異世界留学!隣の席は、銀髪クールな竜人プリンス様だった!

飢杉

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第3羽 放課後と精霊たちの森

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 授業が終わると、私はいつも――みほと帰るのが習慣だった。
 だけど今日は、彼女は用事があるらしく、ロイくんたちとどこかへ行ってしまった。

「ごめんね、あや! 魔法陣の観測に行ってくる!」

 なんて言いながら。なんだかんだで、みほもいい感じで異世界に溶け込めているって感じがした。
 やっぱ、ロイくんは人間に興味があったから、あんな……「可愛い」だなんて言ってくれたんだろうな。

 残された私は、鞄を抱えて昇降口を出る。今日は寄り道もせず、まっすぐ寮に戻ろう。それに、思ったより課題がいっぱいある。留学体験レポートだなんて、聞いてないよ! 毎日書くのこれ……。

 ――そう思った、矢先だった。

「一色。」

 名前を呼ばれて、振り返ると。そこには、シウくんが立っていた。
 相変わらず、風で揺れる銀髪が輝いて見えた。本当に、カッコいい……。

「今から、付き合え。」

 え、付き合うって……。え、なに? 告白? そんな、急に……、心の準備なんて出来てないよ!?

「ん? 散歩だ。この世界の外を歩くのは初めてだろう。」

 ああ、なんだ。って、そうに決まってるよね。早とちりしちゃった。本当に恥ずかしい……。
 でも、確かに始めて異世界を歩くんだ。今までは学校内だから大丈夫だったけど、全く知らない世界で外を歩くのは確かに不安かも。
 気にかけてくれたんだ……。

 やっぱり、シウくんは王子様なんだ。

    ◇


 そのまま、二人は散歩しながら歩き付いた先は、学園の裏手に広がる精霊の森。
 もう陽が沈んでいるのに、魔力を帯びた木々と、空中に舞う光の粒たちが明るく森を照らす。まるで御伽おとぎ話しの世界みたいで、私は目を輝かせていた。
 本当に、綺麗で幻想的……。

「君の世界には、こういう場所はないのか?」
「あるにはあるけど……。今じゃ、自然はあんまりないんです。あっても、夜だとちょっと不気味な雰囲気というか……」
「そうか……、世界によって違う顔を見せるんだな。」

 シウくんは、ふと足を止めて、大きな木の根元に腰を下ろす。
 私もおそるおそる隣に座ると、彼が何かを取り出した。

 ――それは、小さな瓶に入った淡い青色の液体だった。
 ブルーハワイ……? とも違う、液体がキラキラ輝いて見えた。

「これは精霊のポーション。疲労回復と精神安定の効果がある。……飲んでみるか?」

 彼は私の前に瓶を差し出す。その指が、またしてもすらりとしていて美しい。角度によって見える、黒曜石のような爪が少しだけきらめいて見えた。

「……いただきます!」

 今まで、夢のような世界だけだと思っていたポーション。瓶の口に唇をつけて、一口。初めて異世界のポーションを飲む。

 ――甘い。ふわっと花の香りがして、身体の中がほわっと温かくなった気がした。それでいて、今日一日の疲れが、すーっと抜け落ちていくような感覚だった。

 おいしい……! レッドブルーとか、モンステアーとか、そんなエナジードリンクを遥かに凌ぐ美味しさ。そして、元気がみなぎってきた。
 でも、こういうのって高いよね。私なんかが、貰っちゃって良かったのかな。

「でも、これってすごく高級なんじゃ……」
「そうでもない。うちの屋敷では沢山に常備している。」

 あ、やっぱりお金持ちの王様なんだ。私は少しばかり現実に戻る。
 ……こういう人と、一緒に並んで座ってるって、私、ちょっと浮いてるよね。

 でも――。

 ふと、彼の横顔を見る。銀色の髪が、木漏れ日に照らされてやさしく光っている。黒曜石みたいにキラキラした黒い角も、尻尾も、彼にとっては生まれたままの姿。違うって、悪いことじゃないのかもしれない。
 気づけば、そんな風に思えていた。

    ◇


「――っ、あれ? なんか今、聞こえました?」

 ふいに、遠くから誰かの声がした。嫌な予感がする。怖い、とはまた違う別の感覚。

 そんな私を見て、シウくんが素早く私の腕を引き、茂みの影に引き寄せる。
 ち、近い……。こんなすぐ隣に、シウくんがいる。やばい、また胸がドキドキしてる。

 夢のような空間が、広がっていた。けれど、そんな空間はすぐ壊されてしまう。

「本当にロイ様、最近変わっちゃいましたわ。今日は私と帰る予定でしたのに。あれのせいですわね」
「あれって、ほら、なんだっけ? 魔力もない、地味な……。異世界の人間たち」

 女子生徒たちの話し声が聞こえてきた。私の噂だった。
 ……地味、って。たしかにそうなんだけれども、あからさまに言われると、やっぱり胸がちくりと痛む。

 異世界って聞くと、勝手にスキルとか、魔法が使えるなんて思ってた。けれど、そう甘くなかった。
 魔法も使えなければ、スキルなんてものも、貰ってない。
 今思えば、如月先生はどうやって勇者パーティの一員になれたんだろう……。

「聞くな。くだらない声に価値はない。」

 低く、でもどこか優しい声だった。私の耳元で囁いた、シウくんの吐息が、少しだけ私の髪を揺らした。

「君が、どう在るかは、君が決めることだ。」

 その帰り道、私は少しだけ背筋を伸ばして歩いた。顔は自然と笑っていた。まるで、強くなれたような気がして。

    ◇◆◇

 『留学体験レポート』
 異世界初日――。
 今日は、学校でシウくんと仲良くなりました。ミアさんや、ロイくん、色々な異種族と合いました。
 中学生の時に、私は地味で、誰にも必要とされていない。なんて思いながら、ずーっと閉じこもっていました。
 けれど、この異世界に来てから、まだ初日だけど。ちょっとだけ、自分が、変われた気がします。
 また、明日も笑顔でいられますように。
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