距離を取ったら、氷のエースに捕獲された件

米山のら

文字の大きさ
1 / 16

しおりを挟む
体育館を満たす熱気が肌を焼く。  
一瞬の静寂――そして、わっと上がる歓声。

「相馬、チャンスだ!」

分かってるって。

セッターの俺のもとに、真っ白いボールがまっすぐ飛んでくる。

宙に飛ぶアタッカーに視線を送る。  
釣られろ……!  
今だ――バックトス!

隼が宙を切る──俺たちの息はぴったり。

当然だ、小学生のころから一緒にやってきたんだから。

……けど。相手のブロックは完全に隼をマークしてた。  

読まれてた?!

バシンッ!!
隼のアタックが決まった──

……はずだった。

ガンッ!!
何かが顔に直撃。視界が真っ白に弾ける。

あー……これあれだ。
ブロックされたボールが跳ね返ってきたやつ。

「痛ぇ……」

周囲が静まり返る。
観客席が、ざわ…っと揺れる。

ポタリ、ポタリ。

血が、俺の鼻から床へ。

「恥ず…」

隼が無言で近づいてきて――

え、まさか……悪い予感が……。

ぬちゃり。

……そのまさかだった!

こいつ、自分の汗まみれのタオルを、ためらいもなく俺の鼻に押しつけやがった!

うぐっ……!!

普通、自分の汗拭きタオルを人の顔に押しつけないよな?!

「おい、やめろ! ぬめってるからっ!!」

隼の凛々しい眉が、きゅっと寄る。

いや、眉を寄せたいのは俺だから!

顔の痛みと、鼻血の衝撃と、そして――
汗のイヤ~なぬくもり。

「クスッ……」

へ……?

今、俺のこと、笑ったやつがいる?

見ると、相手側の5番と目が合った。
その口元が、ニヤリと上がる。

……お前か。

カッと血が上った、その時――

ピーッと笛が鳴り、選手たちがコートを離れていく。

隼の視線が5番を射抜いた。

二人が、コートの真ん中でにらみ合う。

「隼、俺は大丈夫だから」

隼は俺を無視して、5番に一歩踏み出す。

やば……こいつ、俺のことになるとすぐキレるやつだった。

隼は俺たちのチームのエースアタッカーで、文武両道の完璧超人。
無表情で無口、クールなイケメンで、“氷のエース”なんて呼ばれている。

……なのに、俺のこととなると、すぐ熱くなって暴走する。
手が付けられないほどに。

一触即発の空気に、観客が息をのむ。

「おい、大丈夫だって……!」

違う。隼はこれじゃ止まらない。

なら――

「隼、俺……ダメかも?」

ぐるんっと、隼が振り返る。
次の瞬間、腰に手を回され、ぐっと引き寄せられた。

「やめ……!」

……ぐっちょり。

うん、そうだよね。俺たち、汗まみれだものね。

あのとき顔に押しつけられた汗拭きタオルがかわいらしく思えるほど、
今、俺たちはぴったり身体をくっつけて汗を共有し合ってる……。

壮年になって人生を達観したかのように、
俺は心を無にして、ただ受け流した。

もう片手であごをすくわれ、頭一つ高い隼に顔を向かされる。

隼の端正な顔が、ゆっくりと近づいてきて──

……いや、ムリ!
やっぱり受け流せない!

近い、近い、近い……近いから!

逃げようとする俺を、隼の腕がさらに抱き寄せる。

「直央……大丈夫じゃない?」

切れ長の目が、ゆらゆらと心配そうに俺の目をのぞき込む。
隼の甘い吐息が、唇を優しくなぞる。

うん、お前には悪意も何もないね。

ただちょっと俺のことになると、心配性で――
距離感がバグり過ぎてるだけで……。

「きゃーーーー!!!」

黄色い歓声が上がる。

「キス!」

そんな言葉が観客席で飛び交う。

──キスじゃないから! 本当に!

この試合に勝って地区優勝を果たしたら、
同じクラスの美羽ちゃんに告白する――そう願掛けしてたのに。

……ていうか美羽ちゃん、今絶対見てるよな。

ふと隼の視線を追う。
その先で、美羽ちゃんが顔を真っ赤にして、まっすぐこっちを見ていた。

もしかして、変なもん見せられて怒ってる?
うう……ごめん……美羽ちゃん……。

俺、相馬直央。高校二年の夏。
1年のころからちょっといいなと思ってた女子の前で、
全身男の汗まみれになりながら、キスしてると誤解された――さんざんな夏。

隼のおかげで、鼻血はたぶん止まった。
……淡くて甘い恋心と、俺の尊厳が代わりに流れ続けているけどな!!

この日を境に、俺の“バレーボール一筋”の高校生活は一転した――。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話

ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。 運動神経は平凡以下。 考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。 ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、 なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・ ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡ 超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

Original drug

佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。 翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語 一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...