人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら

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番外編

寝たふり大作戦

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「ミケ、ミーケ……」

しゃっしゃっ、しゃっしゃっ……
オレはなぜか超絶人気俳優・白瀬洸に、豚毛だか羊毛だかのブラシで、絶賛グルーミング中。

うざい……ものすごーくうざい。

でも――

実はオレ、今日は逃走を計画。
そのためにも、今は寝たふり!

オレは滅多に使わない演技力を総動員して、くるりんっと身体を丸めた。

「まだ、ねぶてくてよ……」

よし、完璧。
見るからに“おやすみ続行中”!

「寝てる演技……可愛い……」

……今なんつった?

今度は洸がオレを引き寄せて、サワサワとアゴや耳をくすぐってくる。

イライラ、イライラ……
でも……寝たふり!

ちゅっ、ちゅっ……頭、そして顔中にキスが落とされる。

キスはだんだんと下へ。
首すじに、ちくり、ちくりと小さな痛みが走る。

「んんっ……」

痛い。
っていうか、うざい。

イライラ、イライラ……
それでも……寝たふり!

「ミケ、好きだよ……食べて、私の中に閉じ込めてしまいたい」

ぎゅーっとシーツごと抱きしめられ、洸のご立派な逸品が押しつけられる。

昨夜、いや朝方まで何度もしたのに……
こいつ、やっぱバケモノ!

思わず洸をにらみ――
いや、落ちつけオレ。
演技は完璧。アカデミー賞も夢じゃない。

よし、このまま続行――

オレは手で目をこすこす。

「まだ、ねでら……」

「可愛い……うん、食べよう」

……へ?

洸がオレの耳もとに顔を寄せ、甘い声でささやいてくる。

「ミケは寝てるとき、いつも“ミケのこと食べて”って、おねだりしてくるよね」

「んっ……!」

甘い声に混ざった吐息に、びくんっと身体が反応してしまう。

ってか、オレ、そんな恥ずかしいこと言ってた……?

いやいやいやいや、ないない!
オレ、そういうキャラじゃないし!

「あれ? ミケは寝てないのかな? いつものおねだりがないのは、おかしいよね?」

言う……のか、オレ?
羞恥に息が上がる。

「た……」

「ん?」

頬が熱くなって、涙まで滲んできた。

「たべ……」

ムリ、ムリ、ムリ!! やっぱ無理!!!

ゴロゴロゴロゴロッ――!!

思わずオレは大きなベッドの上を転がった。

「ふふ、今日はいつもより寝相が悪いね」

洸がオレの腕をつかみ、ゆっくりと身体ごと覆いかぶさってくる。

「大丈夫、ミケなら出来るよ。 だって……ミケは寝ているんだものね?」

涙でにじむ視界のせいで、洸の嗜虐的な笑みに気づけなかった。

「た……べて、けろ……」

「うん、いただきます」

洸の手がオレの頭をつかんで引き寄せる。
肉厚の舌が無理やり入り込み、逃げるオレの舌を絡めとる。

「や……」

そして――洸の手がオレの足を押し広げて……

オレはなんとか立ち上がり、バシッと洸のご自慢のご尊顔を踏みつけてやる。

「だがら! さっきがら、ねでらって……!」

オレははっと息をのむ。

「ねで……」

これじゃ今まで、イライラに耐え、羞恥プレイまで乗り越えてきたオレの名演技が……
アカデミー賞が……!!

よし、演技に戻ろう。

「もう、くわれねじゃ……」

洸の目がすっと細められる。

「えっと、それは寝言ってこと?」

よし、寝言で通った。いい調子。

オレは再びベッドの上で丸くなる。

「んだよ……ゆめ、みでらよ……」

オレの身体はあっさりと抱き上げられ、洸のひざの上にのせられる。
次の瞬間、ぐいっと腕を回され、呼吸すら奪うほど、強く、深く、抱きしめられた。

オレに回された洸の腕は、まるで逃げ道を塞ぐ楔のように、ねっとりと絡みついてくる。

「そんなに頑張って演技して……ミケは、何がしたいの?」

いつもの甘い声とはまるで違う、闇に沈んだ低い声。
そのあまりの冷たさに、オレはびくりと身体を震わせた。

「あー……洸さん、またくっついてるっすか……もう準備して出ないとっす」

マネージャーの言う「また」ってのも納得。

渋谷の一件のあと、洸はとにかくベタベタ、それからペタペタ。
家でも、移動中でも、仕事先でも――
オレを連れ回して、片時も離さず、しかもどこかしら触れてくる。

……考えただけでイライラ。

「ミケは今日は眠いそうだから家で留守番かな。私はシャワーを浴びるから、ミケの朝ごはんを用意してくれる?」

「え……いいんすか? 洸さん、大丈夫っすか?」

「そろそろ……ミケにも現実を教えてあげないとね」

――カチッ。

首に何かがつけられる。
ちりん、ちりん、と鈴の音。ぶっといチョーカーが、喉を締めつける。

「うん、これで……もう」

口元は笑っているのに、目だけは冷たく濁っていた。
その暗く淀んだ瞳でオレをじっと見つめると、洸は静かにベッドを離れ、シャワールームへと消えていった。

なんとか、防壁一枚目、突破。

「ミケさん、朝ごはん置いておくっすね」

マネージャーもキッチンへ。

防壁二枚目、突破。

今がチャンス!

オレはパチクリンと目を開け、呪いの上下をひっかぶり、
昨日から枕の下に忍ばせていた一万円をひっつかんで、スタタタターッと玄関へ。

「えっ、ミケさん!?」

ガチャリ。

玄関が開き――
オレはそのまま逃走した。
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