9 / 16
9
しおりを挟む
試合のベンチ入りの返事を出せないまま、時間だけが過ぎていった。
毎朝、隼と一緒に学校へ行って、本を読んで考えて、
放課後は図書室で勉強して、
それから、また隼とパス練をして――。
そんな日々が積み重なって、気づけば期末試験も終わっていた。
そして――
「相馬、良くやったな」
化学の東雲先生が試験用紙を返してきた。
……91点。
「は……?」
思わず、息が止まる。
俺が……90点台?
「相馬は、やればできるんだから。この調子で頑張れ」
「……俺、やればできるんですか」
東雲先生が、少し意外そうに眉を上げた。
「なんだ、自分のことは自分が一番分からないってやつか? ……次、辻本!」
ずっと、どれだけやっても上手くいかない夢を追いかけてきた。
ようやく俺にも――やれば出来ることがあるんだと知った。
それが、人より秀でているものじゃなくても。
それで選ばれた人間になれるわけじゃないと分かっていても。
……でも、自分のものだって思えた。
席に着いて、試験用紙をじっと見つめる。
その数字を、ゆっくりと噛みしめるように味わった。
その日もまた図書室で勉強し、迎えに来た隼とパス練をして、
練習のあと、河原に並んで座って――なんとなく手をつないで。
隣から溢れる甘い空気が、くすぐったい。
「今日さ、化学の東雲にほめられた……」
「直央、すごい」
すごいなんて、そんなわけない。
隼なんていつもクラスの一番で、褒められ慣れてて……。
でも、自分のこと以上に嬉しそうな隼の顔に――
少しだけ誇らしく思えた。
「俺……勉強、頑張ってみようって思った」
「俺も」
「……うん。しよっか、一緒に」
パタパタパタパタ……
はは、うちの子(愛犬)が元気に尻尾を振ってる音が聞こえる。
「あ……そうだ、今週末って練習試合だったよな」
ぴたっと、尻尾が止まる。
心配そうな顔で俺を見つめてくる。
「もう大丈夫だから。俺、一緒に行くから。ずっと休んでたら逆に気まずいし……それに、お前の試合、特等席で見たいし」
「直央……」
握った手がきゅっと強く結ばれて――
俺の手の甲へ、そっとキスが落ちた。
……甘い。妙に甘い。
「……それからハラセンとも話したいし」
その瞬間、空気がぴりっと凍りついた。
え、えっと……なんか怒ってる?
「俺の直央、でしょ?」
いつかの朝を思い出させる、地を這うような低い声。
「ひっ……!」
『監禁されたいの?』って聞こえた気がした!!
いや無理無理無理、監禁はムリ!!
俺はぶんぶんと首を横に振った。
隼の目が、すうっと細くなる。
「違う? 俺の直央じゃないの?」
はっ――!!!
首の方向、まちがえた!!
今度は必死に、がくんがくんと首を縦に振り続けた。
「本当に?」
鋭い刃物みたいな視線に、喉がきゅっとつまる。
怖さに負けて、口が勝手に動いた。
「……隼の、もの……」
隼の腕が、獲物をゆっくり締め上げるみたいに絡んでくる。
食い込むような力で、呼吸が詰まった。
「このまま食べたい……」
いや、え?
練習でお腹すいた感じ……?
いや、それ今言う? この流れで……?
「じゃ、食べに帰るか?」
そう言った瞬間、隼が俺を後ろに倒して――
そのまま上から覆いかぶさってきた。
性急な手が、シャツの中に滑り込む。
顔が近づいて、くちびるが触れる直前でふっと止まった。
隼の目が揺れていて、何かに必死で耐えているみたいで――
え? なにこの状況……?
俺が首をこてんと傾けると、
隼ははぁーっと長いため息をつき、ゆっくり身体を離した。
「……ハラセンと約束した。直央が心を決めるまでは、食べない」
へ? ダイエット……なの?
なんでそこで俺が関係するの……?
「お、おう……?」
「帰る、いろいろムリ」
最後は完全に視線を逸らし、
ふらふらと立ち上がる隼。
……お腹が減りすぎたってことだよな?
こんなに体動かしててダイエットなんて……
エースって、大変だな。
がっくりうなだれた隼が、俺に手を差し出してくる。
自然と、その手を取っていた。
「……直央」
「ん?」
「……次はないから」
え……? よく分からん。
そのまま、弱々しく指を絡めてくる隼と、
言葉のひとつもない帰り道を歩いた。
毎朝、隼と一緒に学校へ行って、本を読んで考えて、
放課後は図書室で勉強して、
それから、また隼とパス練をして――。
そんな日々が積み重なって、気づけば期末試験も終わっていた。
そして――
「相馬、良くやったな」
化学の東雲先生が試験用紙を返してきた。
……91点。
「は……?」
思わず、息が止まる。
俺が……90点台?
