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第8羽 えっ、身体測定って?
しおりを挟む朝のホームルーム。席に座っていると、隣から、ひときわ目立つ気配が近づいてきた。
「一色、今日の予定、覚えてるか?」
声の主は、もちろんシウ=ドラティールくん。
銀の髪が朝日を受けてキラキラしている。角も、尻尾も堂々としていて、やっぱり彼はどこか王子様みたいだった。
でも、少し気まずい。昨日のことが、私の胸を締め付けてくる。
「あ……えっと、今日は……保健の授業、ですよね?」
私の返事は、妙にギクシャクしてしまった。
や、やばい。ちゃんと目を見て、また話せなくなっちゃった。
「そう。だけど、こっちの保健は少し特別だ。……念のため、覚悟しておいたほうがいい。」
「え……?」
シウくんはそれ以上何も言わず、授業の準備に取り掛かっていた。
なにそれ、こわいんですけど!?
保健の授業に保険が必要なの? って、つまらなくなったな……私。
◇
というわけで、保健の授業――異世界流・保健授業が始まった。
「今日のテーマは、魔力検診と身体測定よ!」
張り切るのは如月先生。白衣に身を包み、満面の笑み。
「この世界では、魔力の流れで体調や感情まである程度わかっちゃうの! 今回はペアになって、魔力感知をしてみましょう」
ざわめく教室。私の中でも、イヤな予感が騒いでいた。
ペアって……まさか……!
案の定。
「一色、俺と組もう。」
シウくんが、当然のように手を差し出してきた。
断る理由が……ない。というか、断れる雰囲気じゃない。
そして、ロイくんの視線が遠くから痛いほど刺さるのも感じた。ご、ごめんなさいロイくん……!
でも、そんなロイくんをみほが誘っていた。みほ……。また、私の胸がぎゅってなる。
「では、向かい合って座って、手をつないでください。魔力が指先から流れ込むからね!」
如月先生の軽やかな指示のもと、私たちは机を挟んで手をつないだ。
――その瞬間。
あ……あっつ……!?
ジン、とする感覚が手のひらから伝わってくる。魔力なのかな。温かいのに、ビリビリして、なんだか胸の奥がくすぐったい。
「どうした?」
「っ……なんでも、ないです……!」
でも、心臓がドクン、ドクンってしてる。
シウくんの手は大きくて、熱すぎるわけでもない。どこかひんやりしていて気持ちが良かった。
でも、彼のその存在感が、すごくて。
「君の魔力、柔らかい。……気持ちいい。」
「え!」
顔から火が出そうだった。気持ちいいって……。
私の魔力一体どうなってるの!? てか、私でも魔力なんてあるの!?
そしたら、シウくんが、ふとまじめな目で言った。
「……俺の魔力も、おまえに伝わってるか?」
安心するような、でも、ドキドキもする。不思議な感じ。
そのとき、シウくんが指先に力をこめた。
「……よかった。俺の気持ちも伝わってるなら。」
もう一度、ドクンと胸が跳ねた。やばい、やばい。胸のドキドキが高まってきた。
手には、汗が滲んでいる感覚が、自分でもわかった。は、恥ずかしい……!
その言葉の意味を深く考える暇もないうちに――。
「ちょっと! それ、ズルくない?」
教室の後ろから、ミア=ナロティーンさんの声が響いた。
私たちを明らかに見ていた。
「感知って、ちゃんと手順を踏まないとダメなのよ? 一色あや、絶対ズルされてるわ!」
ズルってなんなの!? もう訳が分からないよ。手順って何!?
そういえば、シウくんに夢中でちゃんとした説明なんて、一切聞いてなかった!
「はいはい、落ち着いて下さい。次は、身体測定をしますよ」
如月先生が、間に入って止めてくれた。先生はやっぱり、頼りになるって心の底から思った。
◇
その後、私たちは学園の大きな庭に移動した。本当に広い学園なんだって実感する。
大きな噴水に、浮遊する岩。神秘的な光景だった。
身体測定って、何するんだろう……?
「では、まずは五十メートル走から!」
え! そこは普通にするの!?
如月先生が担当するからなのか、わからなかったけど、身体測定はいつもと変わらなかった。
でも、シウくんにロイくんは凄かった。身体能力も抜群だ。
勉強も、運動も出来て……、王子様だなんて……。本当にすごい。
「では、一色さんの番ですよ」
やばい! 私の番が来ちゃった。私は一生懸命走った。
この異世界に来てから、色々変わった気がした。だから、少しでも自分を変えたい。羽ばたきたい!
だけど、やっぱタイムは変わらなかった。恥ずかしい。こんな秒数見てられない。シウくんたちの四倍はある……。
私はずっと顔が熱くて、誰とも目を合わせられなかった。
そうして、なんとか身体測定をやり過ごした私だった。
でも、何度もよみがえる。
シウくんの言葉と、あの手の感覚。
あれって……「気持ち」って……まさか……。
――その意味に、気づいたのは、まだ少し先のことだった。
「一色、次は実技魔法の授業だぞ。」
シウくん……。って、実技魔法!?
私、魔力なんて扱えないんですけど――!
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