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俺、相馬直央。
いまだに幼馴染で、氷のエースこと黒瀬隼にがっちり抱きしめられたまま。
……コートのど真ん中で。
……観客が見てる中で。
……告白しようと決めていた女の子が見てる中で。
再び、心を無に――無に――無に――……
なんて、できない!
「俺、なんか色々……無理」
「分かった」
そう言ったかと思ったら、さっとお姫様抱っこ。
「姫抱ききたあああ!」
わっと盛り上がる黄色い歓声の中に、写真を撮るシャッター音まで混ざる。
やめて! 写真はやめて!
終わった。確実に。
俺はがっくりと、隼のたくましい胸に顔をうずめた。
俺は知らない。
隼が美羽ちゃんの方を向いて、勝ち誇った顔をしていたことを。
美羽ちゃんが俺が想像もできないほどの般若の顔で睨みかえしていたことも。
隼は俺を抱き上げたまま、顧問のゴリマッチョ・ハラセンのもとへ。
チームメートたちが心配そうに覗き込む。
「相馬、大丈夫か?」
ハラセンの心配そうな声。
「先生……俺、なんか色々と失った気が……」
「あー……」
先生もみんなも遠い目をする。
いや、帰ってきて? 助けてよ? 現在進行形で!
うるうるした目でみんなを見ると、
隼の腕がぐっと強くなる。
「ダメ、そんな顔」
低く、獣が唸るような声が落ちてきて、
思わず身体がびくっとした。
隼がそのまま俺の顔を胸に押し付ける。
「おいっ!」
必死にもがくけど、びくともしない。
「黒瀬、いったん相馬を下ろそうか」
ハラセンのなだめるような声。
隼の腕に、ぐっと力がこもる。
「今から相馬を見るから。お前も心配だろ?」
少しの沈黙。
そしてようやく、ゆっくりと俺を下ろしてくれた。
ハラセンが俺の瞳孔と鼻を確認して、つぶやく。
「……鼻の中が切れてるな。高橋、出番だ。準備」
「はい!」
一年のセッター、高橋が元気よく立ち上がる。
ハラセンがぽんっと俺の肩を叩いた。
「相馬はいったん休め」
「はい……え? ん?」
横を見ると、隼が――
ハラセンが叩いた俺の肩を、夢中でタオルで拭いている。
まるでばい菌でもついたかのように。
こすこす、こすこす、こすこす、こすこす……
こすこす、こすこす、こすこす、こすこす……
ハラセンが慌てて声を張りあげた。
「黒瀬、やめて……先生、泣くから! こう見えて繊細さんだから!」
……どうにか、みんなが試合に戻っていった。
21対24。
相手はあと一点で勝利。
高橋の早いパスが隼のアタックにヒット――
隼のスパイクがさく裂。
相手コートの5番の足元に突き刺さる。
やった!
22対24。あと2点で同点。
再びみんなが必死にボールをつなぐ。
高橋がトスを上げる――今度は別のアタッカーへ。
上手い……。
ボールが上手く回されて、次に誰が来るか分からない。
相手のブロックが右往左往。
バシンッ!
アタックが決まった――と思ったが、拾われた。
すぐに相手のアタックが返ってくる。
それを見事にレシーブして、高橋のもとへボールが戻る。
今度は――隼。
バシンッ!!
隼のスパイクが一直線に突き刺さる。
またしても、5番のすぐ横に。
5番が悔しそうに隼をにらみつける。
ざわり、と会場の空気が揺れた。
23対24。
あと一点――。
いける。
俺は確信した。
俺たちにとっては同点まで、あと一点。
相手にとっては、勝利まで、あと一点。
両者、譲らない。
ボールが何度も宙を往復する。
床に落ちそうな瞬間を、誰かの手がすくい上げる。
汗が、声が、コートを駆け抜ける。
――そして、また高橋にボールが返る。
高橋がパスを上げる。
隼だ!
バシンッ!
隼のアタックがさく裂。
また5番へ、まっすぐにボールが飛ぶ。
さっと5番が動いた――
取られた。
高く上がった白いボール。
セッターがフェイントで、そのまま打ち込んでくる。
対応しきれなかったチームメートの間をすり抜け、
ボールが床に叩きつけられ、転がった。
ピーッ。
試合終了のホイッスルが鳴り、相手の勝ちが決まる。
俺はただ、呆然とみんなが整列するのを見ていた。
まただ……。
小学校のとき、隼と全国へ行こうって約束した。
あれから何年経っても、まだ届かない。
隼が俺の方を見ている。
その視線の意味が、今の俺には痛いほど分かる。
俺があそこにいたら――
もっと隼を、高く飛ばせてやれたのに。
……俺は、トスを上げたい。
次は、誰にも届かない高さへ隼を導くために。
ぽんっと肩に手が置かれる。
顧問のハラセン。
「相馬、ちょっと話がある」
先生の顔が、いつになく真剣だった。
まるで――俺の知らない未来を見ているみたいに。
「マネージャー、先にミーティング始めといて」
ハラセンに促され、俺は立ち上がる。
整列するみんなを横目に、ベンチを離れた。
隼が、俺の動きを目で追っていることにも気づかないまま。
いまだに幼馴染で、氷のエースこと黒瀬隼にがっちり抱きしめられたまま。
……コートのど真ん中で。
……観客が見てる中で。
……告白しようと決めていた女の子が見てる中で。
再び、心を無に――無に――無に――……
なんて、できない!
