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本編

6.まさかまさかまさか!

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 ――あ、深い。
 煙草と香水の混じったような匂いがする。
 それだけでぼんやりしちゃって、わたしは首領のなすがままになってしまう。

 首領の膝のうえに座らされて、そのまま背後から抱き込まれる。ごつごつとした大きな手で、両方の乳房を一気に掴まれ、揉み拉かれた。

「ひゃ、あ、あ、……!」
「もう乳首勃ってやがる。いいな、肌もすべすべで、俺に可愛がられるためにあるみてえじゃねえか」
「ぁ、首領……!」
「ん。こっちも味見させてもらうか」

 もう片方の手でぐいっと顎を掴まれ、そのまま強引に後ろを向かされる。
 そしたら、厳つい首領の顔がすぐそこにあって、気がつけば唇を奪われていた。

 あ、煙草。
 ううん、葉巻の匂いがする。
 少し苦しくて、にがいキス。でも、舌は乱暴じゃなくて、優しく、わたしの舌を導いてくれる。
 ねちっこくって、何度もはむはむされて、キスだけで蕩けそうだった。

「おい。待て。俺が先に――」
「るせえ若造。そう苛立つな。嬢ちゃんが怖がるだろ?」
「……っ」

 いやいや、怖がるどころかご褒美なんですけど。
 怒った顔も苛立った顔も、推しの顔は全部美味しい。

 同じバグウィル同士の掛け合いはなおのこと。年齢がちがえば纏う雰囲気もかなりちがうこのふたりは、これまで歩んできた人生の重みの差が色濃く出てる。
 余裕たっぷりの首領は、騎士ウィルを諫めるように声をかけながら、よしよしとわたしをあやしてくれた。

「嬢ちゃん。すまねえな。コイツ、念願の嬢ちゃんを手に入れられてちいとばかし浮かれすぎてンだ」
「あの……わたし」
「ハハ。まあ詳しい説明は後だ。つっても、嬢ちゃんも薄々感づいているだろ?」

 薄々というか、まさかっていう思いだけがあるかんじ。
 夢じゃないかなって思うのに、感覚が妙にリアルすぎる。

 ここにいる――わたしが大切に強化したふたりのバグウィルは、まるでわたし自身をずっと知っていたかのような口ぶりだ。
 どういうこと?
 この世界に最初から配置されてた導手ではなくて、わたし――上芝結衣、本人を手に入れたと、そう言っているの?

 ぼんやりするわたしに首領はもう一回深いキスをして、両方の胸を揉み拉く。
 彼の手は大きく、力強くて、下から包み込むようにふにふにされると、それだけできゅんって切なくなった。

「おい、若造。ぼーっとしてねえで、しっかり解してやれよ。とっととしねえと、アイツ・・・が来やがるぞ」
「……チッ」
「斜に構えて格好がつくのは成人前までだぞ。坊ちゃん?」
「るせえ! 過去のテメエだろうが、俺は!」
「だな。ずいぶん粋がってた時分もあったもんだと、見るたびに小っ恥ずかしくて仕方ねえぜ」

 なんて諫めてるのか煽ってるのかわからないセリフを並べながら、首領はわたしに囁いた。

「な。嬢ちゃん。どうしようもねェヤロウだが、まァ、アンタに惚れてどうしようもねーんだ。許してやってくれ」
「惚れ……!」
「ちげェのか?」
「いや…………そうだ、けど、よ」

 わわわ、騎士ウィルが頬を真っ赤にしてる。
 でも……惚れ。
 ――――惚れ!?
 いますごい言葉が聞こえた気がする。
 けれども驚きはそれだけじゃあない。

「もちろん嬢ちゃんの気持ちはわかってるさ。これでもかってくらい、何度も何度も聞いてっからよォ」

 ん?
 何度も何度も……?

「周回、難関クエスト、ボスイベント……イヤんなるくらい連れ回してくれたろ? そのたびに、キャーキャー騒ぎやがって」
「だな。さすがわたしのウィル、ってか?」

 最推し?
 てか、周回? 難関クエスト? ボスイベ……? その言い回しは、非常に――うん。非常に現代じみていない?
 ゲームの登場人物じゃなくて、それを遊んでいるプレイヤー側独特の言語。めちゃくちゃメタくて、わたしは硬直する。
 ってか、さすがわたしのウィル! って……!
 鍛えすぎた推しの強さにうっとりしたとき、しょっちゅう呟いちゃってるセリフそのものじゃないですか!

 え?
 ……え???
 …………もしかして、聞こえてたの?????
 ゲームプレイ中の、わたしの声が?

「だから、いいよな?」

 首領に、耳元で囁かれて、わたしは彼のほうに視線を向ける。
 ぎらりとした赤い目と視線があい、そのまま目を逸らせなくなってしまった。

「このまま俺たちが、アンタを頂いちまっても。――だってアンタ、俺たちのこと好きなんだろ?」
「……え、あ……!」
「ま、俺たちはふたりだが――互いにどうしても譲れなくてな。殺しあいで決めてもいいが、それだと嬢ちゃんは悲しむだろ?」
「うん? えっ?」
「若ェ俺と、今の俺。諦めてどちらにも愛されてくれ」

 どちらにも……。
 それってやっぱり、ふたり同時に、ってことですか!?
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