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第10羽 校舎裏に呼び出し
しおりを挟む「大切な話があるんだ。……君に、どうしても伝えたいことがあるんだ」
そう言って微笑むロイくんの目は、まっすぐで、揺れる金髪の姿がまるで太陽みたいに明るい。
突然の呼び出しに、私はおろおろと首をかしげながら頷いた。
どうしよう。また、胸がドキドキしてる。シウくん……。
校舎の裏手にある、木漏れ日がきれいな中庭へ。
この場所、竜人族やエルフの生徒も魔力を整えるためによく訪れるらしい。
それにしても……ロイくんと二人きりって……緊張する……!
そういえば、二人っきりになるのは、初めてだった。
「ここ、気持ちいいでしょ?」
木の葉が揺れる音と、少しだけ甘い草の匂い。
そして、横を見ると、ロイくんの横顔が、まぶしいくらいキラキラしていた。
まるで少女漫画のワンシーンみたい……って、また何いってんだ私!
「ねえ、一色あやさん。……いや、“あや”って呼んでもいい?」
「えっ……あっ、う、うん……」
「ありがとう。あや、って響き……可愛いね」
ひゃああああぁ! 何この王子力……!
それに、異性から名前で呼ばれるのなんて……お父さんぐらいなのに!
心臓が爆発しそう。でもそれ以上に、彼の目が真剣で――少し、寂しそうだった。
「実はね、今日君を呼んだのは……ちゃんと伝えたくて」
ロイくんは、少しだけ言葉を選ぶように、続けた。
「最初は、珍しい人間だからって興味を持った。でも――それだけじゃない」
彼が私の手をそっと取る。
「一緒に過ごして、あやの優しさとか、頑張ってる姿を見て……惹かれたんだ。もっと君のこと、知りたい。」
ロイくん……。胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
優しくて、きれいで、人気者の彼が――私みたいな地味な人間の女の子に、こんな言葉をくれるなんて。
夢みたいな時間が、私の胸に深く刻まれた。
でも――。
「……ごめんなさい」
言っていた。
気づいたら、口が動いていた。
「えっ?」
「ロイくんは……本当にすてきだと思う。でも、私……今はまだ、誰かの気持ちに応える余裕がなくて……」
本当は――答えなんて、出てない。
だけど、心のどこかで、シウくんの顔が浮かんでいたから。
銀色の髪と、少し不器用な言葉。それでも、あの手のぬくもりが、忘れられなくて。
「……そっか」
ロイくんは、少しだけ微笑んだ。だけど、どこか切なそうだった。
「ありがとう。ちゃんと、伝えてくれて。……今は答えてもらえなくてもいい。君の今も、未来も――ずっと見守らせて。」
まっすぐすぎるその瞳に、私は何も言えなかった。
最初は、遊びなのかとか、チャラいのかな、なんて思ってた。けど、全然違った。
本当に、王子様みたいな人だった。
風がふわりと吹いて、木漏れ日が揺れた。
◇
放課後、帰りの廊下で私はひとり空を見上げていた。
なんだか、頭がぼーっとするような感じ。
必死に、頭の中で整理しようにも、ファイルがパンパンになって、ぐちゃぐちゃになってしまう。
そんな感じだった。
キャパオーバーだよ……。なんて思ってたら。
「……どこ行ってたんだ。」
廊下の影から、聞きなれた低い声。
そこには、腕を組んで立っているシウくんの姿があった。
えっ……シウくん? どうしてこの時間に……?
いつもと違って、どこか真剣な眼差しをしていた。
「見えてた。……わざとああいう所で呼び出すなんて、派手なやつだな。」
少しだけ、シウくんの眉がピクリと動いた。
や、やばい……見られてた! どうしよう。大ピンチ到来だ……。
「別に興味があるわけじゃない。ただ――。」
ふいに、シウくんが私の前に立って、少しだけ顔を近づけた。
「おまえは誰の隣に立つべきか、もう考えた方がいい。」
え……? どういうこと?
「じゃないと、――奪われるぞ。」
その瞳は、冗談じゃなかった。いつも真剣な眼差しを向けてくれる。だけど、今日は一段と特別だった。
鼓動が、ドクン、と鳴った。そして、強く締め付けられる。
この世界で出会った、プリンス様たち。
少しずつ、私の毎日が、色づいていく――。
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