えぇぇぇぇ」

確かにそうかもしれないが、練習台っていうのはどうだろうか。
呆れながら、私はソルトくんを回復させ、唯是くんのスキルというワープを使い柏谷さんと合流し、唯是くんと別れた。



「陽菜ちゃんって治癒術使えるようになったのか~これでソルいつでも怪我しても大丈夫だな」
「な、なんスかその言い方! 別に俺すぐ怪我しませんよ!」
「……」
「なんスか! その無言は!」
「いや、ソルって……なんでもない」
「なんなんスか~~!」

唯是くんから貰ったものを食べながら、私はモンスターから助けて貰い治癒術を教えて貰ったチェシャさんにどうやったらまた会えるのかなぁっと考えていた。
町までの距離はまだまだかかりそうだった。

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