「相馬は、やればできるんだから。この調子で頑張れ」
「……俺、やればできるんですか」
東雲先生が、少し意外そうに眉を上げた。
「なんだ、自分のことは自分が一番分からないってやつか? ……次、辻本!」
ずっと、どれだけやっても上手くいかない夢を追いかけてきた。
ようやく俺にも――やれば出来ることがあるんだと知った。
それが、人より秀でているものじゃなくても。
それで選ばれた人間になれるわけじゃないと分かっていても。
……でも、自分のものだって思えた。
席に着いて、試験用紙をじっと見つめる。
その数字を、ゆっくりと噛みしめるように味わった。
その日もまた図書室で勉強し、迎えに来た隼とパス練をして、
練習のあと、河原に並んで座って――なんとなく手をつないで。
隣から溢れる甘い空気が、くすぐったい。
「今日さ、化学の東雲にほめられた……」
「直央、すごい」
すごいなんて、そんなわけない。
隼なんていつもクラスの一番で、褒められ慣れてて……。
でも、自分のこと以上に嬉しそうな隼の顔に――
少しだけ誇らしく思えた。
「俺……勉強、頑張ってみようって思った」
「俺も」
「……うん。しよっか、一緒に」
パタパタパタパタ……
はは、うちの子(愛犬)が元気に尻尾を振ってる音が聞こえる。
「あ……そうだ、今週末って練習試合だったよな」
ぴたっと、尻尾が止まる。
心配そうな顔で俺を見つめてくる。
「もう大丈夫だから。俺、一緒に行くから。ずっと休んでたら逆に気まずいし……それに、お前の試合、特等席で見たいし」
「直央……」
握った手がきゅっと強く結ばれて――
俺の手の甲へ、そっとキスが落ちた。
……甘い。妙に甘い。
「……それからハラセンとも話したいし」
その瞬間、空気がぴりっと凍りついた。
え、えっと……なんか怒ってる?
「俺の直央、でしょ?」
いつかの朝を思い出させる、地を這うような低い声。
「ひっ……!」
『監禁されたいの?』って聞こえた気がした!!
いや無理無理無理、監禁はムリ!!
俺はぶんぶんと首を横に振った。
隼の目が、すうっと細くなる。
「違う? 俺の直央じゃないの?」
はっ――!!!
首の方向、まちがえた!!
今度は必死に、がくんがくんと首を縦に振り続けた。
「本当に?」
鋭い刃物みたいな視線に、喉がきゅっとつまる。
怖さに負けて、口が勝手に動いた。
「……隼の、もの……」
隼の腕が、獲物をゆっくり締め上げるみたいに絡んでくる。
食い込むような力で、呼吸が詰まった。
「このまま食べたい……」
いや、え?
練習でお腹すいた感じ……?
いや、それ今言う? この流れで……?
「じゃ、食べに帰るか?」
そう言った瞬間、隼が俺を後ろに倒して――
そのまま上から覆いかぶさってきた。
性急な手が、シャツの中に滑り込む。
顔が近づいて、くちびるが触れる直前でふっと止まった。
隼の目が揺れていて、何かに必死で耐えているみたいで――
え? なにこの状況……?
俺が首をこてんと傾けると、
隼ははぁーっと長いため息をつき、ゆっくり身体を離した。
「……ハラセンと約束した。直央が心を決めるまでは、食べない」
へ? ダイエット……なの?
なんでそこで俺が関係するの……?
「お、おう……?」
「帰る、いろいろムリ」
最後は完全に視線を逸らし、
ふらふらと立ち上がる隼。
……お腹が減りすぎたってことだよな?
こんなに体動かしててダイエットなんて……
エースって、大変だな。
がっくりうなだれた隼が、俺に手を差し出してくる。
自然と、その手を取っていた。
「……直央」
「ん?」
「……次はないから」
え……? よく分からん。
そのまま、弱々しく指を絡めてくる隼と、
言葉のひとつもない帰り道を歩いた。
155
あなたにおすすめの小説
「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話
ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。
運動神経は平凡以下。
考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。
ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、
なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・
ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡
超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子
Original drug
佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。
翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語
一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる