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第7羽 本にも載ってない気持ち
しおりを挟む授業が終わり、帰り支度をしていると、みほが図書館に誘ってくれた。
それと同タイミングでもうひとつ声が。
「……あ、それ。僕も言おうとしてたんだけどな」
後ろからスッと入ってきたのは、ロイ=フォレスターくん。さらりと金髪を揺らして、笑っていた。
みほは驚いていた。今日はロイくんと一緒に帰らないんだって思ってたから、私も驚いてる。
「実はちょっと、面白い資料があってね。人間族の昔の記録……君にも見せたかったんだ」
「え、私に……?」
「うん。君、人間代表みたいなとこあるでしょ? 興味ない?」
みほがこちらをじっと見る。彼女は彼女で、ロイくんに好意があるのを私は知ってる。だから、少しだけ胸がちくっとした。
でも――それよりも先に、好奇心が勝った。人間族の昔の記憶ってなんだろう。そもそも、この異世界にも人間族っていたの!?
「見たい……かも、です」
ロイくんは嬉しそうに微笑んだ。
◇
異世界蒼天学園の図書館は、まるでお城の一室みたいだった。
天井が高くて、棚には革表紙の本がぎっしり詰まっていて、空気は少しひんやりしてる。
「これ。千年前の人間と竜人の交流記録。あやが知ったら、びっくりするようなことも書いてあるかも」
ロイくんが差し出した本を、思わず大事に受け取る。
ページをめくると、絵巻物のようなタッチで、人間と竜人が一緒に剣を交えたり、談笑したりしている姿が描かれていた。
「……けっこう、仲良かったんですね……」
「うん。でも、そのあと色々あって、だんだん疎遠になって――今は、あやたちが初めての本格的な交流世代ってわけ。そもそも、昔に人間族は滅びてしまった。」
話ながら目をキラキラしているロイくんを、ふと、見ると……ロイくんと目が合った。
なぜだろう。ドキドキ、してしまった。
ロイくんは、いつも笑顔で軽い感じだけど、今の目は、どこか真剣で。
「君はきっと、橋になるよ。人間と、こっちの世界をつなぐ」
それって――シウくんも、そう思ってくれてるのかな?
……でも、私なんかが、そんな大役を? ふつうの女の子なんだよ、私。
中学生の時なんて、空気! いつも隅っこで、隅っこ暮らししてたんだから。
「――まあ、彼には負けたくないけどね」
「え?」
「シウだよ。あいつ、君のこと、かなり気にしてるでしょ?」
心臓がドクンと、跳ねる。
「君が気づいてないだけで、けっこう見てるよ? 彼、無意識に。ふふっ……やっぱり面白いな、君」
そう言ってうつむいたそのときだった。
「なにしてるの、ロイ。」
背後から、低く鋭い声が響いた。その場の空気が一瞬、凍る。
ロイくんは、肩をすくめて見せた。でも、一瞬ニヤって笑った気がした。
「ちょっと読書会してただけだよ? ほら、あや、興味ありそうだったからさ」
「一色は、そんな軽い誘いに乗るような人じゃない。」
「え? 軽いって、ちょっとひどくな――」
「私は……!」
思わず立ち上がった。声が、勝手に出ていた。
「私は、自分の意志で来たんです! ロイくんに教えてもらって……すごく、面白くて……!」
言いながら、私は自分でもびっくりしていた。こんなに大きな声で、気持ちをロイくんに言ったのは初めてだった。
昨日と同じような、本心が勝手に出てきてしまう感じが。
「……そっか。」
シウくんの目が、一瞬だけ揺れる。
「なら……それでいい。帰り道、気をつけて。」
それだけ言って、彼は背を向けた。彼は長い尾をふわっと振って、それがどこか寂しげだった。
私の胸に、また、ぐらっとしたドキドキがあった。そして、締め付けてくるような痛み。
シウくん……。
◇
その夜。私の中には、二つの顔が浮かんでいた。
笑顔で軽やかに話しかけてくれるロイくん。
まっすぐに、でも不器用に私を見てくれるシウくん。
どちらの前でも、心が少しずつ、ざわめいてしまう。
これって……どっちも、どっちなの……。
私は小さくため息をついた。
◇◆◇
『留学体験レポート』
異世界三日目――。
今日は、図書館に行きました。普通の図書館と比べて、とても広く、大きかったです。
今、私は揺れています。心が、気持ちが、私でもよくわかっていません。
でも、ちゃんと私と向き合うことが出来たら、その気持がわかるように思えました。
新しい私が、羽ばたくためにも。
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