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第4羽 異世界の課外授業!
しおりを挟む異世界蒼天学園では、人間界でいう「遠足」のような課外授業があるらしい。
しかも、普通のバスや電車で行くわけじゃない。
校門に並んでいたのは、羽の生えた空飛ぶ、トカゲ……? にしか見えない乗り物。
「正式にはウィンドラコという種族だ。人懐っこく、安全性も高い。初心者向けの移動用ドラゴンだ。」
隣に立っていたシウくんが、事もなげに言う。
慣れているのか、手綱を持ってトカゲのようなドラゴンの鼻先を撫でるその姿は、まるでファンタジー映画のワンシーンだった。
さすが、王子様……。
彼らにとっては、こんな場面も日常のひとつだって言うのに、私にとっては一個一個の瞬間が、映画みたいだった。
「どうした? 撫でてみろ。」
彼はちらりと、私に目を向ける。
や、やばい。とりあえず乗ってみなきゃ!
私は、シウくんの見様見真似で、トカゲのようなドラゴンの鼻先を撫でて落ち着かせてみる。
本当だ。簡単に懐いてきちゃった。これなら私だって、乗りこなせそう。
◇
課外授業の行き先は、魔力の泉。
森の中、豊かな魔力を宿した泉の周辺は、生態系や文化について学ぶのに最適らしい。とはいえ、ほとんどピクニック気分でみんな盛り上がっていた。
「シウ! 見て見て、この泉、めっちゃ映える!」
と、楽しげにはしゃぐミアさん。ぴったりめの制服のスカートがひらひらと揺れ、ワインレッドの角と尻尾がキラキラ輝いていた。
シウくんは、それに対して面倒くさそうに反応していた。
そんな二人の後ろを、私が追いかけるように飛んでいく。
その姿を、ロイ=フォレスターくんが少し距離を置いて見ていた。
でも、……なぜか。
「やあ、君はたしか――留学生の一色あやさんだったね?」
ロイくんは、私の方に近づいてきた。
近くで見ると、想像以上に顔が整っていて、息が止まりそうになる。サラサラとした淡く金色に輝く髪、長い耳、爽やかな笑顔。
少女漫画から出てきた王子様みたい……。
「このあたり、よかったら一緒に歩かない? ガイドくらいできるよ」
えっ、ええと……。どうしよう。ちょっとだけ、胸がドキドキしてきた。
でも、なんでかわからないけど、無意識にシウくんのほうを見てしまった。
視線を感じた。
銀髪に、黒曜石の角。鋭い目つきで、ロイくんをじっと見ているのは――シウくん。
ちょっとだけ、眉にしわを寄せている。もしかして、……怒ってる?
「……すまない、一色は課題がある。同行は断る。」
「そういうの、彼女自身に決めさせたらどうかな?」
「だが、これは単位にも関わる課題だ。実習はペア制と決まっている。」
そんなこと、さっき聞いてなかった気がするけど……!
ペアなのは昨日の授業なだけで……。今回は、みんなピクニック気分で自由なはず!
でも、悪い気は全くしなかった。
私が曖昧に返事を濁すと、ロイくんはちょっと寂しそうに笑ってから去っていった。
ちょっと、悪い子としちゃったかな。なんて思いながらも、私たちは泉に到着した。
大きな泉の周りを歩きながら、私たちは課題に必要な魔水草という珍しい草を探すことにした。
シウくんと並んで歩く中、 ちょっとだけ気まずかった。どうしよう……。
まさか、彼が怒った雰囲気になるとは思わなかった。意外だった。
「さっきのこと……ごめんね?」
私は思い切って、シウくんに言う。
「……何がだ。俺の方こそ、すまない。勝手なことを言ってしまった。」
それだけ言って、彼は視線を泉へ戻す。
勝手だなんて、全く思ってなかった。ちょっとだけ、私のことを特別に思ってくれたのかも。なんて思った自分に、ドキドキしてしまう。
「見ろ、一色。あれが魔水草だ。」
「あっ、本当だ……!」
水辺に咲いた淡い水色の花が、きらきらと魔力の粒子を放っていた。
私は夢中になってしゃがみこみ、それをそっと摘み取る。今まで見たこともない花。思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。
「こういう瞬間、異世界に来たんだなって実感する」
「……ふ。」
「え?」
「……君は本当に、なんでもないものに価値を見出すのがうまいな。」
ちょっとだけ、笑ってくれた気がした。
シウくん……やっぱり、怖いと思ってたけど、ぜんぜん違う。
近くにいて、もっと知りたいって――そう思えてしまう。
胸がどんどん、締め付けられてくるように感じる。まさか……。
ううん。まだわからない。
私は、今その胸に秘めている気持ちを、そっと閉まった。
◇
そして、課外授業を終え、学園に戻ってきた。
私は教室の中で、窓の外を見つめていた。
空には、不思議な魔法陣や、飛んでるよくわからない岩。私に気づいて、手を降ってくれる妖精さん。
異世界での生活は、まだ始まったばかり。
だけど、今日みたいな日が重なっていけば――もっと、ここで違う私になれるかもしれない。
ふと、窓に映った自分の顔が、ほんの少しだけ大人びて見えた。
「どうして、ぼーっとしてるの?」
後ろを振り返ると、ミアさんの姿があった。今まで、近寄りがたい、そんな雰囲気をしていたから話したことはほとんどなかった。
「少し、いいかしら」
急に私に――!?
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