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体育館を満たす熱気が肌を焼く。
一瞬の静寂――そして、わっと上がる歓声。
「相馬、チャンスだ!」
分かってるって。
セッターの俺のもとに、真っ白いボールがまっすぐ飛んでくる。
宙に飛ぶアタッカーに視線を送る。
釣られろ……!
今だ――バックトス!
隼が宙を切る──俺たちの息はぴったり。
当然だ、小学生のころから一緒にやってきたんだから。
……けど。相手のブロックは完全に隼をマークしてた。
読まれてた?!
バシンッ!!
隼のアタックが決まった──
……はずだった。
ガンッ!!
何かが顔に直撃。視界が真っ白に弾ける。
あー……これあれだ。
ブロックされたボールが跳ね返ってきたやつ。
「痛ぇ……」
周囲が静まり返る。
観客席が、ざわ…っと揺れる。
ポタリ、ポタリ。
血が、俺の鼻から床へ。
「恥ず…」
隼が無言で近づいてきて――
え、まさか……悪い予感が……。
ぬちゃり。
……そのまさかだった!
こいつ、自分の汗まみれのタオルを、ためらいもなく俺の鼻に押しつけやがった!
うぐっ……!!
普通、自分の汗拭きタオルを人の顔に押しつけないよな?!
「おい、やめろ! ぬめってるからっ!!」
隼の凛々しい眉が、きゅっと寄る。
いや、眉を寄せたいのは俺だから!
顔の痛みと、鼻血の衝撃と、そして――
汗のイヤ~なぬくもり。
「クスッ……」
へ……?
今、俺のこと、笑ったやつがいる?
見ると、相手側の5番と目が合った。
その口元が、ニヤリと上がる。
……お前か。
カッと血が上った、その時――
ピーッと笛が鳴り、選手たちがコートを離れていく。
隼の視線が5番を射抜いた。
二人が、コートの真ん中でにらみ合う。
「隼、俺は大丈夫だから」
隼は俺を無視して、5番に一歩踏み出す。
やば……こいつ、俺のことになるとすぐキレるやつだった。
隼は俺たちのチームのエースアタッカーで、文武両道の完璧超人。
無表情で無口、クールなイケメンで、“氷のエース”なんて呼ばれている。
……なのに、俺のこととなると、すぐ熱くなって暴走する。
手が付けられないほどに。
一触即発の空気に、観客が息をのむ。
「おい、大丈夫だって……!」
違う。隼はこれじゃ止まらない。
なら――
「隼、俺……ダメかも?」
ぐるんっと、隼が振り返る。
次の瞬間、腰に手を回され、ぐっと引き寄せられた。
「やめ……!」
……ぐっちょり。
うん、そうだよね。俺たち、汗まみれだものね。
あのとき顔に押しつけられた汗拭きタオルがかわいらしく思えるほど、
今、俺たちはぴったり身体をくっつけて汗を共有し合ってる……。
壮年になって人生を達観したかのように、
俺は心を無にして、ただ受け流した。
もう片手であごをすくわれ、頭一つ高い隼に顔を向かされる。
隼の端正な顔が、ゆっくりと近づいてきて──
……いや、ムリ!
やっぱり受け流せない!
近い、近い、近い……近いから!
逃げようとする俺を、隼の腕がさらに抱き寄せる。
「直央……大丈夫じゃない?」
切れ長の目が、ゆらゆらと心配そうに俺の目をのぞき込む。
隼の甘い吐息が、唇を優しくなぞる。
うん、お前には悪意も何もないね。
ただちょっと俺のことになると、心配性で――
距離感がバグり過ぎてるだけで……。
「きゃーーーー!!!」
黄色い歓声が上がる。
「キス!」
そんな言葉が観客席で飛び交う。
──キスじゃないから! 本当に!
この試合に勝って地区優勝を果たしたら、
同じクラスの美羽ちゃんに告白する――そう願掛けしてたのに。
……ていうか美羽ちゃん、今絶対見てるよな。
ふと隼の視線を追う。
その先で、美羽ちゃんが顔を真っ赤にして、まっすぐこっちを見ていた。
もしかして、変なもん見せられて怒ってる?
うう……ごめん……美羽ちゃん……。
俺、相馬直央。高校二年の夏。
1年のころからちょっといいなと思ってた女子の前で、
全身男の汗まみれになりながら、キスしてると誤解された――さんざんな夏。
隼のおかげで、鼻血はたぶん止まった。
……淡くて甘い恋心と、俺の尊厳が代わりに流れ続けているけどな!!
