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第9羽 出て、私の魔法!
しおりを挟む「それでは、実技魔法の特別体験授業を行います!」
如月先生の元気な声が響くなか、私は内心そわそわしていた。
実技魔法って……わたし、人間だけど大丈夫かな……。そもそも、魔法も、スキルも使ったことないんですけど!
「ご安心を。今回は魔法の素質を試すだけ。安全なシミュレーションです!」
先生が笑顔で私に向かってウィンクする。よかった、とはいえやっぱり不安。
でもそれ以上に、気になっていることがあった。
さっきから、ずっとミアさんが私のこと睨んでるんですけど!
身体測定は、彼女も凄かった。竜人族の血を引いてるだけはあるなあ。
って、やばい、どんどん近づいてくる……。
「……一色あや、でしたかしら」
来た。
「あなた、さっきの保健の授業……ちょっと馴れ馴れしすぎじゃなくて?」
やっぱり怒ってる! ほ、保険の授業、……だってあんなことになるなんて、知らなかったもん。
「えっ、いや、あれは先生の指示で……!」
「言い訳しないで! シウ様の隣は、私の定位置なのよ!」
う、うわあ……! 淡いピンクの縦ロールと、ワインカラーの角が今日も目立ってる。
どうしよう。や、やばい雰囲気になっちゃった!
そして、周りを見渡せば、教室全体がちょっとざわついた。
「どうやら……気になる勝負の時間のようですね」
如月先生がわざとらしくこっちを見る。
「今日は、魔法の素質を光玉で試します! 自分の魔力で光の玉を生み出し、制御できた人が勝ち!」
あっという間に勝負の舞台が整った。
当然のように、私とミアさんが隣り合わせに並ばされている。
「どちらがシウの隣にふさわしいか、はっきりさせてあげる!」
ええええぇえ! そういう勝負だったの!?
本当に、魔力だどうだの、そもそも魔法だなんて、無理無理! 絶対無理だよ!
教室内の空気は、私たちに集中していた。
や、やばいよ……。シウくんが見てる。
「……いっせーの、せ!」
私たちは両手を前に出し、魔力を込める。
もう、どうにでもなれ! 私は目を思いっきり瞑って、シウくんと手を繋いだときのことを思い出した。
すると――。
「っ、出た……!」
私の手のひらに、小さな光の玉がふわりと浮かんだ。
やった……! できた……!
シウくんの方を見ると、少し笑ってる気がした。胸がドクンってなる。
白い色をしたひとつの光の玉が、少しだけ大きくなった。
「へぇ、やるじゃない」
ミアさんも、余裕そうに微笑む。彼女の光玉は、私の倍は大きくて、くるくると器用に回ってる。
さすが……竜人族、というか。普通に勝てるわけがないじゃん!
でも、私は諦めない!
そのときだった。背後から、いつも隣で感じてた匂いがした。
「……集中しろ、一色。」
後ろから聞こえた、落ち着いた声。
振り返ると、そこにはシウくんがいた。胸が、ドキドキ高鳴ってくる。
や、やばい……。手が震えてきた。
「君の魔力は優しい。無理に制御しようとせず、流れにまかせろ。」
そっと、私の手に手を添えてくる。
えっ……。また、手が温かい。震える私の手が、シウくんの手で安定を取り戻していく。
その瞬間、光玉がぽわん、とひときわ輝いた。
「なっ……!?」
ミアさんの声が裏返る。
私の光玉が、大きく、強く、色までほんのり桃色に――。
「これは……共鳴反応だね! 彼の魔力に、彼女の魔力が応えたってこと。なかなかないよ?」
ええぇぇ! なにそのラブすぎる説明……。
でも確かに、シウくんが触れてくれた瞬間、胸の奥がポカポカして、不思議と魔力が整った、気がした。
ミアさんが私を睨みながら、唇を噛む。
でもシウくんは、きっぱりと言った。
「俺は、彼女の力を信じてる。それだけだ。」
ミアさんがぐっと黙りこむ。
勝ち負けがどうとか、そんな雰囲気じゃなくなっていた。
でも――少しだけ。
シウくんの言葉が、胸にじんわりと染み込んだ。
信じてる、って……嬉しい……。
今まで、私が生きてる中、真剣に信じられたことなんてなかった。
期待させるだけ、期待させて、結局は落胆させちゃう。
だから、もう誰にも期待なんてさせないように自然としていた私がいた。
でも、今は違うんだって。自分に素直になれてる気がした。
◇
放課後。
「……ありがとね、シウくん」
「別に。事実を言っただけだ。それに、綺麗な魔力をしていた。」
彼の口元はほんの少し、緩んでいた。
き、綺麗だなんて……。ドクンって胸が跳ねる。ま、またドキドキと胸が高鳴る。
こうやって少しずつ、近づいていくのかな――。
彼の後ろ姿を見送る時、尾が跳ねるのを眺めていると、私まで嬉しくなってきた。
……って、思っていたのに。
「あや! 放課後、ちょっといい?」
後ろから、今度はロイくんが現れた。
「大切な話があるんだ。……君に、どうしても伝えたいことがあるんだ」
えっ……ロイくんまで……!
そ、それに、どうしても伝えたいことって一体なんなの!?
――どうやら、恋の色は、二色あるみたい。
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