「俺、なんか色々……無理」
「分かった」
そう言ったかと思ったら、さっとお姫様抱っこ。
「姫抱ききたあああ!」
わっと盛り上がる黄色い歓声の中に、写真を撮るシャッター音まで混ざる。
やめて! 写真はやめて!
終わった。確実に。
俺はがっくりと、隼のたくましい胸に顔をうずめた。
俺は知らない。
隼が美羽ちゃんの方を向いて、勝ち誇った顔をしていたことを。
美羽ちゃんが俺が想像もできないほどの般若の顔で睨みかえしていたことも。
隼は俺を抱き上げたまま、顧問のゴリマッチョ・ハラセンのもとへ。
チームメートたちが心配そうに覗き込む。
「相馬、大丈夫か?」
ハラセンの心配そうな声。
「先生……俺、なんか色々と失った気が……」
「あー……」
先生もみんなも遠い目をする。
いや、帰ってきて? 助けてよ? 現在進行形で!
うるうるした目でみんなを見ると、
隼の腕がぐっと強くなる。
「ダメ、そんな顔」
低く、獣が唸るような声が落ちてきて、
思わず身体がびくっとした。
隼がそのまま俺の顔を胸に押し付ける。
「おいっ!」
必死にもがくけど、びくともしない。
「黒瀬、いったん相馬を下ろそうか」
ハラセンのなだめるような声。
隼の腕に、ぐっと力がこもる。
「今から相馬を見るから。お前も心配だろ?」
少しの沈黙。
そしてようやく、ゆっくりと俺を下ろしてくれた。
ハラセンが俺の瞳孔と鼻を確認して、つぶやく。
「……鼻の中が切れてるな。高橋、出番だ。準備」
「はい!」
一年のセッター、高橋が元気よく立ち上がる。
ハラセンがぽんっと俺の肩を叩いた。
「相馬はいったん休め」
「はい……え? ん?」
横を見ると、隼が――
ハラセンが叩いた俺の肩を、夢中でタオルで拭いている。
まるでばい菌でもついたかのように。
こすこす、こすこす、こすこす、こすこす……
こすこす、こすこす、こすこす、こすこす……
ハラセンが慌てて声を張りあげた。
「黒瀬、やめて……先生、泣くから! こう見えて繊細さんだから!」
……どうにか、みんなが試合に戻っていった。
21対24。
相手はあと一点で勝利。
高橋の早いパスが隼のアタックにヒット――
隼のスパイクがさく裂。
相手コートの5番の足元に突き刺さる。
やった!
22対24。あと2点で同点。
再びみんなが必死にボールをつなぐ。
高橋がトスを上げる――今度は別のアタッカーへ。
上手い……。
ボールが上手く回されて、次に誰が来るか分からない。
相手のブロックが右往左往。
バシンッ!
アタックが決まった――と思ったが、拾われた。
すぐに相手のアタックが返ってくる。
それを見事にレシーブして、高橋のもとへボールが戻る。
今度は――隼。
バシンッ!!
隼のスパイクが一直線に突き刺さる。
またしても、5番のすぐ横に。
5番が悔しそうに隼をにらみつける。
ざわり、と会場の空気が揺れた。
23対24。
あと一点――。
いける。
俺は確信した。
俺たちにとっては同点まで、あと一点。
相手にとっては、勝利まで、あと一点。
両者、譲らない。
ボールが何度も宙を往復する。
床に落ちそうな瞬間を、誰かの手がすくい上げる。
汗が、声が、コートを駆け抜ける。
――そして、また高橋にボールが返る。
高橋がパスを上げる。
隼だ!
バシンッ!
隼のアタックがさく裂。
また5番へ、まっすぐにボールが飛ぶ。
さっと5番が動いた――
取られた。
高く上がった白いボール。
セッターがフェイントで、そのまま打ち込んでくる。
対応しきれなかったチームメートの間をすり抜け、
ボールが床に叩きつけられ、転がった。
ピーッ。
試合終了のホイッスルが鳴り、相手の勝ちが決まる。
俺はただ、呆然とみんなが整列するのを見ていた。
まただ……。
小学校のとき、隼と全国へ行こうって約束した。
あれから何年経っても、まだ届かない。
隼が俺の方を見ている。
その視線の意味が、今の俺には痛いほど分かる。
俺があそこにいたら――
もっと隼を、高く飛ばせてやれたのに。
……俺は、トスを上げたい。
次は、誰にも届かない高さへ隼を導くために。
ぽんっと肩に手が置かれる。
顧問のハラセン。
「相馬、ちょっと話がある」
先生の顔が、いつになく真剣だった。
まるで――俺の知らない未来を見ているみたいに。
「マネージャー、先にミーティング始めといて」
ハラセンに促され、俺は立ち上がる。
整列するみんなを横目に、ベンチを離れた。
隼が、俺の動きを目で追っていることにも気づかないまま。
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