この日を境に、俺の“バレーボール一筋”の高校生活は一転した――。
一瞬の静寂――そして、わっと上がる歓声。
「相馬、チャンスだ!」
分かってるって。
セッターの俺のもとに、真っ白いボールがまっすぐ飛んでくる。
宙に飛ぶアタッカーに視線を送る。
釣られろ……!
今だ――バックトス!
隼が宙を切る──俺たちの息はぴったり。
当然だ、小学生のころから一緒にやってきたんだから。
……けど。相手のブロックは完全に隼をマークしてた。
読まれてた?!
バシンッ!!
隼のアタックが決まった──
……はずだった。
ガンッ!!
何かが顔に直撃。視界が真っ白に弾ける。
あー……これあれだ。
ブロックされたボールが跳ね返ってきたやつ。
「痛ぇ……」
周囲が静まり返る。
観客席が、ざわ…っと揺れる。
ポタリ、ポタリ。
血が、俺の鼻から床へ。
「恥ず…」
隼が無言で近づいてきて――
え、まさか……悪い予感が……。
ぬちゃり。
……そのまさかだった!
こいつ、自分の汗まみれのタオルを、ためらいもなく俺の鼻に押しつけやがった!
うぐっ……!!
普通、自分の汗拭きタオルを人の顔に押しつけないよな?!
「おい、やめろ! ぬめってるからっ!!」
隼の凛々しい眉が、きゅっと寄る。
いや、眉を寄せたいのは俺だから!
顔の痛みと、鼻血の衝撃と、そして――
汗のイヤ~なぬくもり。
「クスッ……」
へ……?
今、俺のこと、笑ったやつがいる?
見ると、相手側の5番と目が合った。
その口元が、ニヤリと上がる。
……お前か。
カッと血が上った、その時――
ピーッと笛が鳴り、選手たちがコートを離れていく。
隼の視線が5番を射抜いた。
二人が、コートの真ん中でにらみ合う。
「隼、俺は大丈夫だから」
隼は俺を無視して、5番に一歩踏み出す。
やば……こいつ、俺のことになるとすぐキレるやつだった。
隼は俺たちのチームのエースアタッカーで、文武両道の完璧超人。
無表情で無口、クールなイケメンで、“氷のエース”なんて呼ばれている。
……なのに、俺のこととなると、すぐ熱くなって暴走する。
手が付けられないほどに。
一触即発の空気に、観客が息をのむ。
「おい、大丈夫だって……!」
違う。隼はこれじゃ止まらない。
なら――
「隼、俺……ダメかも?」
ぐるんっと、隼が振り返る。
次の瞬間、腰に手を回され、ぐっと引き寄せられた。
「やめ……!」
……ぐっちょり。
うん、そうだよね。俺たち、汗まみれだものね。
あのとき顔に押しつけられた汗拭きタオルがかわいらしく思えるほど、
今、俺たちはぴったり身体をくっつけて汗を共有し合ってる……。
壮年になって人生を達観したかのように、
俺は心を無にして、ただ受け流した。
もう片手であごをすくわれ、頭一つ高い隼に顔を向かされる。
隼の端正な顔が、ゆっくりと近づいてきて──
……いや、ムリ!
やっぱり受け流せない!
近い、近い、近い……近いから!
逃げようとする俺を、隼の腕がさらに抱き寄せる。
「直央……大丈夫じゃない?」
切れ長の目が、ゆらゆらと心配そうに俺の目をのぞき込む。
隼の甘い吐息が、唇を優しくなぞる。
うん、お前には悪意も何もないね。
ただちょっと俺のことになると、心配性で――
距離感がバグり過ぎてるだけで……。
「きゃーーーー!!!」
黄色い歓声が上がる。
「キス!」
そんな言葉が観客席で飛び交う。
──キスじゃないから! 本当に!
この試合に勝って地区優勝を果たしたら、
同じクラスの美羽ちゃんに告白する――そう願掛けしてたのに。
……ていうか美羽ちゃん、今絶対見てるよな。
ふと隼の視線を追う。
その先で、美羽ちゃんが顔を真っ赤にして、まっすぐこっちを見ていた。
もしかして、変なもん見せられて怒ってる?
うう……ごめん……美羽ちゃん……。
俺、相馬直央。高校二年の夏。
1年のころからちょっといいなと思ってた女子の前で、
全身男の汗まみれになりながら、キスしてると誤解された――さんざんな夏。
隼のおかげで、鼻血はたぶん止まった。
……淡くて甘い恋心と、俺の尊厳が代わりに流れ続けているけどな!!
この日を境に、俺の“バレーボール一筋”の高校生活は一転した――。
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