人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら

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番外編

逃走モーニング

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久しぶりの自由に、オレは上機嫌で――
チョーカーの鈴を、ちりんちりんと鳴らしながら、近くの本屋へ向かう。

パトラッシュに続いて、今度はラスカルを購入。
ラスカルを胸に抱えて、ほくほくと駅へ。

これから会いに行くのは、オレの逃走の目的――
そう、舎弟ども。

パシャ、パシャ……

ん?

なんか……カメラ音が、後ろからついてきてる?

振り返っても、それらしきヤツは見当たらない。

オレは首を傾げて、また歩き出す。

パシャ、パシャ……

やっぱり、ついてきてる……?

オレは思わず駆け出した。

そして、駅のホームでぜぇぜぇと息を整えていると、
制服を着崩した、おしゃれ高校生どもが寄ってきた。

「あ、ミケだ」

「うっわ、ちっせ~」

イラッ!!

三白眼を活かし、オレはぎろりとにらみつけてやる。

「はは、塩対応!」

「懐かね~~」

金髪野郎が、オレの頭に手を置いてくる。

バチンッ!

「痛っ……!」
「ぴっ……!?」

金髪野郎は手をまじまじと見つめる。

「なに今の……静電気?」

今度は、長髪野郎が手を伸ばしてくる。

「やめれ……」

バチンッ!

「びっ……!!」
「いってえー!!」

「うっわ、マジこえー……ガチで帯電してんの!?」

「とりま、投稿しとこーぜ。今月カツカツなんだわ」

「投稿って、なんだば?」

でも、オレの声なんて聞こえないかのように、
ヤツらはスマホでパシャパシャとオレを撮って、去っていく。

電車は混んでいて、乗るだけで何人もの肩にぶつかった。

バチンッ! バチンッ! バチンッ! バチンッ!

そして、その後もずっと、パシャ、パシャ……とカメラ音。

外、こわい……

洸の家の中は、いつも明るくて、
なーんにも心配いらなくて、
美味いごはんと、キラキラした洸の笑顔……

なんで、オレ、飛び出してきたんだろう?

ポロリ、と涙がこぼれる。

オレは他のヤツらに触れないように、車両の端っこで、
ずっとぷるぷる震えていた。

ようやく舎弟のもとにたどり着いたとき、
オレはすでに、へろへろのクッタクタ。

扉に手を伸ばした――そのとき。

「いらっしゃいませ~」

と、タイミングよく扉がひらく。

「ちょうどミケさまのお席、ご用意できたところです」

満面の笑みで、店員が迎えてくる。

「洸さんからモーニングのオーダーをいただいております。すぐにお持ちしますね。
それから、お昼前にお迎えに来られるそうです」

にゃー、にゃー、にゃー、にゃー……

舎弟どもが、わらわらとオレに身体を摺り寄せてくる。

あ……静電気、起きてない……

っつうか、なんで洸は、オレが来るの知ってんの?

あの静電気といい、カメラ音といい……
なんか、どす黒い気配が、じっとりとまとわりついてくる。

……わけ分かんないけど、ムカついてきた。

このまま、洸の言うことを聞いてちゃ、ダメな気がする。

……よし、オレ、他んとこ行く。

「また来るじゃ」

そう舎弟どもに言い残して、扉へ向かう。

店から一歩、外に足を出そうとした――そのとき。

「あっ、ミケさん! 危険だから店から一歩も出ないようにと、とのことです」

ん?

これ……オレ、知ってる。

小学校のときにやったやつだ。

「押しちゃダメ」って言われるボタン……
でも、みんな押すやつ。

うずうず、うずうず……
やっぱり……一歩……

オレは思いきって踏み出した。

バチバチバチバチ!!!

静電気が、全身を駆け巡る。

そして――オレはそのまま、ぶっ倒れた。
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