6 / 22
第5羽 竜人のお嬢様は、ご立腹?
しおりを挟む「少し、いいかしら?」
そう言って、私に声をかけたのは――、くるりと巻いた淡いピンクの髪。上品だけどどこか棘のある声。
ミア=ナロティーンさん。
シウくんから聞いたんだけど、どうやら竜人族の名家、ナロティーン家の令嬢らしい。いつも姿勢が良くて、自信に満ちた雰囲気をまとっている。
竜人たちの中でも、一目置かれる存在なんだって。
通りで、凛々しくひときわ目立つ存在感……。
シウくんとは、幼なじみらしくて、話す姿はよく見かけるけれど……私にちゃんと話しかけてきたのは、今日が初めてだった。
どうしよう。本当は断りたい、って思ってるけれど、そんな雰囲気でもなかった。嫌な予感がする。私の脳内で危険信号が点いてるの!
◇
連れてこられたのは、学園内でも静かな中庭の一角。魔法の照明花がふわりと灯っていて、精霊の森とはまた違った雰囲気だった。
優しい雰囲気に包みこまれるような気持ちだった。
でも、ミアさんの表情は――とても、柔らかいとは言えなかった。
「あなた。一色あやさん。率直に言うわ。シウに近づくのは、やめてくれない?」
「……え?」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
どういうこと?
「彼はね、私たち竜人族の中でも特別な存在。ドラティール家の次期当主であり、将来を期待される竜人なの。人間の女の子が、軽い気持ちで近づいていい相手じゃないのよ」
シウ=ドラティール……。昨日の授業後にシウくんから聞いた。竜王の家系だって。
確かに、人間の私なんかが間に入っていいような種族じゃない。で、でも私はまだそんなつもりじゃ……。
「そんなつもりじゃなかったって顔ね。でも、傍から見てればわかるわ。あなた、彼の隣に座ってから、何かと気にかけられてる」
……たしかに、シウくんはよく助けてくれる。
でも、それは私だからじゃなくて、ただ異世界初心者だからだと思ってた。そして、運命のいたずらなのかわからないけど、私の隣の席だったから。
「彼は――私が結婚を望めば、家同士の取り決めで婚約もできる立場よ。わかるかしら、この意味?」
ぞくっと、背中が冷たくなる。
わかってるよ。私なんて、何の後ろ盾もない、ただの人間。
だけど、どうしても言葉が止まらなかった。
「私、シウくんともっと話してみたいって思ってます。異世界のことも、彼のことも、もっと知りたいって」
震える声だったけど、精一杯だった。本心を思わず言ってしまった。
今までは、何も言い返せなかった。悔しかった。
ミアさんの瞳が、すっと細められる。
「……そう。ずいぶん大胆なのね」
「ち、違います! そんなんじゃ――」
「でも、あなたが選ばれたのも事実。なら、私も遠慮はしないわ。これからは、正面から勝負させてもらう。いいかしら? 一色あやさん。」
勝負――。
まるで告げられた決闘みたいだった。でも、彼女の顔には誇りと覚悟がにじんでいて、私は圧倒される。
本当に良いの……。私なんかが……。
自信なんてない。でも、逃げたくなかった。
「はい。……私も、正面から向き合います。」
唇が乾いて、心臓がどくどく音を立てていたけれど、それでも。
本心に嘘を付きたくなかった。
◇
その日の夜、私は寮に戻ろうと歩いていた時だった。
シウくんがいた。
一気に、私の顔が熱くなっていったのがわかる。さっき、ミアさんと話したことがよみがえってくる。
なんて、ぼんやりしていたら――。
「一色。」
低くて、凛とした声で私の名前を呼ぶ。
どうしよう。まともに目を合わせられない。
「様子が変だね。今帰りなのかい?」
や、やばい、どうしよう。頭が真っ白になってた。何か、返事をしなきゃ。なんて必死に頭をぐるぐる考えていたら。
「これから、ミアの所へ行くんだ」
ミアさんの……。そっか、そうだよね。
今私は、ミアさんの家から戻ってくる所、そんな道中に現れたってことはそうだよね。
私の頭の中に――「私が結婚を望めば、家同士の取り決めで婚約もできる立場よ」そんなミアさんの声が響いてくる。
「どうした? 明日も授業だからな。無理しないように」
シウくんが、ふっと笑う。その顔が、ほんの少し柔らかく見えた。
あれ、今笑った?
そうだ。余計なことばっかり考えてちゃ駄目。私は私なんだから。
頭をぺこっと下げたら、彼は長い尾をふわっと振って、スタスタと去っていった。
その背中を見つめながら、あたしは胸のあたりを押さえる。この感じ……。やっぱり。
その夜。寮の部屋に戻っても、胸の奥がざわざわして眠れなかった。
窓から見える空は、星が瞬いていて綺麗だったのに――心は、ずっと不安と緊張でいっぱいだった。
「はい。……私も、正面から向き合います」
なんて、ミアさんにはっきりと言っちゃったよ。これから、私の異世界生活、どうなっちゃうんだろう。
まだ始まったばかり。
だけど、確かに私の世界は、変わってきてる。
その変化に、ちゃんと向き合っていきたい。
◇◆◇
『留学体験レポート』
異世界二日目――。
今日は、課外授業でした。見たこともない生物や、植物と触れ合い、新鮮な気持ちを肌で実感します。
そんな日、ミアさんと少しだけ話しました。今までの私だったら、言えなかったことが言えました。
中学生の時だったら、絶対心の中に閉まってたであろう言葉が、自然と出てきちゃいました。
こんな気持、初めてです。この想い、気持ちを大事にしていきたいです。
1
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる