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第12羽 恋は一回勝負?
しおりを挟む「それでは、次の特別課題は――異文化協力ペア合宿とします!」
如月先生の声が、朝の教室に響き渡った。
ぺ、ペア……合宿……?
口からぽつりとこぼれると、教室中の空気が一気にピリつく。
ペア。つまり、誰かと組むということ。
しかも「異文化協力」――つまり、種族の違う誰かと。
「先生、ペアって……どうやって決めるんですか?」
みほが挙手しながら、めっちゃ緊張した声で聞く。うん、わかる。これ、恋の一大イベントだから!
合宿でしょ!? 冷静でいられるわけないじゃん!
「もちろん、自分で選んでください!」
先生の宣言に、教室中がざわざわ、いや、バチバチに!
ええぇ、まさかの指名制!
さーて、誰が誰を選ぶのか、楽しみですね。って雰囲気の顔をしながら、先生は教室をキョロキョロ見渡していた。
先生は軽く見てるけど、こっちは命がけです!
教室内には、さりげなく視線を交わす子たち、そわそわする子たち……。
私も、シウくんの方を……見たい。けど、もし、ミアさんの方を見てたらどうしよう。なんて気持ちになってしまう。
そこに――。
「やあ、あや。」
背後から、ふんわりと甘いバニラの香りを漂わせながら、甘い声がした。
ロイくん――。キラッキラの笑顔、さわやかすぎて心臓に悪い。
「もしよかったら、僕と組んでみない? 異文化交流、僕たちならきっと上手くいくと思うんだ。」
まるで告白みたいに真剣な表情。
でも、私の口が何かを言う前に――。
「待て。一色は俺と組むんだ。」
冷たい声が割って入った。シウくんだ。
バサァッ!
空気が凍った! って本当に凍ってるんですけど!
氷魔法ってやつなのかなあ……。
「……えっと、私、まだ何も――。」
「異文化合宿だ。人間と竜人。十分に条件は満たしている。」
「おいおい、それを決めるのは、あや本人だよ? それに、氷魔法なんて使っちゃいけない。」
そう言いながら、ロイくんは風の魔法で冷気を飛ばす。
ロイくんも真顔になって、もうバチバチが止まらない!
ひぃー! これ、恋の火花ってやつなの!?
こ、こんな地味な私のどこが良いの……わかんないよ!
でも、さらに事態は混迷を極める。
教室内はヒートアップ……って、今度はなんだか、本当に熱くなってきた!
「ちょっと待って!」
縦ロールのピンクの髪がばっさりとなびく。
ミアさんが、熱気を、ううん、炎の球を右手で持ちながら立ち上がった。
え、なにそれ!? 火炎球ってやつなのかな……?
「私も! シウとペアになりますわ!」
「却下だ」
バサリ。さすがに、そっけなさすぎる。
「なっ、なによその言い方~! もう、信じられない!」
ミアさん、キレてる。ほんとにキレてる。
そして、みほまでがそわそわと立ち上がった。
「じゃ、じゃあ私は……ロイくんとペアになろっかなー、なんて! うふふ!」
「えっ! あ、ありがと……?」
え? これ、どうなっちゃうの?
もはや何が起きてるのかわからない私をよそに、如月先生がニッコリ笑う。
「ふふっ、青春ですね! では、ペア決定は放課後の体育館にて! じゃんけんで順番を決めて、指名してください!」
『じゃんけん!?』
……そんな中、私は決意した。
ちゃんと、自分の気持ちで決めなきゃ。
この先、誰の隣で学びたいのか。誰と、この異世界を歩いていきたいのか。
これは、ただの合宿じゃない。私の心の合宿でもあるんだ。
◇
「じゃんけんで、ペアを指名する順番を決めます!」
放課後の体育館。
如月先生の軽やかな宣言に、みんなの視線が一斉に集まった。
光る床、木の匂い、バチバチした空気。
異文化実習のペア決め――まさかのじゃんけんでスタート。
シンプルすぎるルールが、逆に緊張感を生む。
「順番は一回勝負のトーナメント形式です!」
「と、とーなめんとぉ……?」
「勝った人から順番に、好きな人を指名できます。異文化同士で組むことが条件。それ以外は自由!」
異種族とのペア――つまり、人間同士では組めない。
ってことは……絶対に誰かを選ばなきゃいけないんだ。
ドクン、ドクン。 心臓が、妙にうるさい。
くじ引きで決まった最初の対戦は、まさかの――。
「一色あやさん、シウ=ドラティールくん!」
わたしと、シウくん……。
「いきますよー! 最初はグー、じゃーんけーん……ぽん!」
――パー vs チョキ。
負けた。わたし、あっさり負けた。
「あや、ドンマイ……!」
みほがそっと声をかけてくれるけど、わたしの視線は前にいる彼から離せなかった。
無表情のまま、チョキを出したシウくんは、ふっと私を見つめる。
もしかして、わざと……?
だけど、そんなわけない。彼は真剣だった。
彼の冷たい瞳に、わたしの感情なんて読み取れるはずもない――と思った、そのとき。
「俺が最初か。」
シウくんが静かに一歩、前に出る。
「では……一色。俺と組め。」
「――えっ?」
「異文化実習。人間と竜人。問題ないだろう?」
体育館が、しん……と静まった。
あまりにも真っ直ぐな指名に、誰も口を開けない。
「い、いいの? 私で……」
声が震える。だけど、それでもちゃんと聞かなきゃって思った。
彼は一瞬だけ目を細めた。
それが、笑ったのかどうかはわからない。
「お前がいい。他に理由は必要ない。」
もう、体育館がざわざわ……っていうか、どよめきの嵐!
「えーっ!?」「マジ!?」「それって告白じゃん!」
わたしの顔が真っ赤になる前に、みほが小さく叫んだ。
「やば……かっこよすぎでしょ、シウくん……!」
「ふん、あの人間のどこがいいのかしら」
小さく唇を尖らせてるミアさんを尻目に、ロイくんが軽く笑って手を振る。
「こりゃあ、僕も負けてられないな~」
じゃんけんは続き、みんなの想いが少しずつ交差していく。
でも――わたしの胸の中は、さっきの一言でいっぱいだった。
“お前がいい”って……それは、勘違いでも、社交辞令でもなく。
彼の中の「選択」であり、「肯定」だった。
こんな言葉、初めてもらった。鼓動が、耳の奥で波のように揺れる。
……がんばらなきゃ。
この合宿が、わたしにとってただの授業じゃないことは、もうわかってる。
これは、誰かと心を通わせるための、はじめの一歩。
――そして、恋の一歩。
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