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しおりを挟むそうしてようやく……今度こそ、本当にようやく、理解した。
正確な数字はわからないものの、ここはどうやらティキが眠りについてから千年以上たった未来らしい。……どうりで言葉が通じなかったわけである。
ロランが舌に刻んでくれた術式のおかげで、ロランとだけはなんとか意思疎通できるようになった、ということらしい。そんな複雑な術式ができているだなんて、さすが未来と言うべきだろうか。
ロランの魔力はティキのものとくらべると大した魔力量ではなさそうだけれども、文明がいろいろ進んだぶん、複雑な魔法や技術が発達しているようだった。
ただ、ロランはというと相変わらずで、ティキが少し発言するだけで、そこから妄想と知識の海にダイブしてしまう。ゆえに、なかなか会話が進まないため非常に苦労した。
……もちろん、彼の独り言のようななにかの中から、ティキは昔と今のちがいや、銀命族――いまは古代種と呼ばれるようになった己の一族の過去についての知識を引き出すことにも成功したわけだが。
ティキの存在はかろうじて歴史の片隅に記されているほかは、謎に包まれた一族……ということになっているらしい。
そして目の前のロランは、歴史的な史料が紛失された〈暗黒時代〉と呼ばれる時代の――特に失われた古代魔法を司る古代種について専門的に研究しているひとらしい。だから、ティキの存在にああも大げさに反応していたわけだ。
古代の遺跡の発掘調査を進めるうちに、遺跡のなかに眠ったままでいたティキを見つけてくれたらしい。そしてこの、彼の研究所まで運んで、ティキにかけられた眠りの魔法と、彼女を蝕んでいた病について研究を続けてくれたのだとか。
結果的に、彼のおかげで目ざめることができた、というわけだ。
「ティキちゃんはなあんにも心配しなくて良いからね! あのその僕なんかじゃぜんぜんお力になれないとは思いますがっ生活に苦労しないように僕がんばりますからっ」
「ええと」
「ティキちゃんの言葉、魔力でつながった僕以外には通じないだろうし、僕コレでも古代種のことは相当研究していてっ、理解もっ! しますから! だから僕にティキちゃんのお世話をさせてください、あのそのついでに僕のお願いなんかも聞いてくれたら大変嬉しいわけでありますが」
「え、ええと……?」
怒濤の、と言うのがピッタリな気がする。
堰を切ったように一気に話すのは、この時代のひとの特徴なのだろうか。
ティキは比較的のんびりとした性格であったため、どうも彼の会話のはやさについていけない。
マネをして一生懸命長い文章で話そうとしたけれど、ロランはそれを必死でとめた。
ぜひ、そのままで。
古代の香りを感じていたい、と。
……恍惚とした笑顔で言われてしまえば、ティキとしても頷くしかない。
しかし、これから本当に世話になってしまっていいのだろうか。
この時代の事情がまったくわからないティキにとってはありがたい申し出ではある。
(この時代のことをしっかり勉強して……私は、生活して、子を……)
そうだ。
ロランのペースに巻き込まれてつい後回しになってしまっていたが、ティキには使命がある。
忘れてはいけない。
この血を繋がなければいけないのだ。
…………ちらっと、その相手にロランの顔がよぎったが、すぐに自らかき消した。
ない。
さすがにそれは、ない。気がする。たぶん。
ぶんぶんぶん、と頭を横に振り、気持ちを切り替えてたずねることにした。
「ロラン……で、では、申し訳ないけれども。お世話になっても、いいのかな。わ、私にできることならなんでも、するから」
「なんでも」
ごくり。
ロランが唾を飲み込んだ。
「ええ。銀命――古代種の研究をしているのでしょう? お話もいろいろできる、と思うし。それ以外にも、お手伝いできることがあれば」
「…………っ!!」
ティキの提案が衝撃が強すぎたのか、ロランはまた白目を剥きながら倒れかける。
けれどもティキは、瞬時に反応して回復魔法をかける。そしてロランの黄金色の瞳から滂沱の涙が流れる――ここまでの一連の流れがワンセットになってしまった。
……本当に……本当に、大丈夫なのだろうか、彼は。
うん、やはり、ロランを相手とするのはいろいろ難しい気がしてきた。
そもそも、まだ目が覚めて出会った一人目なのだ。ティキには使命がある。よりよき子種を得て、強き子を次代へと残さなければいけない。
どんなに大変だったとしても、相手は慎重に選ばなければ。
そう思うのに。
――ティキはめちゃくちゃ甘かった。
その後すぐ、いろんなことがすでに手遅れだったということを思いしらされることになった。
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